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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年7月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

大津から全国に広がれ!
~MMKサークルの取り組み~

高木伸斉

はじめに

MMKは、滋賀県大津市に住む知的障害のある青年たちを中心として結成されたサークルです。大津は琵琶湖を左からひらがなの「し」でなぞるような位置にあり、南北に長く、琵琶湖を挟(はさ)むため、市内の端から端までの移動はなかなか大変なのですが、アウトドアスペースの多い滋賀ならではの立地を活かした体験や、京都、大阪へのアクセスの良さを利用して毎回いろいろな所へ出かけるなど、メンバーのその時の興味に合わせ、めいっぱい活動を行なっています。

MMKサークルを結成したのは、2010年11月のことです。その出発は、現在もMMKの中心であるAさんの性に関する悩み解消へ向けて、仲間同士で学習、相談ができるグループを作りたい、という発想からでした。

当時、Aさんは「彼女がほしい」「アダルト雑誌を見たい」と、通所する福祉施設の職員や、余暇支援を担当するヘルパーなどに相談を持ちかけていましたが、支援者側は個別の相談や学習での解消は難しいと感じていました。そこで、同じような悩みのある青年たちが集まり、グループで学習をすることを目的として立ち上げたサークルが「MMK」です。

MMKは、「もてて・もてて・困っちゃう」の略で、みんなの共通の思いである「女性にモテたい」という目標のもと、性や身体の仕組みの学習や、円滑な人付き合いに必要となる、社会性やマナーについても学習と実体験を重ねてきました。

MMKサークルについて

当初のMMKは、障害のある青年3人と支援者2人で活動を行なっていました。メンバーは障がい児者相談センターみゅうが市内他の相談事業所に協力を呼び掛け、同じ悩みを持つ男性を募り、集まりました。活動場所はカラオケルームとし、性についての話題も「ここならOK」とルール提示をすることで、プライバシーへの配慮と「性の悩みは不特定多数の人間がいる場所ではしない」という場面の学習を演出しました。

集まった3人はほぼ初対面でしたが、初回から、Aさんの長年の悩みであったアダルトビデオのことも、Bさんが「僕は持ち運びのできるデッキで見てるよ」など、仲間同士、横のつながりの中でアドバイスし合う光景が見られ、「こういうのっていいなあ」と、全員一致で毎月の活動を計画するに至りました。

当初は性の学習を集中して行いましたが、回を重ねるうちに、悩みが軽減されたメンバーからは徐々に「このサークルでこんな取り組みをしたい」とさまざまな希望が出るようになり、今では、余暇や社会体験を目的とした活動が増えています。

現在は障害のある青年7人、協力スタッフ、学生を中心としたボランティア5人程度で活動を行なっています。MMKの大きな特徴は、メンバーそれぞれが日中は別の施設や職場へ通っているということ。そしてスタッフも、別々の法人で働く者同士が集まって協力をしてきた、という点にあります。学生ボランティアも含め、そんな形態が「開けた」MMKの雰囲気を作っており、地域に根ざした「大津のサークル活動」という意識につながっているように思います。

MMKサークルメンバー表(平成27年6月現在)

メンバー 年代 日中活動場所 居住場所
Aさん 30代 S生活介護事業所 グループホーム
Bさん 20代 O就労継続支援B型事業所 家族と同居
Cさん 20代 H就労継続支援B型事業所 グループホーム
Dさん 60代 一般就労 一人暮らし
Eさん 20代 M生活介護事業所 家族と同居
Fさん 30代 一般就労(障害者雇用) 家族と同居
Gさん 20代 一般就労(障害者雇用) 家族と同居

MMKの活動風景

とある日曜日、お昼すぎ。「よお、久しぶり」と、京都駅の集合場所に続々集まるメンバーたち。仲間と申し合わせてやってくるメンバーもいれば、ヘルパーの送迎サービスを利用して集合するメンバーもいます。出会うと近況や趣味、テレビの話題などで一気に話が盛り上がってしまうメンバーたち。業を煮やしたAさんが「もう、始めるで! みんな聞いてや!」と声を張り上げ、その日のサークルが始まりました。

