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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年7月号

列島縦断ネットワーキング【京都】

ウフフッと楽しく感じる日本庭園鑑賞
~庭いこいこの活動

田村香

はじめに

「庭いこいこ」は、庭好きが高じた私が京都造形芸術大学の通信教育部で日本庭園について学び始めたことがきっかけでした。いつしか日本庭園の魅力にはまり、一人でも多くの方に日本庭園の魅力を伝えたいという想いを抱くようになりました。

日本庭園は、五感で感じると言われている美しい場所ですが、その鑑賞では「見る」ことが重視されているといえるでしょう。実際に、日本庭園を訪れると、視覚障害者の姿を見ることは少ないと思いました。それが気になり、視覚障害者に注目した日本庭園の鑑賞に関する活動や研究といったものを調べてみると、2010年3月当時は、非常に少ない状況でした。視覚障害者の立場に立った日本庭園の鑑賞方法といったものが明確に確立されたものがありませんでした。

そこで、視覚に障害があっても五感で感じることができる日本庭園の鑑賞は可能だという想いが芽生え、研究テーマにしました。早速、全盲者を紹介していただき、会うなり「一緒に日本庭園に行きましょう」と直談判し、協力を得ることができました。2010年3月、視覚障害者と行く日本庭園の鑑賞についての試行錯誤が始まりました。筆者と全盲者は3人、さらに、筆者の活動に賛同した大学の同窓生や関係者が協力に加わりました。

全盲者と晴眼者の日本庭園に関する受け止め方は大きく異なっています。

実際に、京都にある無鄰菴(むりんあん)庭園で全盲者と庭園鑑賞時の注意点や庭園内のガイドについて検討を重ねました。庭園鑑賞のポイントは、「自分の位置」や「庭園の空間」、「見える物の位置関係」を視覚障害者に伝えることです。また、補助ツールである触地図や触覚模型を試作したところ、庭園の空間が分かりやすいことが判明しました。

2010年10月頃には、庭園鑑賞の基本的な方法が出来上がりました。この研究のさらなる充実と継続を目指して、2010年11月、京都市福祉ボランティアセンターに「日本庭園のユニバーサル鑑賞を楽しむ会」(通称:庭いこいこ)として登録し、本格的な活動を開始しました。

「庭いこいこ」の始動

「庭いこいこ」では、視覚障害者と晴眼者が共に日本庭園を鑑賞する会(以降、鑑賞会)を開催しています。鑑賞会の視覚障害者の参加は約5人前後で、晴眼者の参加も同人数で、視覚障害者と晴眼者がペアを組みます。晴眼者(以降、ガイド)は視覚障害者の歩行と空間のガイドを行います。鑑賞会での全体の進行や庭園の解説は、筆者やガイドが行います。

2011年3月以降、参加者の募集は、視覚障害者の場合は口コミやメーリングリストで行なっています。これまでは全盲者が中心でしたが、弱視者の参加も増えてきました。

ガイドは、庭園に関する知識が必要なことから、大学の同窓生や関係者を中心にしたグループのメーリングリスト等を活用し募集を行なっています。

「庭いこいこ」の活動は、季節の良い時期を選んで、年に2~3回、不定期で実施しています。

庭園探し

日本庭園の印象について、視覚障害者に鑑賞会に参加する前にヒアリングを行なったところ、多少の憧れは感じるものの興味は少なく「見ても分からない」、「人の説明を聞く場所」等のネガティブな感想が聞かれました。

そこで、行く機会が少なかった人が訪れやすさを念頭に庭園探しをしました。まず、日本庭園自体にも魅力があり、公共交通機関のアクセスが容易で待ち合わせが可能な場所を選定しました。その観点で実施した鑑賞会の庭園は、京都市営地下鉄東西線の蹴上(けあげ)駅から徒歩圏内の「無鄰菴庭園」、「平安神宮神苑」、「金地院(こんちいん)」。京都市営地下鉄烏丸線丸太町駅から徒歩1分という近さにある「京都御苑公園」、「拾翠亭(しゅうすいてい)」、「閑院宮(かんいんのみや)邸跡」等です。

