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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

療育に食育の視点を取り入れて
~多職種連携チームでの取り組み~

佐々木留美子

1 宮城県拓桃医療療育センターの概要

宮城県拓桃医療療育センター(以下、拓桃)は昭和30年に「宮城県整肢拓桃園」として設置され、昭和61年4月に「宮城県拓桃医療療育センター」と名称変更し、その後、病棟再編を経て、現在は病床数81床の整形外科・小児神経科・リハビリテーション科等を診療科目とする小児リハビリテーション・療育の拠点施設である。平成27年4月より、運営主体が宮城県から地方独立行政法人宮城県立こども病院に移行した。現在、医療型障害児入所施設として、子どもたちは保育や併設の拓桃支援学校に通いながら日々治療や訓練に励んでいる。多くの場合、入院期間が6か月から1年以上に及び、成長・発達期を親元から離れて長期間生活している。大切な成長・発達期を医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、保育士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士等多様な職種が療育チームの一員としてサポートしている。

2 医療型障害児入所施設の食育のあり方~院内食事委員会を中心に多部門からの検討~

拓桃は、医療型障害児入所施設として「治療」「訓練」「教育」「保育」が一体となった「療育」の場であり、子どもたちはここで「生活」をしている。食事は生活の中でも大きな比重を占めるが、適切な食習慣が成長や健康にどのような影響があるかという情報を伝える機会は案外少ない。さらに週末外泊者が多く、家庭との連携も重要な課題で、栄養部門からの保護者への関わりは決して多くはなかった。また、子どもたちの食の課題として、食体験の不足による偏食や嫌いなものを避けてしまう様子が見受けられた。

そこで、平成24年度に栄養部門では成長・発達期の大切な時期の「食」をどのように展開すべきか改めて検討し、本格的に食育を視点に据えた食事療養業務を開始した。医療機関の栄養部門の役割である1.治療の一環としての食事、2.個別の栄養状態及び身体状況等に基づいた栄養管理及び栄養指導に、3.として成長・発達に応じた食育の推進を加えた。他部門との共通理解を得ながら進めるため「食事療養年間計画」を作成し、重点項目を1.定期的な栄養・食育情報の提供、2.食への関心の増加を掲げ、それぞれに具体的な事業計画をぶら下げ、実施や進行管理を院内食事委員会(年6回開催)で企画・検討・決定した。委員である医師と看護師、言語聴覚士、保育士、管理栄養士、事務等各部門から忌憚(きたん)なく意見を交換してもらうことで実現可能性も向上し、部門間の協力も円滑になってきている。

3 食育の視点を盛り込んだ食事療養業務の展開

(1)定期的な栄養・食育情報の提供

イ.食育通信「たべさいん」の発行

「たべさいん」は仙台の方言で「召し上がれ」という意味で、この言葉をタイトルに食育情報を定期的に伝える食育通信(図1)を開始した。主な対象は保護者で、子どもたちの院内の食事の様子や簡単な栄養・食育情報を伝えるものとし、同じテーマで子どもたち向けに院内掲示も行い、外泊時に親子で共通の食の情報を持つことで食卓の話題になればと期待したものである。それまでは、栄養部門と保護者との連絡や情報は他部門を通しての形が多かったが、直接のやりとりができるきっかけになり、レシピの問い合わせや栄養相談等も増加した。

図1 食育通信(2種)の発行(保護者向け)
図1 食育通信(2種)の発行(保護者向け)拡大図・テキスト

ロ.計画的な栄養教育の実施

従来まで、各部門からの依頼により行なっていた栄養教育を食事療養年間計画により、事前にテーマや時期を設定し、保育部門や看護部門と連携し実施することで、タイミングよく実施でき、テーマ設定も各部門が感じる課題(例:朝食欠食、野菜の偏食、カルシウム強化等)を取り入れた。実施後には各部門スタッフが栄養教育の内容を踏まえ、日常的に声がけをすることで子どもたちにとっては食を考える機会が増加し、知識の定着につながっていったと感じている。

