音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年8月号

列島縦断ネットワーキング【岩手】

「さんさ裂き織」からのスタート
~幸呼来Japanの取り組み

石頭悦

株式会社幸呼来Japan(さっこらじゃぱん)は岩手県盛岡市の住宅地の一角で、裂き織の製造販売をメイン業務とし、多機能事業所として就労継続支援A型・B型を運営しています。定員は各々10人。現在はA型11人、B型4人の方が通われています。

「裂き織」とは寒冷な貧しい土地に伝わった昔ながらの織物で、使い古した着物などを解いて細く裂き、それを横糸にして織り直し再生させた織物です。昔は野良着やこたつ掛けとして利用されました。物を最後まで使い切るというもったいない精神が表現された織物といえます。

裂き織事業を始めるきっかけ

平成20年夏、学習会の一環で高等特別支援学校を見学に訪れた際、生徒さんが織った裂き織に出合います。そして、その技術力の素晴らしさに感銘を受け、裂き織を通して全国へ岩手の障がい者の方々の力を広めたいと思うようになりました。しかし、学校で技術を学び素晴らしい織ができるようになっても、裂き織の就職先は無く、培ってきた技術が無駄になってしまうことを知りました。この技術を埋もれさせるのはもったいない、何とか事業化できないかと考えていた折、盛岡市緊急雇用創出事業があることを知り応募しました。「伝統工芸裂き織の技術継承と障がい者雇用」をテーマに運よく採択され、平成22年7月、何も無いところから住宅リフォーム会社の1部門として、6畳2間の会議室に間借りして、障がい者2人、スタッフ一人でスタートしました。

特徴のある裂き織の開発

裂き織は昔からある織物です。道の駅等で地域のお母さんたちが織った裂き織をよく見かけます。同じような裂き織ではダメだ。何か違うもので差別化できないかと考えました。時はちょうど盛岡の夏祭り「さんさ踊り」の頃、お祭りで着る浴衣を見て閃(ひらめ)きました。

さんさ踊りは企業ごとにお揃いの浴衣でパレードします。その浴衣は色鮮やかでカラフルなものが多く、この派手な浴衣を裂き織にしたら、カラフルでポップな裂き織が織り上がるに違いない。そうなれば、盛岡さんさ踊りのお土産品として観光客にもご購入いただけるし、カラフルでポップな裂き織は若い人たちにも受け入れられるに違いない!と。

さんさ踊りの浴衣を提供していただける企業様を集い、初年度10社から600枚ほどの浴衣が集まり裂き織にしました。「さんさ裂き織り工房」ブランドの始まりです。

弊社の裂き織の特徴は、色柄のみならず、緻密で丁寧な織にあります。浴衣を解き、1センチ幅に折り返しながら細く裂き、長い糸にします。脇のほつれた糸を処理し、きれいな1本の布糸に仕上げていきます。それを横糸にし、均一な力で織り上げていき、「さんさ裂き織」が完成します。柄の出方は偶然の賜物で、どれ一つとして同じ織柄はございません。世界で一つだけの裂き織になるのです。

東日本大震災の影響

裂き織商品は、「さんさ裂き織り工房」ブランドとして、盛岡特産品ブランドの認定を受け、盛岡近隣の県産品取扱店で販売されるようになりました。軌道に乗り始めた時、東日本大震災があり事業の継続が難しくなりました。本業は住宅リフォーム会社です。震災直後、リフォーム需要が減り、先の見通しが立たない状況に陥りました。会社から裂き織部門の閉鎖を通達されましたが、震災の翌日に、一般社員が出社しない中、出社してきた障がい者スタッフのことを考えると、予算がなくなったので解雇、ということは私にはできませんでした。そこで、私が事業を引き継ぐことで、前職を退き独立させていただきました。

幸呼来Japanのスタート

裂き織事業を引き継ぐ形で、平成23年9月に株式会社幸呼来Japanを設立、障がい者2人、スタッフ2人で運営してきましたが、生産量が追い付かず、売り上げをきちんと立ててお給料を支払うレベルまでは達しません。そこで、能力のある障がい者の方々をたくさん雇用し、生産力の向上に努めることを目的に、平成24年4月、就労継続支援A型事業所「幸呼来Japan」がスタートしました。平成26年5月にB型事業所も併設し、多機能事業所となりました。

さんさ踊りをご存じですか?

東京の催事等で販売させていただける機会が増え、お客様と触れ合っていると、「さんさ踊り」を知らない方がほとんどで驚きました。私は、「さんさ踊り」は青森ねぶたと同様に全国的に有名なお祭りと思っていたので、認知度の低さに唖然(あぜん)としました。

販売会等での説明もさんさ踊りの説明から始めなくてはいけませんでした。さんさ踊りの浴衣に拘(こだわ)っていては全国に岩手の裂き織の素晴らしさを発信できない。と思い、「さんさ裂き織り工房」ブランドは、岩手県限定商品とし、観光に訪れた方たちや、県外へ旅行に行かれる際のお土産品として販売することに戦略を変更しました。また、パッケージデザインを一新し、一目で「さんさ踊り」の浴衣を使用していることがわかるようにしました。

全国展開へ

全国展開できる裂き織の素材を考えている時に「デニムの耳」と言われる廃材に出合います。そのことがきっかけで、アパレルメーカーやファブリックメーカーから排出される残反を裂き織にして廃材を価値のあるものに生まれ変わらせる取り組みが始まります。

この取り組みは、復興庁主催の「新しい東北」復興ビジネスコンテストで奨励賞をいただきました。

新ブランドの誕生

残反を活用したプロジェクトでは、伝統工芸とエコロジー、社会的活動の3本柱をコンセプトに「Panoreche(パノレーチェ)」ブランドが誕生しました。Panorecheは、裂き織の織り上がりデザインから見直し、染色や配色などひと手間加えることで、より幅広いファブリックとしての表現を可能にしています。

さまざまなメーカーとのコラボ商品も生まれています。パリコレデザイナーの生地を裂き織にし、それがジャケットになり市場に流通したり、シューズメーカーのスニーカー生地素材に裂き織を使用していただいたり、ジーンズメーカーでは裂き織の自社新ブランドを立ち上げたりと、残反を活用したプロジェクトは大変注目を浴びており、大手住宅メーカーのファブリック部門からもお声をかけていただき、プロジェクトが進行中です。

生産量をまかなうために

残反活用の取り組みを始める時に、自社スタッフだけでは生産が追い付かない状況に陥るであろうことは予想がつきました。そこで、近隣の障がい者施設にお声をかけさせていただき、生産量を確保できるシステムを構築しました。以前から、浴衣を解く、裂くといった下処理作業の一部は近所の福祉施設にお願いしていたのですが、その幅にもっと広がりを持たせ、織りの技術のある施設には織りも手伝っていただくこととしました。現在は、岩手県内4施設、県外2施設の方々と連携を取り合い製作にあたっています。

また、メーカー残反には手で裂けない生地が多く、裂く機械の開発が急務となっています。機械を導入することで今まで時間のかかっていた裂く作業の効率化が図られ、作業スタッフの負担も軽くなります。また、生産量もさらに増やすことができ、地域の福祉施設へ発注できる作業も増やすことができます。

この裂き織事業が軌道に乗ることで、自社のみならず、地域で働く障がい者の方々の賃金になり自立への道のお手伝いができるのではないかと思っています。

立ち上げて4年。まだまだ未熟でヨチヨチ歩きですが、地域と連携を図りながら、地域に必要とされる会社へと成長していきたいと思っております。

(いしがしらえつ (株)幸呼Japan代表取締役)