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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年7月号

列島縦断ネットワーキング【沖縄】

糸満市障がい者ワークエンジョイプロジェクト

森田直広

経緯

私たち、株式会社ルーツは創立12年目の会社ですが、事業内容は大学生・若者のインターンシップや採用の中間支援、地域内コーディネート、デザイン制作を中心に行なっています。糸満市障がい者ワークエンジョイプロジェクト(以下、WEP)に関わるまでは、福祉分野と接する機会は特になく、3年前は就労支援事業所の存在も知りませんでした。

弊社がWEPに関わったのは、予算づくりを行なった行政担当者の方が、私たちが実施している地域内コーディネートやデザイン業務に関心をもたれ、お声かけいただきました。

WEPは1.事業所間の連携推進、2.職員の人材育成、3.商品開発、販売促進、販路拡大を実施し障がい者の雇用促進、自立支援の取り組み強化を図ることを目的としたプロジェクトで、平成24年度から始まり、現在4年目に入りました。

就労支援事業所は、地域の中で地域と接点を見出すポジションだと思うのですが、まだ内に閉ざしている傾向があるため、福祉とは異分野の私たちにお声がかかったのだと思います。

WEPが目指していること

WEPは主に、就労支援事業所の商品を市場流通させるように商品の企画開発をすることですが、商品販売の目的が工賃向上だけではなく、市場流通することで市内の地域資源と結びついたり、また地域内流通を強化することで、商品販売をコミュニケーション機会と捉え、市民の方々に事業所の存在を知っていただくことも大切にしています。知っていただくことで新しい仕事に繋(つな)がったり、多様な方々が地域内で暮らしていける下地が整ってくると感じています。

最近では、高齢者の買い物支援や高齢化した農家の収穫作業など、地域の課題を福祉の側面で解決するような仕事もいただけるようになってきました。WEPが地域を結ぶ一つのプロジェクトとして位置づけられるようになることを目指しています。

プロジェクトの内容

WEPは市内の就労支援事業所(就労移行支援、就労継続支援A型・B型)全16事業所(開始時は15事業所)を対象にしたプロジェクトで、事務局は糸満市社会福祉課と弊社が担っています。以下、プロジェクトで実施している内容をご紹介します。

(1)月1回の事業所連絡会の運営

これまでは、就労支援事業所間で情報共有を行う関係性もなく、また、そのような機会もありませんでした。WEPは当初より、事業所間連携を意識したプロジェクトのため、月1回の事業所連絡会がプロジェクトの基盤となり、各事業所の進行状況や課題の情報共有、また各事業所の取り組みの周知を行なってきました。初年度は事業所間連携の第一弾として、市内の全事業所の情報を網羅した冊子制作からスタートしました。この冊子は事業所のみならず、障がい当事者の方々やご家族の方が見ても市内の就労支援サービスが一覧できるため、多様な選択肢の中から選んでいただくためのツールとして、相談支援員からも好評でした。

現在は、WEPのような工賃向上の話のみならず、福祉人材の確保や課題、障がい児の卒業後や成人してからの話など、議題の幅が広がりつつあります。

(2)職員のスキル向上のための研修企画

工賃向上には福祉従事者が本来、持ちあわせていない視点やスキルが必要になってきます。そこで、市場の動向を知り、どのように消費者とコミュニケーションを取っていくのか?というマーケティングや、事業所の背景や強みを明確にして、それを商品・サービスに反映して発信するブランディングなどの専門講師を県外からお招きして、年に4~5回ほど研修会を実施しました。

2014年度は職員研修をオープンにし、市内の商工観光に携わる方々にも参加してもらうことにしました。そうすることで、研修の場が市内プレイヤーとの交流の場となり、その場で仕事が発生したり、新しい取引が決まっていきました。

(3)共同受注・制作と販売の企画・実施

連携するメリットとして挙げられるのが、共同受注による仕事量の増加が可能となることで、1事業所では引き受けられない仕事も受注できるようになりました。また、独自の商品展開が上手くいったとしても、福祉事業所は必ず生産量の壁にぶつかります。その時に連携できる事業所があれば、役割分担や作業を配分することで、さらなる販路拡大や単価向上を目指していくことができます。

ただ、連携して一つの商品をつくることや事業開発することは、これまで以上に相互の信頼性や将来性が必要なため、なかなかまとまりきれていないのが現状です。現在、取り組んでいる案件としては、行政向けの優先調達推進、1次産業品加工の残渣(ざんさ)活用、アーティストと連携した廃ダンボール商品の展開を企画推進しています。

(4)各事業所商品ブラッシュアップ

各事業所に専門家派遣を行い、既存商品のブラッシュアップや新商品開発の推進を実施しています。パッケージ変更や販促ツールを制作することで、商品の魅力をお客様に発信でき、商品単価を引き上げる機会になったり、新しい販路開拓に繋がっています。

ただ、見た目をキレイにするようなデザイン制作はせず、各事業所の課題のヒアリングや方向性の整理をした上で制作に取り掛かるので、成果物であるリーフレットやパッケージは事業所が何を目指すのか?を立ち返るためのツールにもなっています。

(5)WEPブランドづくり

(4)で実施している各事業所への個別の支援だけでは販路開拓が難しい場合も多く、また個々の事業所ごとの販路開拓は効率が悪いため、事業所連携の商品ブランド展開を行なっています。そのブランドの上に各事業所の商品がタイアップすることで、チームとしての売り場獲得を目指すことができ、新しいストーリーが商品に付加されていきます。

(6)地域内コーディネート

WEPは市民への啓発活動も大切にしています。私たちは、商品をPRすることで、その背景にある社会的課題を知っていただいたり、また、障がい者と一緒に活動する機会等を創出することで、障がい者も私たち健常者も変わらないということを知っていただいたり、と地域の方々との接点づくりも行なっています。最近では、異分野の団体からもお声かけいただくようになってきました。

プロジェクトの広がり

WEPを通して福祉と商工観光が繋がったり、地域内の課題を福祉事業所と一緒に考えたり等、地域内での役割を就労支援事業所が期待されるようになってきました。就労支援事業所がWEPのような連携体をつくり、商品ブランドの展開やさまざまな課題に取り組む仕組みは全国的にも少ないため、WEPをモデルにしたプロジェクトが他市でも始まっています。また、福祉×デザイン=インクルーシブデザイン、福祉×観光=バリアフリー観光というような新しい広がりも始まっており、これをWEPとどのように結びつけていくかが、次のステップとなります。

現状と課題

現状のWEPは、行政予算を前提としたプロジェクト運営であり、今後、自主運営するための仕組みを整備する必要があります。これまでは事務局が牽引(けんいん)してきた場面が多いため、今年度からはさまざまな方々に関わっていただきながらも、事業所主体で企画・運営できるように後押しすることが重要になってきます。

自主運営していく中で、人材育成や制度外サービスの検討など地域福祉をよりチームで担うための協議の場として、また地域の中で、就労支援事業所が他分野を横断して期待されるプロジェクトとして、WEPが障がい者が支えられる存在から期待される存在へと引き上げられるように努めていきます。

(もりたなおひろ 株式会社ルーツ地域内コーディネーター)