子どもたちが管理栄養士や調理師に会うと、積極的に「残さず食べたよ」「お肉は赤色だよね」等実際の食事とつなげて感想を伝えることも多くなってきており、単発の栄養教育をきっかけにチームにより日常的に啓発することで効果が上がってくると思われる。

(2)食の関心の向上

イ.献立作成方針の明確化

子どもたちの生活の場として、楽しくメリハリが効いた食事にするために献立作成方針を明確にすることとした。子どもたちが学校等から一旦(いったん)帰院する昼食に重きを置き、昼食は1.楽しみに感じる献立、2.学校給食をイメージした献立、朝食、夕食は原則として1.日本型食生活の体験、2.新たな食味の体験とし、さらに、子どもたちの希望を積極的に取り入れ、管理栄養士はできるだけ「(今日)食べたいものある?」「僕、これ嫌いだな」「まあ、一口食べてみて」などという家庭で行われるようなやりとりを意識し、子どもたちの要望を聞くことで画一的な食事をしているという受け止めから、「今度、栄養士さんが来たら何を頼もうかな?」と食事作りへの参加意識をもてるよう働きかけた。また、日々の調理スタッフとの打ち合わせにより調理作業工程を見直し、無理せず新メニューに挑戦できるよう土台づくりを行なった。

子どもたちの要望の中には、そのままの提供は難しいものもあったが、形をアレンジしたり、実施が困難な理由を説明することで、調理の条件や作ることの複雑さも理解してくれたようである。また、行事食は食を通じた広い会話につながればと暦のものだけでなく、ワールドカップやオリンピックなどその時々の社会的関心時も含めて年間計画を立て実施している。

ロ.アイデア献立~子どもたちの食事作り参加

日常での要望とは別に、子どもたちが考えた献立を実際の食事に提供するアイデア献立を実施している。学童以上を対象に、献立を考える前に栄養教育を行い、栄養のバランスを考えた食事作りのコツを伝え、グループワークを行い、皆が一生懸命バランスを考えながら食べたいものを組み合わせている。多くは普段食べている料理を記入しており、子どもの嗜好は食体験の影響が大きいと思われることから、成長・発達期での豊かな食体験の必要性を感じる。実施後、高学年(小学校4年生以上)の子どもたちは具体的な料理や食べやすい切り方などを提案したり、自分が要望した料理が出たことへのお礼を言ったりしてくれた。それを見て他の子どももお礼や希望を伝えたりと、積極的に食への関心の向上が得られていると感じられる。単に食べたいものだけでなく、1品1品栄養を考え、自分たちが考えたものが出たという気持ちを持ってもらうことで食事作りへの参加意識の向上が図れたと感じている。

4 他部門との連携による食育

(1)他部門発信の食育活動

院内食事委員会を通じ、少しずつ食に関して多職種連携が進む中、各部門で企画した食育活動との連携が増えてきた。看護部門では、野菜の偏食がある子どもに頑張って目標の回数を食べたご褒美として厨房訪問を企画した。保育部門では、勤労感謝の日に車いすの車輪や周辺を消毒し、白衣を着て厨房内で大きな釜を見たり、質問をしたり、調理者との距離も縮まったようであった。配膳車を押していると、重そうで大変と大きな声で「がんばれ~」と声をかけてくれるなど多面的な働きかけにより、食はさらに身近なものとなっている。

(2)保護者と一緒に食育

イ.親子クッキング~おにぎり作り~

保育部門から外部との交流事業で「白いおにぎりや豚汁が食べられない」「みかんの皮がむけない」などの課題があがり、「自分でできることは自分でする」「できないと思ったことに挑戦してみる気持ちを育むこと」をねらいに、昼食のメニューをおにぎりと豚汁にしておにぎりを子どもたち自身で作ってみることを企画した。さらに、入院中は家庭で一緒に食事を作ることが難しいかもしれないと保護者にも参加を募り、試食会も合わせて幼児を対象に「親子クッキング」を行なった。事前に保育の時間に紙粘土でおにぎり作りを練習し、栄養教育は食べ物と体の関係や当日の料理のお話をして子どもたちの気持ちを盛り上げていった。

