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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

配食・共食サービスを実施して

奥田龍人

NPO法人シーズネットとは

私どもは札幌市に拠点を置くNPO法人で、「豊かな高齢社会を創造するための仲間づくり・居場所づくり・役割づくり」をミッションとして活動している。会員数950人、平均年齢72.1歳のシニアの団体である。役割づくりの一環として、地域ケアにつながる活動を展開している。今年1月から、共に食べることを通した孤立防止の取り組みとして「配食・共食サービス」を行なったので報告したい。

配食・共食サービスとは

この事業は、「一人で食べても飽きるから残すけど、一度ヘルパーさんが時間外に一緒に食べてくれたらいつもよりたくさん食べた」(注:介護保険では認められないので時間外のサービス)ということを訪問介護事業者から聞いて、「食事を一人で食べるのと、誰かと一緒に食べるのではおいしさも違うのではないか、また、コミュニケーションのきっかけとしても食事は有効ではないか」という発想から、取り組むこととした。

介護保険サービスではヘルパーが調理することは問題ないが、一緒に食べるということは認められていないので、ボランティアがお弁当を持参するという方法で実施することとした。また、コミュニケーションが取れるようになると会食会などに誘うことで、より社会参加を働きかけることができるのではないかと考え、会食会にも取り組むこととした。

このサービスの具体的な内容は、事務局が障害者就労支援事業所で作るお弁当を受け取り、待ち合わせ場所でボランティアを乗せて利用者宅へ送り、ボランティアがお弁当を2つ持参して、利用者宅でコミュニケーションしながら同じお弁当を食べて、大体1時間ぐらい経ったら事務局がボランティアを迎えに行き、利用者宅を辞する、というものである。週2回、月曜日と木曜日のお昼ごはんの時間帯に実施した。事業実施期間は1月から3月と短い期間であったが、冬期間の方が引きこもりがちになるので、このサービスの効果があるのではないかと予測した。

利用者の負担は1回500円とし、ボランティアからもお弁当代として100円負担していただいた。連携する障害者就労支援事業所には、300円のお弁当を利用者とボランティアの分2つ作ってもらうこととして、利用者・ボランティアの負担(600円)でお弁当代を賄うこととした。

ボランティアの養成や利用者とコーディネートする運営にかかる経費がNPOの財源では厳しいので、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の社会福祉振興助成事業の助成をいただくことで実施することができた。まったく初めての事業であるので、地区を札幌市西区地区と限定し「札幌市西区在宅ケア連絡会」の全面協力を得て、西区内のさまざまな事業所・団体と連携して実施することとした。

札幌市西区在宅ケア連絡会とは、平成9年に発足した任意団体で、医師、看護師、ソーシャルワーカー、介護士、リハビリ職、ケアマネジャー、社協、役場、病院、施設、高齢者住宅の職員、学者など多数の職種が集う会であり、毎月80人以上が集まり、研修・情報交換をしていおり、平成27年4月で192回の例会を実施している。

障害者就労支援事業所との連携

このサービスのお弁当作りを担っていただいたのが、就労継続支援事業B型「キッチンとこだわり品の店コン・ブリオひだまり」(NPO法人札幌障害者活動支援センターライフ)である。コン・ブリオひだまりは、レストランを開いて昼食を提供するほか、テイクアウトのお弁当も作っている。今回、事業を展開する西区の中心部に事業所があるので、お弁当の受け取りなどに利便性が高く、この事業への協力を求めたところ快くご協力いただけた。コン・ブリオひだまりは、有機低農薬の野菜など安心安全な食材を選んでおり、お弁当も7分づきの白米を混ぜるなどの工夫をしてくれている。

配食・共食サービスのお弁当は300円で作っていただいたが、副菜がとても多く、かなりのサービスをしてくれたようである。利用者、ボランティアの評判も良かった。

共食サービスの実績

1月8日(木)~3月26日(木)まで、月・木の昼食時に実施した。実施日は19日、実施回数は40回、利用者は9人だった(登録者は10人だが1人当日キャンセル)。

ボランティアは9人の参加であり、10回が1人、7回が3人、3回が2人、1回が3人であった。利用者は9回利用が1人、7回が1人、5回が2人、4回が2人、3回が1人、2回が1人、1回が1人、当日キャンセルが一人であった。

なお、3月からの利用者のYAさん、Iさんは、ボランティアのYさん宅に集まり、一緒に食べるというミニ会食会のような実施であった。また、民生委員のMUさんは、この事業を知って知り合いの見守り対象者に勧め、自らがボランティアとして訪問した。はじめから顔見知りの関係でスムーズであった。

利用登録者10人の紹介先は、チラシを見て(2人)、シーズネット会員の紹介(2人)、主治医の紹介(2人)、ヘルパーステーション(1人)、地域包括支援センター(1人)、居宅介護支援事業所(1人)、民生委員(1人)であった。要介護度は、要介護2が1人、要介護1が1人、要支援2が4人、要支援1が2人、自立が2人であった。認知症は軽度の方が2人であった。その場でキャンセルした方の理由は、「紹介されてそういうのを利用した方がいいのかもと思っていたが、やはり人を自宅にあげるのはいやだ」ということであった。途中で利用を止めた方の一人は「ボランティアと話があわない」、一人は「ご飯が好みではない」、一人は「ご飯を食べるのに時間がかかり、ボランティアに気を遣う」であった。ずっと続いている方は、ボランティアとの相性がよかったのではないかと(ボランティアの報告書から)うかがえる。また、介護や支援が必要な方の方が続いている。

