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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年6月号

難病法施行と今後の難病対策の動向について

厚生労働省健康局疾病対策課

背景

わが国の難病対策は、スモンを契機として約40年前から本格的に推進されてきた。昭和30年ごろから原因不明の神経病として散発が認められていたスモンは、昭和42年から昭和43年にかけて全国的規模で多発し、大きな社会問題となった。このスモンに対する研究体制の整備が契機となって、いわゆる難病に対する関心が高まり、新たな社会的対応が要望されることとなった。

このような動きに対して、旧厚生省では昭和47年10月に難病対策要綱を定め、難病対策の一歩を踏み出した。

難病対策要綱に基づき難病対策が本格的に推進されるようになって40年以上が経過した。その間、各種の事業を推進してきた結果、難病の実態把握や治療方法の開発、難病医療の水準の向上、患者の療養環境の改善及び難病に関する社会的認識の促進に一定の成果を上げてきた。

しかしながら、医療の進歩や患者及びその家族のニーズの多様化、社会・経済状況の変化に伴い、難病対策の在り方に対して、さまざまな課題が指摘されるようになった。特に、都道府県における超過負担の問題は、医療費助成自体の安定性をゆるがすものとされ、難病対策全般にわたる改革が強く求められるところとなった。

このため、平成23年9月から、厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会において、患者代表を含む難病対策に関わる有識者による難病対策の改革についての活発な議論が行われ、難病は国民の誰にでも発症する可能性があり、難病に罹患した患者・家族を包含し、支援していくことが求められることを基本的な認識とし、平成25年1月には、「難病対策の改革について(提言)」が、同年12月には、「難病対策の改革に向けた取組について(報告書)」がとりまとめられた。

これらの提言や報告書の内容に沿って、厚生労働省ではさらなる検討を進め、第186回国会に、「難病の患者に対する医療等に関する法律案」を提出した。本法案は、5月23日に成立、同月30日に公布され、平成27年1月1日に施行された。

図表1 難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年5月23日成立)
図表1 難病の患者に対する医療等に関する法律拡大図・テキスト

難病の患者に対する医療等に関する法律の概要

難病の患者に対する医療等に関する法律(以下「難病法」という)においては、基本方針の策定、難病に係る新たな公平かつ安定的な医療費助成の制度の確立、難病の医療に関する調査及び研究の推進、療養生活環境整備事業の実施を四つの柱としている。

また、「難病対策の改革について(提言)」では、改革の基本理念として、「難病の治療研究を進め、疾患の克服を目指すとともに、難病患者の社会参加を支援し、難病にかかっても地域で尊厳を持って生きられる共生社会の実現を目指すこと」とされた。難病法では、この改革の理念を踏まえ、難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保及び難病の患者の療養生活の質の維持向上を図ることで国民保健の向上を図ることを目的に掲げるとともに、難病の克服を目指し、難病の患者が地域社会において尊厳を保持しつつ、他の人々と共生することができるよう、難病の特性に応じて、社会福祉などの関連施策と連携しつつ総合的に行わなければならないことを基本理念としている。

難病法では主に(1)基本方針の策定、(2)難病に係る新たな公平かつ安定的な医療費助成の制度の確立、(3)難病の医療に関する調査及び研究の推進、(4)療養生活環境整備事業の実施で構成されている。

(1)基本方針の策定について

まず、一つ目の柱である基本方針については、難病対策は医療費助成や調査研究、患者の療養生活環境の整備等を総合的に推進していく必要があることから、難病法に基づき、難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本方針を定めることとした。

基本方針では、難病の患者に対する医療等の推進の基本的な方向、医療提供体制の確保、人材育成、調査研究、医薬品及び医療機器の研究開発推進、患者の療養生活の環境整備、そして福祉サービスの施策・就労支援に関する事項について定めることとした。

福祉サービスや就労支援については、基本方針に基づき、各種施策体系との連携を図りながら施策を進めていくこととなる。

当該基本方針については、本年夏を目処(めど)に策定を予定しており、厚生科学審議会疾病対策部会の下に難病対策委員会を設置し、議論を行なっているところである。

(2)難病に係る新たな公平かつ安定的な医療費助成の制度の確立について

次に、二つ目の柱である公平で安定的な医療費助成の仕組みの確立について解説する。難病法では、難病(発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期の療養を必要とする疾病)のうち、本邦における患者数が人口の千分の一程度に達せず、かつ客観的な診断基準が確立している疾病を指定難病とし、指定難病にかかっている患者であって病状が一定以上の場合等には医療費助成の対象とすることとしている。