当日は、どの子どもも自分のおにぎりの他におかわりをして豚汁もたいらげ、その後の食事でも頑張って食べている様子が多く見られた。また、ペースト食等を食べている子どもたちも一緒に親子で参加し、味覚刺激等の効果を期待し食材を触(さわ)ったり、香りを嗅(か)いだり(図2)と調理(作ること)を身近に感じることで、にぎやかな雰囲気の中、親子のコミュニケーションを持ちながら「食べることは楽しい・うれしい」という体験の機会となった。保護者にとっては頑張って食べている子どもの様子と合わせ、試食会を取り入れたことで、子どもたちが普段どんな食事を食べているのかを知ってもらう機会にもなった。

図2
図2 拡大図・テキスト

ロ.「おうちで・おいしく・かんたんクッキング」

拓桃では在宅支援や病気、障害の理解を進めるために地域・家族支援事業「お話シリーズ」として、年4回専門講座を開催している。その中で平成26年度は、摂食(せっしょく)・嚥下(えんげ)障害をもつ子どもを対象に食事をテーマに実施した。言語聴覚士、管理栄養士、看護師が中心となり、調理や介助に負担が大きい特別調理食(軟菜食、ペースト食等)を簡単かつおいしく作り、食事が親子にとって楽しい時間になるように、拓桃での献立・調理の工夫点等や保護者の工夫点を事前にとりまとめて紹介した。初の試みとして、調理者による実演(図3)や食事介助体験を取り入れ、実践的な内容となり好評であった。当日は他に医師、理学療法士、作業療法士、保育士、医療ソーシャルワーカー、支援学校教諭という多職種も参加し、保護者の疑問や悩みを総合的な解決にチームで対応できるなど食のチーム対応の効果を大きく感じたところである。

図3
図3 拡大図・テキスト

5 食育活動の成果~まとめとして~

3年間の多職種連携による取り組みを通じ、子どもたちの食への積極的な態度が日常的に増え、食への関心の向上は大幅に増加した結果となった。さらに平成25、26年度の食生活アンケート結果でも、給食を残す理由は「苦手なものが出た時」との回答が1年前の61.9%から52.6%と減少し、苦手なものにも挑戦している様子がうかがえる。偏食が多かった野菜では「好き・まあまあ好き」との回答が61.9%から73.6%へ、野菜の摂取頻度も「ほぼ毎食食べている」との回答が1年前の40.5%から57.9%と増加するなど、実際の食意識・食行動につながる変化として見えてきた。

子どもたちにとって食事の役割や食べ方を知ることは、将来の生きる力につながる重要な分野だが、食はさまざまな要素を持っており単一部門だけでは伝えることは難しい。幸い、拓桃では医療型障害児入所施設として常に多職種で連携し、治療やリハビリテーション、生活の支援を行なってきておりチームの土台があった。その中でもかつては連携が不足していた食事について、活動事例を重ねたことで集団、個別を問わず「食事を多職種(みんな)で考える」ことがスタッフ間で定着してきたと感じている。

食事は日常で大きな比重を占め、成長により課題も変化する。多職種による働きかけは課題の一時的な解決ではなく、個々の成長段階や生活背景を踏まえた多面的な支援につながることが期待される。食は誰でも、いつでも関わることが容易であり、かつ生きる力につながる重要なテーマである。拓桃の食育は、本格的に開始してまだ3年である。駆け足で進めてきたが、大きな手応えを感じ、今後の組織改編の中でも子どもや患者、保護者の時々の課題に応じ、多職種連携チームでの食育活動を展開していきたいと考えている。

(ささきるみこ 宮城県立こども病院栄養管理部、前宮城県拓桃医療療育センター食事療養部)