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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年8月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

第17回全国就業支援ネットワーク定例研究・研修会「確認…われわれの役割と結びつき」開催報告

酒井京子

1 全国就業支援ネットワークとは

特定非営利活動法人全国就業支援ネットワークは、障害のある人がそれぞれの地域で働き・安心した暮らしを実現するための望ましい就業生活支援のあり方について会員相互で情報交換し、政策提言をする団体として1998年に誕生しました。2007年にはNPO法人の認可を受け、現在は会員数242の団体や個人で構成されており、「能力開発」「就業・生活支援センター」「就労移行支援」の3つの部会を設けて活動を展開しています。中心となる活動のひとつとして、年に一度、志を同じくする支援者同士が「実践し、交流し、制度創設を提言し、相互に深まること」を標榜(ひょうぼう)した定例研究・研修会を開催しています。2006年までは大阪での開催が中心でしたが、2007年の第9回大会からは福島県いわき市での開催を皮切りに開催場所を全国各地に順に移し、17回目を迎える今年は東京での開催となりました。去る2015年6月13日・14日に、東京ビッグサイトにて開催された様子を報告します(図1)。

図1
図1拡大図・テキスト

2 第17回定例研究・研修会のテーマ

定例研究・研修会に先立ち、二度にわたり実行委員会が開催されました。そこで確認された内容としては、障害者雇用が確実に進展をみせる今、情勢の変化やさまざまな就労支援の流れがあるなかで失ってはいけないものを考える会にしようということでした。参加した人たちが支援者である自分たちの役割や、ネットワークのあるべき姿を改めて考えるきっかけとなるよう、「確認…われわれの役割と結びつき」をメインテーマとし、定例会の案内文には次のように記載しました。「思えば、私たちは、天変地異に見舞われたり、制度変更に戸惑ったり、地域格差を嘆いたりしながら、障害のある人が負わされている特有の〈隔たり〉を強調し、その是正を訴えてきましたが、今回の大会開催に当たって、いろいろな方々とお話をさせていただいて、改めて確認できたことは、〈隔たり〉を強調したり、〈溝〉を増幅させながら事業を進めてはならないという単純な結論でした。そこで、今大会では、「確認…われわれの役割と結びつき」を掲げました。」

3 内容

研修会の冒頭では、来賓として臨席された村木厚子厚生労働事務次官より「障害があるということは職業人としての妨げにならない」ことや、就労支援において人がもつ可能性や能力を引き出し、伸ばしていくことの大切さについてのスピーチがあり、参加した人たちがその言葉からたくさんの元気をいただきました。

まず、プログラムのトップとして、文京学院大学の松為信雄先生による「全国就業支援ネットワークに期待すること」というテーマでの特別講演がありました。障害者雇用を取り巻く最近の課題や自立とキャリア、働くことの意義と役割、良い仕事とは何か、障害福祉サービスと就労支援、障害者就業・生活支援センターの役割などが主題です。「障害があることを前提とした支援ではなく、障害のない社会生活や人生設計を出発点として、疾病や障害はそれにどのように影響するのか、その影響を少なくもしくは解消するにはどのような包括的な支援が必要なのか、といった発想の転換が必要である」こと、生涯にわたる役割を踏まえた人生設計を考えることの重要性、そして、ネットワークにはマクロネットワーク(組織間)とミクロネットワーク(個人間)があり、ミクロネットワークでは、目的・情報・思い・ノウハウの4点を共有することが大切であることなど、より広い視点に立った職業リハビリテーションからのアプローチには参加者に多くの気づきがあったと同時に、自分たちの立ち位置を確認することができたように思います。

その後、3つのシンポジウムが行われました。シンポジウム1は「この4年間被災地では…4年間の就労支援と現実」。岩手、福島、宮城の被災地3県の障害者就業・生活支援センターの3人が登壇し、震災当時の苦悩とその後の支援についての話がありました。それぞれの県で状況は異なってはいるものの、震災直後は「就労支援どころではない」という共通した葛藤や、自分がこのまま支援者として続けることができるのかという苦悩が伝わってきました。そして、苦悩は決して終わったわけではなく、まだ振り返る時期でもないことが確認されました。「報道されていることは被災地の現実のごく一部。実際に自分の目で確かめるため現場に来てほしい」というメッセージが強く心に残りました。

シンポジウム2では、これまで定例研究・研修会を開催した千葉県、島根県、滋賀県で就労支援に従事している3人から、定例会実施後、地域でのネットワークがどう変わったのか、現在のネットワークの状況や就労支援の現状について報告をしてもらいました。

続く、シンポジウム3では、「就労支援のこれからの展望~直面する危機を乗り越えるには~」というテーマで、東京が抱える課題に焦点を当て、東京の課題はやがては地方でも直面する課題であり、それをどのように乗り越えるのかについてパネルディスカッションが行われました。

3つのシンポジウムを通して、地域ごとに課題は異なるものの、課題解決のためには地域間でのつながりが不可欠であることが改めて浮き彫りになりました。

2日目の基礎講座では、「意思決定支援」について学びました。私たちは、利用者に意思決定を強要してはいないか、決められない自由を保証できているか、自己責任を理由に自分たちの思いと違う決定をした場合に支援を止めてはいないか、等々。支援のキーとなるたくさんの課題を突きつけられました。「人間観のパラダイム転換を図らなければいけない」時期にきていることを痛感するとともに、支援の原点に触れた気がします。

その後の部会別グループワークでは、障害者就業・生活支援センター(ナカポツ)、就労移行支援事業所、障害者能力開発施設(能開)の3部会に分かれ、活発な意見交換が行われました。ナカポツ部会では、B型利用者のアセスメントや、今年度から新たに配置された主任職場定着支援員についての話題もあがりました。就労移行部会では、事業所数が増加の一途をたどるなか、利用者から選ばれる事業所になるためには、ということを話題にしたグループも多かったようです。能開部会では、これまで培ってきた能力開発のノウハウを他の就労支援機関にどのように広げていくか、ということが課題であるという指摘がありました。

その後、部会での議論の報告を踏まえ、シンポジウム4「施策の流れとわれわれの立ち位置」が行われ、厚生労働省障害福祉課長・障害者雇用対策課長を交え議論し、現場からの施策に期待する声を行政に届けました。

4 おわりに

当ネットワークの運営理念の4本柱である「地域で」「連携して」「実践に基づいて」「政策に関与して」を、今回の定例会のプログラムを通して参加者それぞれが確認できる良い機会となりました。特に「地域で」という柱については、シンポジウム1での「震災を経てそれまで以上に『地域性』を強く意識するようになった」という発言にもあったように、私たちが支援をしていくうえでよって立つべきベースを改めて考える場となりました。

全体の感想として「就労支援を支えていくためには「つながり」を大切にしていくことを改めて感じることができた」「日々の支援で疲れていたが、奮い立たされる思いだ」といった声が参加者から聞かれ、共に実践する者同士のエンパワメントの場になったのではないかと思います。次年度の第18回定例研究・研修会は、仙台にて開催することがすでに決定しています。全国就業支援ネットワークの活動に興味をもたれた方はぜひお越しください。

(さかいきょうこ 特定非営利活動法人全国就業支援ネットワーク事務局)