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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

障害者権利条約「言葉」考

「あらゆる形態の雇用に係る全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止する」

斎藤縣三

今回の「言葉」は第27条「労働及び雇用」の中の最も重要な部分である。もう一つの項目「職場において合理的配慮が障害者に提供される」とあわせて、第27条の根幹部分を構成するこうした「労働及び雇用」における考え方は、1966年の国際人権規約(社会的規約)や1983年のILO(国際労働機関)の第168号条約などの流れを踏まえて制定されてきたものである。

障害者権利条約に対し、2007年に日本が署名して以来これを批准するにあたっては、この規定をクリアするために国内法の改正が必要と政府に認識されてきた。

2008年4月より「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」が厚生労働省に設けられて以降、一貫した課題として検討されてきた。ようやく2013年6月に障害者雇用促進法が改正され、その条文の中に差別の禁止と合理的配慮の提供がうたわれた。2016年4月から施行されることが決定したことで、批准にあたって一つの壁を乗り越えることができたといえる。

そもそも労働及び雇用における禁止されるべき差別とは何か、さらに、わが国にとっての新たな概念である労働及び雇用における合理的配慮とは何か、ということが全く明確にされていなかった。そのため2012年以来、差別の禁止と合理的配慮の提供ということの具体性を二つの指針として示そうと、現在、労働政策審議会障害者雇用分科会で議論が重ねられている。

現実社会はいかに差別の禁止や合理的配慮の提供を掲げてみても労働及び雇用をめぐる差別に満ち満ちている。先日あった熊本市での視覚障害者が公務員試験における点字受験が認められなかったことは象徴的な出来事である。それどころか、公務員の別枠採用というひとつの合理的配慮の中にあっても「自力通勤を条件とする」というような合理的配慮に欠けた差別が全国どこの自治体でもまかり通っている。

「労働及び雇用」という分野は「教育」分野と比しても、能力と競争が優先される分野であり、障害者への差別がある意味当然のようにみなされているといえる。能力の高い障害者であれば差別を受けないで済むことはあっても、能力的なハンディのある障害者であれば障害を理由とせずとも、障害者はいくらでも差別されはじき飛ばされるのである。

差別の禁止と合理的配慮の提供がどこまで実体化されうるのかはなはだ疑問である。合理的配慮の議論の中では、企業の側に過度な負担をかける場合は、合理的配慮の提供ができなくても許されることとなっている。それ一つをとっても労働及び雇用における難しさを物語っている。

あらゆる形態の雇用に係るというが、今日障害者は雇用されるにあたって正規雇用はすでに極めて狭き門であり、契約社員という期限付き雇用形態がほとんどである。またあらゆる形態の雇用という場合、企業への雇用が困難である20万人以上の福祉的就労の場に行かざるをえない障害者は雇用の対象から初めから外されてしまっている。これこそが差別ではないのだろうか。

(さいとうけんぞう NPO法人わっぱの会)