参加ボランティアが毎回異なるため、まずは自己紹介と1日の流れの説明を行います。この日は、ショッピングセンターで服を買うという企画で、趣味や体型の似た仲間とボランティアでチームを組み、お店へ繰り出しました。店内では、仲間同士で「これ似合うか見て」や「お金足りるかな?」など話しをしながら、一部試着や金額の計算などをボランティアスタッフが補助をし、買い物を進めていきます。普段は家族が買ってくる服を着ることがほとんどのメンバーたちは、憧れの自分スタイルを実現すべく必死です。

そして、買い物が終わった後は昼食を兼ね、買ったもののお披露目会となるわけですが、「おーそれは、Aくんっぽい」とか「今度は俺もそんなんにしようかな」とお互いに品評し合う時間があることで、選んで買った物がより「自分のアイテム」として馴じんでいくような気がしています。

この日は夕食も一緒に取ろうと、みんなで居酒屋に出かけました。健康上、アルコールを飲めないメンバーが多いのですが、みんなで乾杯し、「俺、居酒屋に憧れててん」と、少し誇らしげにグラスを傾けるメンバー同士で、これからみんなでどんなことをしたいか、という話題で盛り上がり、解散となりました。

MMKでは、毎年みんなで1年間のスケジュールを考え、実行しています。知的障害のある青年7人で、意見をぶつけ、けんかをし、譲り合い、自分たちの大切なサークルを作っています。それに基づいて一つずつ実行していく中で、自信をつけ、また新しい活動に挑戦し…というサイクルを重ねていき、ついにはMMKの枠を飛び出して活動を計画するようにもなりました。

MMKから羽ばたく仲間たち

代表的なものは、絵本の読み聞かせユニットの結成です。

Aさんは通っている生活介護施設の活動で、重度の障害がある仲間に絵本の読み聞かせを行なっていましたが、それを地域のお祭りで披露する機会がありました。そのことを聞きつけたEさんが「Aさんと一緒にやりたい」と熱望し、絵本の読み聞かせユニットを組んだのです。現在は、専門の先生に教えを請いながら高齢者施設や保育所などへ読み聞かせのボランティアに出向いています。

また最近、MMKメンバーの中で旅行がブームになっています。「家族や支援者以外の人と一泊旅行に行きたい!」という希望のあったDさんは、Bさんを誘って2人だけで一泊旅行へ出かけました。それを聞きつけたFさんが、「僕もBさんと2人で行きたい」と、旅行を計画。最近加入したGさんは、友達と行くことに憧れていた花火大会に、念願かなってDさんと一緒に出掛けることができました。

そんな個別の活動をした後、MMKサークルの中でみんなに報告する時間を設けるようにしています。その報告を聞いて刺激を受けたメンバーが、また別のアイデアを出し仲間を誘う、というサイクルが続いており、「今度はみんなで海外へ」「一緒に住むマンションを建てたい」と、メンバーの希望は尽きることがありません。

おわりに~大津から全国に広がれ~

MMK結成後、サークルメンバーの変化は活動中のみならず、私生活や仕事にも及んでいます。一人暮らしを切望し実現させたメンバー、休みがちだった仕事を再開できたメンバーなど、その変化に周囲の家族や支援者は驚かされてばかりです。

MMKではその活動やメンバーの変化を積極的に外部へ発信してきました。その結果、県内外でMMKを模したグループがいくつか結成されたと聞いていますが、先日、その中のとあるグループと初めて交流を行うことができました。両グループの支援者の心配をよそに、自分たちが作ってきた活動に自信をもって他グループを招き入れるMMKメンバー。そして、その雰囲気に呼応するように、あっと言う間に活動に馴じんでくれた他グループのメンバーを目の当たりにした時、当事者活動の持つ力強さに改めて感嘆しました。その瞬間の光景、彼らの活き活きとした笑顔が全国に広がっていってほしい。そんな思いでMMKは大津で活動を続けています。

(たかぎのぶあき 障がい児者相談センターみゅう相談支援専門員)