指定難病の選定に当たっては、厚生科学審議会疾病対策部会の下に指定難病検討委員会を設置し、当該委員会において、個別の疾病が要件を満たすかどうかについて、また、医療費助成の対象とすべき病状の程度(いわゆる重症度基準)について、それぞれ検討を行なった。指定難病検討委員会では、特定疾患治療研究事業の医療費助成の対象であった疾病に類似するものを中心に113疾病を検討の対象とし、医療費助成の第一次実施分としては、110疾病を指定難病とすべきことが委員会の結論とされ、難病法の施行に伴い医療費助成が開始された。

さらに、難病の要件等に関する学術的な整理や情報収集が不十分な疾病など、現時点で検討に時間を要する疾病については、第二次実施分(平成27年7月を目指して医療費助成実施予定)として指定難病検討委員会で議論を行い、約300疾病に拡大される見込みである。指定難病検討委員会での議論の際には、指定難病の要件の考え方をさらに整理するとともに、検討時点において適切と考えられる重症度基準を設定することとなるが、いずれも医学の進歩に合わせ、必要に応じて適宜見直しを行うこととしている。また、指定難病についても、調査研究の結果等を踏まえて適切に見直しを行なっていく。

指定難病にかかっている患者が医療費助成を受けるためには、その居住地の都道府県に支給認定の申請を行い、申請に当たっては、指定難病の診断書を作成する知識及び技能を持つものとして都道府県知事が定める医師(指定医)の診断書を添付しなければならない。都道府県は、指定難病の患者の病状の程度が重症度基準を満たしている場合、または一定以上の医療費がかかっている場合には、支給認定を行い、患者に医療受給者証を交付する。

都道府県は、支給認定を受けた指定難病の患者が指定医療機関(都道府県が定める医療機関)から指定難病に係る医療を受けた場合には、その医療に要した費用について医療費の支給(特定医療費の支給)を行う。患者は、医療費総額の2割に相当する額と自己負担上限額(患者の家計の負担能力や治療の状況等をしん酌して定める額)のいずれか低い額を医療機関に支払い、都道府県は、医療費総額から医療保険により支払われる額及び患者が支払う額を差し引いた額を特定医療費として支給する。

難病患者の自己負担額については、次のとおりとした。まず、自己負担割合を3割から2割に引き下げた。

加えて所得の階層区分や負担上限月額については、障害者の自立支援医療(更生医療)を参考に設定した(図表2参照)。

図表2 公平・安定的な医療費助成の仕組みの確立(難病に係る新たな医療費助成の制度)
図表2 公平・安定的な医療費助成の仕組みの確立拡大図・テキスト

また、症状が変動し、入退院を繰り返す等の難病の特性に配慮し、外来・入院の区別を設定せず、受診した複数の医療機関等の自己負担(薬局での保険調剤及び医療保険における訪問看護ステーションが行う訪問看護を含む)をすべて合算した上で負担上限月額を適用することとした。

所得を把握する単位については、医療保険における世帯で把握し、所得を把握する基準は、市町村民税(所得割)の課税額を用いることとした。また、同一世帯内に複数の対象患者がいる場合は、負担が増えないよう、世帯内の対象患者の人数で負担上限月額を按分することとした。

高額な医療が長期的に継続する患者(月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある者(たとえば医療保険の負担割合が2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)とする)については、「高額かつ長期」として自立支援医療の「重度かつ継続」と同水準の負担上限月額を設定した。

人工呼吸器等装着者の負担上限月額については、所得区分にかかわらず月額千円とした。

また、軽症者であっても高額な医療(月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が年間3回以上ある場合(たとえば医療保険の負担割合が3割の場合、医療費の自己負担が1万円以上の月が年間3回以上の場合))を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とすることとした。

経過措置(3年間)の対応として、既認定者の負担上限月額は、「高額かつ長期」の負担上限月額と同様とし、既認定者のうち、重症患者の負担上限月額は、一般患者よりさらに負担を軽減し、入院時の食費負担の2分の1は公費負担とすることとした。

なお、特定疾患治療研究事業では、国と都道府県の負担を2分の1ずつとしていたところではあるが、これまで都道府県の超過負担が生じていた。難病法の成立を受け、特定医療費の支給に要する費用については国が2分の1を負担することを明確化した。