さらに、庭園内や庭園の近くに昼食や休憩できる場所があることも大切な選定ポイントになっています。庭園探しは、なかなか難しく、そして楽しい事前準備です。後に述べる感想会でも、視覚障害者やガイドが一緒になって、次の庭園について話に花を咲かせたりすることがあります。視覚障害者やガイドの希望も考えながらワクワクしながらいつも選んでいます。

鑑賞会の事例紹介―無鄰菴庭園

無鄰菴庭園では、何度も鑑賞会を行なっています。その理由は、前述のアクセスの便利さに加えて、事前に申し込んでおくと、母屋の2階を借りることができるからです。庭園内にゆっくりと休憩できる場所があることが、鑑賞会には理想的な場所といえます。

鑑賞会は、次の3つのフェーズに分かれています。

(1)事前説明

庭園内に入る前に約30分をかけて行います。初めに自己紹介、次に庭園についての歴史的背景や庭園の空間説明を行います。無鄰菴庭園で庭園の空間を説明する際には、全盲者やほとんど視力がない弱視者には、補助ツールであるハンディの触地図を使います。また、弱視者には感覚マップという庭園の図を使用して解説を行います。

楽しい庭園鑑賞には、いくつか注意が必要です。庭を大切にすることやけがを避けるために、単独行動は避けるように説明しています。

(2)園内の鑑賞

さあ、いよいよ庭園内の散策です。母屋を背に立ち、息を吸い込み庭の気配を全身で感じます。自分の立っている場所からの風景をガイドが伝えます。庭との対話が始まります。前方から小川のサラサラとした音が響いています。土や草花の匂いを感じながら、視覚障害者とガイドが庭の奥に歩を進めます。時折、低木が腕をかすめます。そんな時は、すかさずガイドが視覚障害者に、どんな木なのかを丁寧に説明します。

庭園の奥には、小川があり、沢飛石で対岸に渡ることができます。その際にガイドが注意し、視覚障害者の沢飛石の足の置く位置や、川が10センチ程度の浅瀬であることを伝えます。けがが無いように安全に渡る工夫をしています(経験が無い場合や恐怖がある場合は、真似をしないでください)。

鑑賞ポイントでは、周囲の風景や遠くの風景を言葉や山の稜線を空に手でなぞるような動作で伝える工夫をしています。

(3)感想会

鑑賞会では、庭園内の散策中と最後に休憩を取りながら庭園の感想について語り合います。

ガイドが一方的に話すことはなく、ガイドと視覚障害者とが互いに庭園の感想を語り合い、コミュニケーションを図っています。お互いに異なる感覚や感性で、ガイドも視覚障害者と話すことで庭園の魅力に改めて気付くこともあります。小川の音や陽の揺らめき…、この時間が、鑑賞会の醍醐味といえます。

「庭いこいこ」のこれから

「庭いこいこ」は、これからも仲間や参加者を増やし、日本庭園の良さを共有し「楽しかった」の想いを繋(つな)げたいと思っています。

「庭いこいこ」の活動は始まったばかりです。ガイド方法の充実や人員の確保が課題です。そして、これからは視覚障害者以外にも広げたいと思っています。

これまでの活動で日本庭園は、視覚障害の有無に関係なく楽しめることが分かりました。初めて会った人たちも日本庭園の不思議な魅力に、魅せられるようです。

最大の課題は、「庭いこいこ」の継続です。コツコツと続けた先には、このような活動が当たり前になり、障害の有無に関係なく、一人でも多くの方に日本庭園の魅力を味わっていただけるようになることです。今は、夢への道が始まったばかりです。

日本庭園は「ずっと、居たい場所」です。ぜひ、ご一緒しませんか?お待ちしています。

(たむらかおり 庭いこいこ代表)


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