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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

知り隊おしえ隊

寒い冬だからこそ楽しめるイベント(北海道旭川)

五十嵐真幸

冬や雪と言えば、どんなイメージをお持ちですか?

雪が降ると、行きたい所に行けるか不安。厚着をするため、使えるトイレを探すのが大変というイメージから、外出する車いすユーザーが減り、街中で見かけることがほとんどありませんでした。

旭川には、バンクーバー2010パラリンピック銀メダリストのアイススレッジホッケー日本代表選手が4人在住しており、トリノ2006パラリンピック日本代表選考合宿を招致開催したり、障がい者スポーツの普及が盛んに行われ、次第に協力者や支援者が増えはじめました。このころから「誰にもやさしい街づくり」が始まっています。

私たちが活動を始めたのは今から9年前、2006年からです。その頃、車いすで飲食店やホテルに行くこと自体が珍しく、阻害されているわけではないのですが、どのように対応すればいいかが分からないスタッフがたくさんいました。それは活発に動き回る車いすユーザーが少なかったからで、対応の仕方が分からない不安から両者が遠慮がちになっていました。

車いすや障がい者のことを多くの方に知ってもらおうと、車いすの仲間が集まり「車いす紅蓮隊(ぐれんたい)」という名前で、店舗や施設のバリアフリーを調べるタウンウォッチングを開始しました。そして、夏まつりや冬まつりなど地元のイベントにも参加、たくさんの人たちとの交流が始まりました。

そこで私たちが実体験し、大切にしていることは、車いすや障がいがある人だけが楽しめるお店やイベントではなく、子どもから大人、高齢者も一緒になって楽しめるよう、お金がかかる大きな改修ではなく、多くの方が使いやすいよう工夫できることを、一緒に考えること、また、地元に住んでいる方が優しい楽しいと感じることができる街になることで、市外からスポーツや観光で旭川に行きたいと思ってもらえる街になることと考えています。

冬の旭山動物園では、運動不足解消のために雪の上をかわいらしく歩くペンギンの散歩が人気となり、多くの観光客が足を運んでいます。旭川の2月は「あさひかわ雪あかり」や「旭川冬まつり」を開催しており、冬しか楽しむことができないイベントが盛りだくさんで、障がいの有無に関係なく楽しめるよう車いす目線から会場のバリアフリー化を進めています。

旭川冬まつりは56年前から始まり、骨組みを使わず雪だけで作る雪像として知られ、2015年の雪像は高さ17メートル、横幅35メートルで、まつり会場を一望する高さ10メートルのテラスに車いすのままで昇れるスロープが造られています。

これは、私たちが旭川冬まつりのバリアフリーアドバイザーとして関わり、実行委員や雪像を制作する自衛隊の方たちによって、身体が不自由でも安心して楽しんでいただけるような工夫をしてくれています。

私たちが、雪国らしさとして掲げているのは、「雪で造るバリアフリー」です。雪が降ると、外出するのが大変なバリアになります。しかし、この降り積もった雪を逆手に取り、雪を固めて造るスロープが完成します。旭川冬まつり大雪像のバルコニーまでは、この雪で造られた車いす用の長いスロープがあり、スロープの途中には、休憩できる平坦なスペースや雪で造られたベンチがあります。さらに、雪で造るスロープと並走して100メートルのロング滑り台が造られています。

ここで大切なことは、身体が不自由な人のためだけに造るのではなく、ちょっとした工夫で、子どもも大人も楽しめるような会場づくりができることです。

その他にも会場へのアクセス手段として、車、タクシー、バスがありますが、いずれも雪像近くで乗降できるよう造成されています。暖まりながら食事ができる建物も緩やかなスロープで出入りをしやすくするなど、会場内で不便なく段差を少なくして楽しめるようになっています。また、車いすでも移動しやすいよう、足元の路面は雪で固められていますが、天候により車いすでの移動が困難になる場合があります。それでも安心して楽しんでいただけるよう、会場でサポートしてくれる市民の方を対象に貸し出し車いすの使い方、声掛けの説明会や、身障者用トイレの位置などを確認していただき、優しさでもお出迎えできるよう心掛けています。

また、インターネットでバリアフリー情報の発信も行なっています。きれいなオブジェだけの写真ではなく、雪で造ったスロープやトイレ、私たち車いすユーザーからみた会場の写真をそのまま掲載した写真付きマップを公開しています。旭川を訪れる方々の不安を少しでも取り除くこと、また次年度、足を運んでいただく準備にも活用していただければと思っています。普段、足を運ばなければ見ることができないバリア、バリアフリーを誰もが確認できるよう発信しています。