(3)難病の医療に関する調査及び研究について

三つ目の柱である調査及び研究について解説する。

難病の患者にとって、治療方法が開発され、それにより症状が改善し、日常生活や社会生活を不安なく営めるようになるということ、そして難病を克服することは、何よりの願いである。このため、難病法では、良質かつ適切な医療の確保を図るための基盤となる難病の発病の機構、診断及び治療方法に関する調査及び研究を推進することが規定されている。調査及び研究の推進にあたっては、小児慢性特定疾病に関する調査及び研究との適切な連携を図るように留意すること、調査及び研究の成果を研究者や難病の患者に対して積極的に提供するとともに、その際には個人情報に留意することが定められている。

難病の研究は、難治性疾患克服研究事業として、スモン、ベーチェット病など8研究班で昭和47年にスタートした。その後、その対象疾患を徐々に拡大し、平成21年からは、難治性疾患克服研究事業の臨床調査研究分野の対象疾患は130疾患となった。この他に、新たに研究奨励分野を設け、疾患の範囲を区切ることなく、いわゆる難病と考えられる疾患について幅広く研究を行い、さらに毎年200疾患余に対して、疾患概念の確立や診断基準の作成などの研究が進められてきた。新制度の下では、より多くの難病患者データを収集することが可能となり、難病研究に携わる研究機関、医療機関がデータを有効活用することで、幅広く難病研究に役立てられることが期待される。

平成26年度からは、厚生労働省では、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂などの研究を行う難治性疾患政策研究事業と、病因病態の解明、治療薬・医療機器の開発などのための研究を実施する難治性疾患実用化研究事業の2事業に分割し、双方の連携を図りつつ調査研究を推進する。難治性疾患実用化研究事業は、基礎研究から切れ目なく実用化までつなげていくために関係省庁が連携する仕組みであり、平成27年度から新たに設立される独立行政法人日本医療研究開発機構が適切に予算配分することが予定されている。その中で、文部科学省と連携した「難病克服プロジェクト」に取り組むこととしており、併せて難病研究を推進する。

これらの研究の成果は、広く国民が理解できるように難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/)等を通してわかりやすく最新情報を提供できるような体制としており、さらなる充実を図る。

(4)療養生活環境整備事業の実施について

四つ目の柱である療養生活環境整備事業については、平成26年12月31日まで実施してきた患者等を対象とする相談支援事業、患者に対する保健医療サービスまたは福祉サービスを提供する者等を育成する事業、在宅で人工呼吸器等を使用している者に対する訪問看護を行う事業を、難病の患者の地域における療養生活を支える仕組みとして、難病法に位置づけた。また、難病相談・支援センターの機能強化を図るとともに、難病の患者への支援体制の整備を図るため、関係機関や患者等の関係者により構成される難病対策地域協議会を設置し、患者への支援体制に関する課題についての情報共有、連携の緊密化を図るなど、総合的かつ適切な支援を行うこととしている(図表3参照)。

図表3 国民の理解の促進と社会参加のための施策の充実(新たな難病患者を支える仕組み)
図表3 国民の理解の促進と社会参加のための施策の充実拡大図・テキスト

ハローワークには難病患者就職サポーターを配置し、難病相談・支援センターと連携しながら、就職を希望する難病患者に対する症状の特性を踏まえたきめ細やかな就労支援や、在職中に難病を発症した患者の雇用継続等の総合的な就労支援を行うこととしている。こうした施策を通じて、地域の医療・介護・福祉従事者、患者会等が連携して難病患者を支援していくこととしている。さらに、国がその費用の2分の1以内を補助することを法令上明記した。

終わりに

難病の患者に対する医療費助成に関して、法定化により、その費用に消費税の収入を充てることができるようになり、公平かつ安定的な医療費助成の制度が確立した。患者の医療費負担の軽減だけにとどまらず、難病対策は、難病法の基本理念にあるように、難病の克服を目指し、難病の患者の社会参加の機会が確保され、難病患者が地域社会において尊厳を保持しつつ他の人々と共生することができるよう、総合的な取り組みを推進する必要がある。このため、難病に関する調査及び研究の推進、療養生活環境整備事業の実施、就労支援等の施策との連携等を進めていくことが重要である。

現在、医療費助成の対象疾病の拡大、難病対策を総合的に推進するための基本方針の策定に向けて議論を行なっているところであるが、難病法の基本理念に基づき着実に施策が推進されるよう、今後とも、難病対策のさらなる充実に取り組んでいく。