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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

政府報告書及びパラレルレポートに向けて

阿部一彦

日身連では、障害者権利条約締結後、初となる政府報告書は極めて重要な意味を持つとの認識から政府が如何(いか)なる報告をするか特別の思いで注視している。また、パラレルレポートについても同様に強い関心を持ち、それら策定における期待を述べたい。

政府報告書への期待

安易な早期締結を避け、障害者団体等が関係府省庁との協力とせめぎあいにより各種法制の集中的改革を経て権利条約を締結したことや障害者政策委員会が設置されたことは、障害者施策の充実を図る上で大きな前進である。加えて、権利条約の趣旨を踏まえて障害者の定義が拡大され、障害を社会モデルでとらえる考え方をもとに施策が検討されていることを政府報告書に明記すべきである。また、障害者差別解消法が成立した意義と、社会的障壁を取り除くための合理的配慮の浸透が共生社会の実現につながることを明示すべきと考える。

政府報告書には、障害者の総人口だけではなく、年齢構成や障害福祉サービスの利用者数、就労障害者数を性別ごとに記し、わが国では高齢障害者が数多いことや、障害福祉サービスをまだ受けなくても地域社会で暮らしている障害者が数多く存在し、それだからこそ障害福祉サービス以外の障害者施策の充実が求められることを明示してほしい。障害福祉サービスについては現在、障害者総合支援法附則第3条に基づく検討が行われていることを記すべきである。高齢障害者問題は深刻である。現在、障害者基本計画のモニタリングが行われ、それを参考に政府報告書が作成されようとしている。政府報告書では、障害者基本計画に示されていない介護保険が優先される65歳以上の高齢障害者に関する課題にも踏み込んだ分析が求められる。

権利条約第19条(自立した生活及び地域社会への包容)や第28条(相当な生活水準及び社会的な保障)も重要である。障害者基本法第10条では、障害者施策は障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、有機的連携の下に総合的に策定、実施されることの重要性を指摘しているが、関係府省庁が持つ既存の資料には性別や年齢、障害の状態等が示されていない場合が多い。障害のある女性(権利条約第6条)や障害のある児童(同第7条)、高齢障害者(同第25条、同第28条)等の課題を明確にするためには適切な統計資料が求められる。

また、権利条約第30条(文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加)は、元気に充実した生活を送るために重要である。地域社会の中で孤立せずにいきがいのある生活を営むための現状と課題を示す必要がある。都道府県に設置されている障害者社会参加推進センターの意義は大きく、今後、同センターが持つべき役割について検討を加える必要がある。

パラレルレポートへの期待

障害者団体を中核として議論を展開し、パラレルレポート作成作業を進める必要がある。パラレルレポートには、障がい者制度改革推進会議における議論と各種提言について明記し、それらの提言の中で現行法制に取り入れるべき事項について整理すべきである。

障害者差別解消法が地域社会に暮らす我々障害者にとって地域社会を巻き込む重要なツールであることを記すとともに、差別解消のための条例はさらに強力なツールであることを強調し、各地における条例策定の状況についても分析を深める必要がある。

また、移動とコミュニケーション支援が、社会参加、教育、就労等の縦割り制度の弊害により問題を抱えている現状について指摘し、横断的な取り組みが求められることをはじめ、障害福祉サービスと介護保険の問題など、現行制度における重大な課題を明示すべきである。権利条約第11条(危険な状況及び人道上の緊急事態)を踏まえ、東日本大震災がもたらした課題と課題解決のためのあり方を障害者(団体)の観点から整理することも重要である。

さらに、権利条約第26条(ハビリテーション及びリハビリテーション)に記してある障害者相互による支援(ピアサポート)の現状と課題について検討するのもパラレルレポートの役割である。同条で、最大限の自立並びに十分な職業的な能力の達成や生活のあらゆる側面に完全参加し、維持するための効果的かつ適当な措置の一つに「障害者相互による支援」が位置づけられている意義は大きい。また、関係府省庁の報告から漏れがちな地域社会における現状と課題について検討を深めることも重要である。地方自治体の各種資料を活用することの意義と課題について検討すべきである。

今回の一連の検討の中で、障害福祉サービスの充実を図ることの重要性を再確認するとともに、福祉サービスを利用しないで元気に生きがいの持てる生活を持続することの重要性を認識できた。後者に関する事業の多くが国土交通省の所管であることを考えると、厚生労働省だけではなく、国土交通省においても障害者(団体)がこれまで以上に大きく関わる必要性についてパラレルレポートで強調すべきである。

おわりに

権利条約の締結に向け、障害者団体が政策策定過程への関与のみならず、障害者政策委員会において障害者基本計画のモニタリングのシステムが構築された意義は大きい。障害者が「保護の客体から権利の主体」であり、「私たちのことは私たち抜きに決めないで」の実践を内外に示すものである。来年2月の障害者権利委員会への報告を一過性のものにせず、PDCAサイクルをもとに障害者の自立及び社会参加の支援などのための施策の充実に結びつけるのも障害者団体の役割である。

(あべかずひこ (社福)日本身体障害者団体連合会副会長)