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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年7月号

障害者権利条約「言葉」考

「障害者を包容する国際協力」

中西由起子

権利条約第32条「国際協力」では、「国際協力(国際的な開発計画を含む。)が、障害者を包容し、かつ、障害者にとって利用しやすいものであることを確保すること。」(32条1項(a))としている。政府や市民社会での開発援助において、障害者を念頭に置いたインクルーシブ(包容)な開発の原則は活(い)かされねばならない。

国連ではミレニアム開発目標(MDGs)達成年の2015年を迎えて、2016-30年までの世界の開発問題、そして環境問題に関する新しい目標として持続可能な開発(SDGs)が決定されようとしている。社会開発および環境問題を通して持続可能な世界をつくるために17の目標が設定され、日本を含む先進国も途上国での支援による目標達成だけでなく、自らの課題として直接取り組むことが求められている。SDGsは全世界を巻き込むインクルーシブな目標なのである。

日本でも経済成長に合わせて国民の国際協力に対する関心は高まり、障害もさまざまな援助活動の中で取り上げられるようになった。過去の経済協力においてはインクルーシブなアプローチが取られなかったため、先進国からの福祉的援助が必ずしも第三世界の人々の自立に役立たず、大衆的貧困は解決せず、各地で環境破壊が進行し、飢餓が激化した。障害分野での国際協力がこの轍を踏まないように、行政、福祉、医療やリハビリの専門家が国際援助を実践するのではなく、障害者の問題を当事者が支援していく活動が必要となっている。

途上国における障害は、貧困、社会的不安定、危機の遠因である。たとえば途上国では、障害者グループは資金や技術力の不足に加え、勾配の激しい地形や特異な気象条件からくる移動上の障壁などにより、自助活動実施にあたって多くの制約要因を抱えている。その解決のために、すでに障害者自身も役割を担っている。日本で開発された自立生活の適正技術の移転はその一つである。地域で調達可能な人材を含む資源、技術力、地域社会への貢献の度合いを考慮し、かつ障害者の権利に基づいた自立生活のノウハウは、アジアの障害者に伝えられ広く実践されている。

最近では、JICA(国際協力機構)による障害当事者の専門家としての途上国派遣も当然となってきた。国際協力が障害者自身の仕事であるなら、さらに進んで、今後は米国のUSCID(米国国際障害者評議会)やスウェーデンのSHIA(スウェーデン障害者国際援助協会団体)、フィンランドのアビリスをモデルとする政府の国際開発の資金が障害者を中心とする国際協力組織を通して、途上国の障害者に役立つような枠組みを日本でも作るべきである。「我々なしには何もなしえない」から。

(なかにしゆきこ アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表、本誌編集委員)