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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

時代を読む66

車いす使用者用公共トイレの始まり

始まり 日本で車いす使用者用公共トイレが始まったのは定かではないが、1964年の東京オリンピックでの改修頃からではないか。当時、練習のために都内スポーツ施設のバリアフリー改修が行われ、仮設でもあったが、車いす使用者用のトイレが多く生まれた。

福祉のまちづくりと車いす使用者用トイレ その後70年代前半までは、公共施設ではなく、60年代中頃に活発化するコロニー計画や障害者施設、リハビリテーション施設の中で、車いす使用者用トイレの工夫や実験が行われ、関係する研究者により少しずつ建築学会等で紹介され始める。一方、国際的なイベントである大阪万国博覧会(1970)の会場整備、心身障害者対策基本法の制定(1970)により、障害者のための社会環境の整備が萌芽を迎える。福祉のまちづくり運動の先駆けとして知られる虹の会等の市民グループは、三越仙台デパートのトイレを車いす使用者用に改修する要望を出し1971年秋に完成した。仙台のグループは、市内の公園や公共施設、計画が決定した東北新幹線仙台駅など広範囲に車いす使用者用トイレの設置要望を出している。

トイレの点検活動と車いす使用者用トイレマップ 1970年代の中頃になると、全国各地で福祉のまちづくり運動が活発になり、トイレの点検活動および車いす使用者用トイレマップの作製が、歩車道段差の解消や建物出入口のスロープ、点字ブロックの敷設とともに活動のシンボルになっていく。それまで家庭や施設内に閉じ込められていた車いす使用者にとって、車いす使用者用トイレが公共的な場に設置されるということは、本当に社会参加、自立生活の重要な一歩であった。1973年は福祉元年と呼称され、厚生省による身体障害者福祉モデル都市事業が始まった年であるが、この頃から鉄道駅に車いす使用者用トイレが出現し始める。公衆トイレにおける車いす使用者用トイレの設置はさらに先である。

車いす使用者用トイレの特徴 70年代初期の車いす使用者用トイレは、何といっても手作り感のある手すりが特徴である。写真のように三方を水平手すりで固めた柵のようなもの、何本も垂直手すりが壁の高い位置まで設置されたもの、いずれも手すりがしっかりと固定できるように工夫されている。便器も含めて病院や施設でのさまざまな工夫が街に出てきた感じであった。こうした車いす使用者用公共トイレの変遷は、外出手段である公共交通機関のバリアフリー化と大いに関係する。

今日では当たり前に車いす使用者用トイレがあるが、ポータブルトイレとそれを囲う布を持ちだしながら、障害のある友人と共に日帰りで公園に出かけたり、海や山に泊まりに出かけたことが懐かしい。

(髙橋儀平 東洋大学教授)