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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年5月号

障害者権利条約「言葉」考

「自立した移動」

今西正義

「自立した移動」という言葉は、障害者権利条約の第9条「アクセシビリティ」と第20条「個人の移動性」に関連し、障害者の社会参加の基礎的要件である自由な移動の保障について規定するものである。障害のある人が他の者と平等に自分の住みたい地域を選び、自分のスタイルに合った生活を実現していくことは当たり前のことである。日々の暮らしや仕事、学校等の社会活動をするためには、自分の行きたいところへ自由に移動することができなければならない。両条文の関係は、個人的な移動の確立から公共的な移動まで、連続した移動の確保が求められている。

個人的な移動については、第20条a項で障害のある人が、「自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、負担可能な費用で移動することを容易にすること。」、さらにはb項で「質の高い移動補助具、補装具、支援機器、人又は動物による支援及び媒介者のサービスにアクセスすることを、特に、これらを負担可能な費用で利用可能なものとすることにより容易にすること。」とされている。個人的な移動を容易にする観点から、障害者の地域での自立した暮らしを保障するため、車いすの支給や補助犬などの施策を講じる必要がある。しかし、市町村の格差による費用負担や利用制約は、個人的な移動を困難にさせている。

一方、公共的な移動については、第9条で「障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信、並びに公衆に開かれ又は提供される他の施設〔設備〕及びサービスにアクセスすることを確保するための適切な措置をとる。…中略…、特に次の事項について適用する。」とし、a項で「建物、道路、輸送機関その他の屋内外の施設〔設備〕(学校、住居、医療施設及び職場を含む。)」とある。自立生活の実現のためには、大都市に限らずすべての地域で、まちづくりや建物、鉄道、バス、航空機、船等の交通機関など、ハード、ソフト面でのバリアを除去しバリアフリー環境整備の確保が求められている。わが国では、2006年に交通バリアフリー法とハートビル法を統合したバリアフリー新法が制定され、障害者の移動環境は一定程度の改善が図られた。

しかし、この法律は旅客施設や車両等のバリアフリー整備を促すもので、障害者の移動の権利を保障するものではない。鉄道やバス、航空機等では乗車・搭乗拒否が、同様に飲食店や観光施設等でも入店・利用拒否がいまだに続いている。また、整備促進法にもかかわらず整備の大半は大都市に集中し、地方都市との地域間格差が著しく拡(ひろ)がってしまった。個人的な移動の確保ができたとしても、鉄道やバス等の公共的な移動が保障されなければ、自立した生活や十分な社会参加を果たすことができなく、権利としてトータルな障害者の移動の確保が求められる。

*条約の訳文は川島聡=長瀬修仮訳(2008年5月30日付)を採用した。

(いまにしまさよし DPI日本会議バリアフリー担当顧問)