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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

全国二次障害問題シンポジウム in おおさか

高橋弘生

2015年2月15日(日)午後、大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)で、全国から約90人が参加して「全国二次障害問題シンポジウムinおおさか」が障害者医療問題全国ネットワークや全国肢体障害者団体連絡協議会の賛同のもと、肢体障害者二次障害検討会の主催で開催されました。

この取り組みは、昨年1月17日に東京オリンピック記念青少年総合センターで開催された、障害者医療問題全国ネットワークが主催した「全国二次障害問題交流シンポジウム」を引き継ぐ形で行われました。この時は東京・京都・大阪の3団体だけでしたが、今回は、愛知と滋賀を加えて二次障害問題に取り組んでいる5団体がシンポジストとして参加をしました。

そもそも「二次障害」とは、1970年代から障害者の社会参加や就労(労働参加)が進む中で表面化し、若年(20代・30代)でもともとある障害が重度化、または新たな障害が出現して社会参加や就労を断念せざるを得ない状況になり、ケースによっては、精神疾患も引き起こして、生きる意欲も阻害されていく現状があります。

たとえば、私自身もそうですが、二次障害の代表的な例で、アテトーゼ(不随意運動)型脳性まひの障害のある人の場合は、不断に生じる不随意運動と、生活や労働の中での無理が重なる環境が加わり、頚椎(首の骨)の変形やずれ等から頚髄(頚部の脊髄)を圧迫して起こる頚椎症性頚髄症(略して頚椎症)を若年より発症させることが多くあります。

この症状は、手足の痺(しび)れや痛みが生じ、日常生活能力を急激に悪化させて、排便排尿コントロール機能まで低下させる結果を生じます。ほかにも腰痛症や変形性股関節症、関節拘縮などがあります。脳性まひだけではなく、小児期にポリオに罹患し、成人期の早い時期に筋力低下や関節の痛みが現れて、日常生活動作能力が低下するポストポリオ症候群もポリオの二次障害として指摘されています。

二次障害発症のメカニズム―アテトーゼ型脳性麻痺の例―
図 二次障害発症のメカニズム拡大図・テキスト

私たち肢体障害者二次障害検討会は、1998年に大阪府下在住の500人を対象に肢体障害者二次障害実態調査を行いました。その中で「二次障害に常に不安や時々不安」を持っている方が77%という結果が出ました。現役も含めて一般就労経験者が43.6%で、退職された16.6%のうち4割の方が二次障害など身体のことが原因で若年での退職を余儀なくされています。そして、日常生活動作能力の低下は30代までに48%の方に起こっています(「二次障害ハンドブック」より)。

また、大阪での調査を元に2011年11月から2012年2月までの4か月間に、愛知で412人を対象に行なった脳性まひ二次障害実態調査報告の中でも68%の方が二次障害への不安があると回答しています。この調査で、二次障害があると答えた57.5%の方に原因は何かと尋ねてところ、もともとの障害が原因と答えた人が42.3%、加齢によるものが19.8%でした(「成人脳性マヒライフ・ノート」より)。

シンポジウムでは、まず、肢体障害者二次障害検討会代表の大井通正医師から二次障害の現状と課題提起があり、そもそも「二次障害とは何か?」についてお話いただきました。「二次障害とは、成人障害者に見られるもともとの障害の悪化または新たに出現した症状や障害のことで、しばしば動作能力の低下を伴う。二次障害の原因として、もともとの障害(一次障害)に加齢(年を重ねる)の影響が加わるだけでなく、その障害者の置かれている生活や労働の状況の影響が推測されている」と述べられました。

二次障害と生活環境が関係する例として、屋内移動が四つ這いで膝を痛めた方や、慢性的な手関節の炎症で生活の中で酷使して手関節が曲がらなくなった方の実例が報告されました。

二次障害予防や障害をもつ人の健康づくりの課題として、1.施設面の条件整備と個別メニューの作成、2.生活環境の改善、3.労働環境・労働のあり方の改善、4.容易に利用可能な健康診断制度の確立と早期受診の徹底、5.周囲からの援助を受けつつ当事者が健康自己管理能力を高めることがあげられ、障害のある人は、身体能力の余裕が少なく、日常生活、作業においてもしばしば最大限の力を要している。それが疲労の蓄積になり、二次障害の発現増悪の要因になっていると提起をされました。

それを受けてシンポジウムを開始。駒村健二氏(障害者医療問題全国ネットワーク代表・東京)は、2001年11月結成以来、脳性まひ、ポリオ等の二次障害問題に取り組み、機関紙の発行やシンポジウムの開催、二次障害を含めた医療問題の相談等の活動を紹介されました。脳性まひの障害のある自らの経験から、長時間の作業を避けることや定期的に頚椎や腰椎等の検診が必要と強調されました。補足発言として、同会事務局長の菊野弘次郎氏から「自ら頚椎手術を3回経験して、今度膝の人工関節手術をするが、自分の身体に合うのかは分からない。先が読めない。国はもっと障害への若い医師への研修や二次障害の研究を進めてほしい。無理をしないように無理をしましょう」と呼びかけました。

次に、渡邊覚氏(愛知肢体障害者こぶしの会事務局長)から、一宮市では毎年当事者団体と懇談の上、身体障害者健康診査事業を継続させていること。厚生労働省は、交渉時に二次障害について答えられる窓口がないと回答し、障害者リハビリは医療リハビリの体系外という認識の回答をしている。これは「障害を固定化したものという考え方が根底にある」ことを報告しました。

3人目の片山雅崇氏(滋賀肢体障害者の会「みずのわ」会長)は、学齢期と卒業後の二次障害予防・経験のための連携システム作りに向けた調査研究に医師や研究者との取り組みを報告して、二次障害への理解を広げることの大切さを訴えました。

4人目の竹内三紀子氏(頚椎症を学びあう会代表・京都)は、自らの頚椎症の経験から5人の仲間と会を立ち上げて、医師などの協力を得て医療講演会や親睦会などを実施して、インターネット動画の発信などの活動を紹介しました。

最後は、筆者(高橋)が、1.厚労省に二次障害問題対応窓口の設置、2.予防・治療・予後・環境対策専門検討チームの設置、3.障害別・環境別に分けた実態調査の実施、4.適切な医療が経年的に受けられるシステムの創設と総合的な二次障害対策の制度化、5.地域の医療機関の連携とネットワーク作り・そして専門医の養成、6.当面は、成人期維持期リハビリの保障等、課題の提起を具体的に行いました。

これを受けて、コーディネーターの増澤高志氏(肢体障害者二次障害検討会事務局長)から、「昨年1月に日本は障害者権利条約を批准し、この中身に沿った施策推進や法的整備が求められている。権利条約でも「障害者が障害を理由とする差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有する」としており、「職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること」とも明記されている。日本国憲法第98条には、「国が締結した条約は、これを誠実に遵守することが必要」とされている。権利条約に沿った施策の推進が不可欠」とまとめました。最後に、この5団体を中心に連携を密にしながら、二次障害問題解決に向けた取り組みを進めていくことを呼びかけるアピールを、参加者全員で確認し、次回は東京で、さらに広げた交流会にすることを発表してシンポジウムは閉会しました。

(たかはしひろお 肢体障害者二次障害検討会代表)