上の写真は、一緒にボランティアと利用者が食べているところである。

会食会への流れ

この事業では、共食の発展系として会食会を位置づけた。ねらいは、利用者の積極的な社会参加である。

会食会は、2月28日(土)に、地元の商店街の運営する地域交流スペースのレストランで実施した。利用者やボランティア、関係者など20人が参加、鮨職人さんと奥様方がボランティアで、握りたての生寿司を提供してくれた。

事業を振り返って

利用者が、見込んでいた数(当初40人を見込む)よりかなり少なかった(10人)ことが課題であった。

事業開始が当初計画(11月末開始予定)よりも1か月遅れたことも原因であろう。2月末からの新規利用者が4人もいたことから、この事業は徐々に浸透していく事業であることを痛感した。

また、事業をPR、実施する中で分かったことは、孤食に慣れている方はしつらえた共食サービスはあまり好まないようだ、ということである。配食・共食サービスがあまり拡大しなかったのは、PR不足とかではなくて、やはり他人を居宅にあげるということ自体に抵抗感がある方が多いということが推測された。

また、利用する中で、ボランティアとコミュニケーションができてくるとやはり効果があるサービスのようである。話が弾む、食欲がわく等の効果は、ボランティアの報告でも確かめられている。つまり、何らかの機会でコミュニケーションがすでにできている関係の場合は、ボランティアがお弁当を届けることがかなり有効なサービスとなると思われる。

具体的な反省のひとつとして、高齢者にプラスチック容器のお弁当は喜ばれないということも分かった。やはり、ご飯茶碗とお皿がベストであるとのことで、ホームヘルプサービスでの対応か、あるいはプラ容器やケータリング容器で配食された弁当をボランティアがお茶碗とお皿に移し替えて盛りつける、というような対応が必要となる。

一方、このサービスが本当に必要な方に届いていたのかという点も検討が必要である。ケアマネジャーからの意見では、「良いサービスだなとは思うが、利用者に勧めるとなるとハードルが高い。利用者がお金を払ってまで受け入れてくれるか」、「必要だなと思う人の多くは人を呼べるような部屋ではない」、「孤食に慣れている人は一緒に食べることを好まない」などがあり、もう少し受け入れられやすい方法の検討が必要である。

今後の方向性

まずは、利用者を高齢者に限らず障害者も対象として、地域生活支援事業の関係者にもPRしていきたい。この事業の目的は「食事を介在することによる社会参加」であるから、対象者はいるものと考える。そして、次のような仕組みを考えている。

1.配食サービスの付随サービスとして、たとえば月1回だけ配食弁当を二つ届ける。ボランティアが自分でその家に出向いて一緒に食事をとる。

2.ボランティアの自宅に配食サービスを届け、そこに利用者を招く形で行う。

3.傾聴ボランティアの一つの形態として、要望があれば食事を介在した傾聴ボランティアを実施する。

4.ヘルパーが調理をするだけでなく、作ったものを一緒に食べる。

このうち、4がもっとも効果的と考える。日常生活支援総合事業では市町村の裁量が大きくなるので、たとえば「訪問B」のように基準が緩和されたサービスでは、調理を提供して一緒に食べるというのが可能になるのではないか。利用者は自己負担をしてサービスを受けるので、消費者とサービス提供者という関係性が明確なので心理的抵抗が少ない。このような事業が総合事業で取り組まれるよう、提案していきたい。

なお、当法人は傾聴ボランティアを派遣する事業を行なっているが、3のように、食事を介在した傾聴ボランティアの仕組みも創(つく)っていきたい。実際に「外食を一緒にしてほしい」という要望があり、傾聴ボランティアの中で対応している。2のようなミニ会食会も効果があったので、町内会などで取り組めるよう提案していきたい。

これからの地域包括ケア

高齢者ケアにおける医療と介護の連携を目指して始まった地域包括ケアであるが、今はその概念が広がり「あまり費用をかけずに地域で高齢者を支え合う仕組みづくり」と捉えられる。確かに、急速に進む高齢化と足りない介護人材、社会保障費の高騰という難問を簡単に解決できる方法はない。しかも、国は介護予防や地域の支え合いの仕組みづくりを市町村の責任とした。

市町村が人口減、収入減などの厳しい状況でどのような地域包括ケアシステムができるのか。まさにNPOの出番ではないか。費用のかからない仕組みに対応できる担い手は、年金を受給しているシニア世代だろう。シニア世代が社会貢献することが求められている。この事業のボランティアもすべてシニアの方であった。私どもはそのようなミッションを掲げて、これからも提供する側が楽しさを感じられるサービス、創意工夫が活(い)きるサービスを創っていきたい。

(おくだたつと 認定NPO法人シーズネット理事長)