旭川冬まつりと同時開催で行なっている「あさひかわ雪あかり」も同様です。雪と氷でつくったアイスキャンドルに、ロウソクの幻想的なあかりを楽しんでもらおうと始まったイベントは、市民手づくりイベントとして、2015年で24年目を迎えました。2006年から私たち車いすユーザーが関わり始め、会場のバリアフリー化を進めています。車いすで移動しやすいよう足元の雪を固め、通路幅にも気を使っています。

このイベントの魅力は、「見る」だけの楽しみではなく、「体験」できることです。

旭川の冬は、氷点下10度や20度まで冷え込む寒い環境なため、バケツに水を入れ、一晩置くと凍ります。バケツを逆さまにするアイスキャンドルと同様に、ゴム風船でもアイスキャンドルを作ることができます。風船に水を入れ、紐で吊るす。夜間、冷え込むことで表面の水は凍るが、中心部の水は凍らない。翌日、風船を割ると中心部の水だけが抜け、風船の形になった氷にロウソクを入れると風船キャンドルの完成です。学生や企業、地元市民の手づくりイベントとして、障がいの有無に関係なく楽しめ、体験できるイベントがたくさんあり、会場に足を運んでくれた観光客から「きれい」と言っていただくことで、うれしさや楽しさも感じることができています。

体験という共通点から、もう一つ紹介したいイベントがあります。

旭川市の隣町、愛別町で開催されている「雪中(せっちゅう)ソフトボール」です。30年の歴史あるイベントで、30チームのエントリーを超える人気のイベントです。雪が降り積もり、真っ白のグラウンドでは白いボールは見えないため、真っ赤なボールを使用します。雪をかきわけながら追いかけ、雪に埋もれたボールを探さなければいけません。もちろん、ふかふかの雪なので車いすで移動することは不可能です。4年前、このイベントを主催している実行委員に声をかけてもらいました。「雪の中を車いすでソフトボールしてみないかい?」当然、私たち車いすユーザーも雪の中でソフトボールができるとは思っていませんでした。

車いすユーザーが、元気な人と一緒にソフトボールをするためにはどうしたらよいか、ルールを一緒に考えてくれました。

車いすユーザーが出場するグラウンドは、少し除雪をする。守備や走塁は、元気なチームメイトにお願いし、打撃だけをする。打った瞬間に、臨時代走がスタートする。

すでに、このようなルールで野球を開催している地域もあると思いますが、うれしかったのはこのルールを提案していただいたことです。車いすだけではなく、知的障がいや聴覚障がいの選手がいるチームも参加しており、まさにアダプテッドスポーツだと感じるイベントです。身体が冷え切った試合終了後は、愛別町の特産品でもある、きのこをたっぷり使用したお味噌汁で温まり、仲間と共に真冬の屋外でジンギスカンを堪能するのも楽しみの一つです。

冬になり雪が降ると、外出するには勇気が必要です。

一歩外に出ることで、たくさんの人と出会い、助けてもらうことができる。一緒にイベントに関わることで、障がいがある人の不便さや大変さ、その気持ちを伝えること、そして、気付いてもらうことができることで、障がいがあっても参加しやすいイベントへと常に変わっていくようになっています。このように、参加しやすいイベントが増えることで、地元市民、観光客、障がいの有無に関係なく誰にでも楽しめるイベントになります。

すべての人が楽しく参加できるイベントに一歩でも近づけるためには、参加したいという気持ちを持って、積極的に参加することが大切です。

夏の一大イベントでは、誰にも担げるみこし、UDみこしを担いでいます。車いすは乗る人により肩の高さが違うため、車いすユーザーだけでは担ぐことはできません。私たちが考えたおみこしは、みこしに車輪付きの台車をつけることで、全員手を放してもみこしが落ちてくることはありません。車輪の接地高さを変えることで、前後に揺らし、車いすのままでもみこしを担いでいる臨場感が生まれます。子どもや大人、障がいの有無に関係なく誰でも担ぐことができるおみこしになりました。2007年から担ぎ始めているおみこしですが、昨年の10月には旭川から沖縄までおみこしが空を飛び、現地の車いすや障がいのある仲間たちにも担いでもらっています。お祭りに行くだけではなく、誰もが自由に参加でき、一緒に楽しむ体験イベントです。

これからも一緒に考えて楽しめるイベントを企画していきます。工夫して使いやすいように、協力サポートしてくれる方たちがたくさんいる北海道旭川市、旭川近郊に興味を持っていただき、そして旭川にお出でいただき、寒い冬だからこそ楽しめるイベントを体験していただきたいと願っています。

(いがらしまさゆき カムイ大雪バリアフリーツアーセンター)