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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

岸和田だんじり祭、車いすユーザーのための観覧ツアー報告
~車いすユーザーもカンカン場で「やりまわし」が見たい!~

東谷太

およそ300年の歴史と伝統を誇る岸和田だんじり祭は、全国的にも有名になったお祭りで、9月祭礼では、人口約20万人の岸和田市に、2日間で毎年約60万人もの観光客で街が溢れます。私たち、自立生活センター・いこらーの事務所は、まさにこの祭りの中心地に位置しています。

岸和田だんじり祭は、岸和田市民の生活の中に深く根付いていて、岸和田市を出て全国各地で暮らしている人たちも、だんじり祭の期間だけは帰ってくるというほど祭好きな人も少なくありません。それは、私たち車いすユーザーにとっても同じで、毎年だんじり祭を楽しみにしている人も多くいます。でも、車いすユーザーにとって、だんじり祭を間近で楽しむというのは決して容易なことではありません。普段は問題なく通れる商店街や路地も、祭りの期間中は身動きが取れないほどの人で埋め尽くされ、車いすでの移動は非常に神経を使います。

特に、一番の見せ場である「やりまわし」(※曳き手が走り、速度に乗っただんじりを方向転換させる動作)が観られるいくつかの場所は人気のスポットであるため、他の場所よりさらに人が多く、また、勢いよくだんじりや曳き手が走り抜けていくため危険も伴い、車いすユーザーは立ち入ることすらままならない状態となります。

この人気スポットの一つに「カンカン場」という場所があり、祭りの期間中は有料の観覧席が設置され、最も多くの観客が集まる場所となっています。観客が最も多いということは、曳き手にとっても気合いが入るため、必然的に見応えのある場所になっていきます。だからこそ、このカンカン場の観覧席は、お金を払ってでも観たい場所でもあるわけです。

でも、この観覧席は祭りの期間中だけ設置される仮設の観覧席であるため、車いすユーザーが観ることができるようなバリアフリーの設計とはなっていません。というよりは、そもそも車いすユーザーが「だんじり祭を楽しむ」という前提がないというのが実際だと思います。

そこで、今回、私たちは「車いすユーザーも岸和田だんじり祭を体感してほしい!」という思いから、車いすユーザーのためのだんじり祭観覧ツアーとして「試験曳き観覧と地車献灯提灯見学ツアー」を企画しました。

事の発端は、東京にあるNPO法人Checkという、多機能トイレの情報提供・発信を行なっている団体から岸和田市社会福祉協議会ボランティアセンター(以下、岸和田市社協)に、「助成金が取れたので、だんじり祭における車いす用トイレマップ作りを協力してやれないか?」という提案があり、企画がスタートしたようです。その後、岸和田市社協から、私たち自立生活センター・いこらーをはじめ、祭礼や観光にも関わりの深い関係者である、地元タウン誌の編集者のAさんや、岸和田市観光振興協会が運営する観光情報発信サイト「岸ぶら」の編集長を務めるBさんに相談があり、トイレマップ作りの話を始めました。

企画検討を始めてすぐに、先に述べたような、だんじり祭における車いすユーザーの現状の話になり、トイレマップ作りだけでは収まらず、車いす観覧席の設置へと話が発展していきました。

当初、観覧席の設置場所については、メインのカンカン場ではなく、比較的安全に観覧できるがメインスポットからは少し離れた場所への設置の意見も出ました。しかし、筆者が「私たち車いす利用者は、社会参加の機会が与えられたとしても隅に追いやられることが多い。たとえば、映画館で車いす席が設置されていても、一番前の席でとても見にくい場所にあって残念な思いをすることがある。仕方なしに与えられるのではなく、やっぱり一番いい場所でやりまわしを観られてこそ値打ちがある」と強く訴えた結果、初めからあきらめるのではなく、実現するかどうかは分からないけれど、一番のメインスポットであるカンカン場での観覧席設置を目指して検討していくことになりました。

こうして、話し合いを重ねる中で夢は広がっていきましたが、これを形にしていくためには、地元祭礼団体の協力が不可欠な訳で、果たして歴史と伝統のあるだんじり祭に、私たちの思いが受け入れてもらえるのだろうか?という大きな不安を抱えていました。でも、そんな不安に対して、AさんやBさんから、地域の人たちの立場に立った助言をもらえたことで、その不安も解消されていき、地元祭礼団体の皆さんからも快くご協力を得ることができました。

そして迎えた当日は、天候も良く絶好の祭り日和となりました。観覧席も思った以上に良いロケーションで、カンカン場のやりまわし全体が見渡せて、大勢の曳き手が勢いよく駆け抜けるさまが迫力満点で感激しました。観覧席でのだんじり祭見物後、18時からは、提灯を灯しただんじりが並んだ疎開道を歩き、篠笛奏者の人からだんじり祭の成り立ち、彫刻師の人からはだんじりに彫られている彫り物の解説もいただき、充実した企画となりました。

今回、参加していただいた皆さんの感想が新聞に掲載されたので紹介します。

初めてだんじり祭を観覧したという西宮市の人は「毎年すごい人出なので敬遠していた。この迫力は映像では伝わらない」。岸和田市の人は「久しぶりに祭礼気分を堪能しました」(以上、9/13産経新聞)。和歌山から参加した人からは「迫力のあるだんじりをまた、生で見られるなんて涙が出そう」(9/13毎日新聞)。「来年以降もこういう場をぜひ設けてほしい」(9/13朝日新聞)。このように新聞も産経、毎日、朝日の3社が取り上げてくれたので、地域に対する啓発効果も大きく大成功でした。

今回の企画が大成功に終えることができたのも、AさんやBさんのようないわゆる、福祉関係ではない、全く違う分野の人々との繋がりをつくることができたからであり、私たち障害者の自立生活運動も当事者性を大事にしながらも、これまで繋がってくることができなかった人たちに対するアプローチも広げていかなければと改めて思いました。

今回は、初めての試みということもあり、本祭りの前日の試験曳きの日の実施となりましたが、来年はぜひ、本番の本祭りの日に設定できるよう働きかけていきたいと考えています。

だんじり祭は、終わった瞬間から次の年の準備が始まると言われていますが、私たちの取り組みも来年に向けて動き出していきたいと思います。

(ひがしたにふとし 自立生活センター・いこらー代表)


【写真提供:岸ぶら】