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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年6月号

ほんの森

障害のある人の支援計画

谷口明広・小川喜道・小田島明・武田康晴・若山浩彦著

評者 笠原千絵

中央法規
〒110-0016
台東区台東3-29-1
定価(本体2,600円+税)
TEL 03-3834-5817
FAX 03-3837-8037
http://www.chuohoki.co.jp/

本書は、個別支援計画作成の研修を担う、経験豊富な講師陣によるテキストである。厚労省が計画作成を義務づけるなか時期を得た出版であるが、背景にあるのは、ただ作成率を上げ、運営費を得るための計画作成ではいけないという危機感、障害のある人の望む暮らしを実現させる道具の一つとして、計画の作成と活用を深く学んでほしいという思いである。

第1章「本人中心の個別支援計画とは何か」では、「本人中心」という考えを、「望む暮らしの実現に向けて、リスクを最小限にする」という観点から説明する。とはいえ強調するのは、リスクに目を向けがちな姿勢への疑問であり、望みを引き出す意思決定支援のポイントである。制度の説明、相談支援専門員、サービス管理責任者の役割の解説としても優れている。

第2章「個別支援を支えるための基本的視点」では、エンパワメント、自己決定、ニーズ、ストレングスという4つのキーワードについて、筆者らの独自の解釈も含めて解説する。

第3章「計画作成のプロセス」は、個別支援計画とサービス等利用計画の作成手順と配慮点である。「よくありがちな失敗と回避のためのヒント」では、障害のある人と関わる際にとりがちな行動、留意点を例示する。初心者にもベテラン職員にもハッとさせられることが多い。

本書では、計画の作成と活用が進まない理由に、各種書式の意味理解の不十分さ、支援者が抱く言語化や文書化への苦手意識があると考える。そこで第4章「計画の作成等を助ける補助的な道具の利用」では、各種書式を自由に考案、活用することを提案する。第3章でも厚労省が示す書式のアレンジ例を示すところがユニークである。第5章は「個別支援計画を作成する際に必要な専門性」が続き、第6章「個別支援計画に関するQ&A」では、研修に寄せられる切実な質問への回答を掲載している。

実践的なヒントが詰まる本書でより印象に残るのは、常に理念や基本的視点に返ろうという姿勢である。たとえば、目標達成に向け、まず考えるべきは利用者のストレングスであり、それのみで目標達成に至らない部分の解決策として支援を位置づける。一見、本人に過度な課題解決を求めるようでもあるが、それほど強調しないとストレングスに目がいかないことの裏返しともいえる。パターンにはまりがちな支援者に改めて自己覚知を迫るのが理念や基本的姿勢であり、小手先の計画に留(とど)まらぬようにという思いが根底に流れる良書である。

(かさはらちえ 関西国際大学)