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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

障害者権利条約の力を生かそう
日本障害者協議会(JD)の取り組みから

増田一世

はじめに

日本障害者協議会(JD)は、60の正会員団体によって構成されている。60団体はさまざまな障害当事者や家族中心の団体、研究者や事業者、専門職種の団体や学会など、多様な団体が集まっている。そして、日本障害フォーラム(JDF)の構成団体でもある。

障害者権利条約(以下、権利条約)の政府報告書、並びに政府報告書に対する市民団体が提出するパラレルレポート(以下、パラレポ)について、JDFの一員として取り組んでいこう、というのが大前提である。

1 障害者権利条約を自分たちのものに

JDでは、権利条約が会員団体はじめ、障害関係者にとって身近なものになっていくこと、暮らしや活動の中に浸透していくことが大事だと考えてきた。権利条約に批准した2014年にはJDブックレットを創刊し、その1冊目として、JD代表藤井克徳著『私たち抜きに私たちのことを決めないで』(やどかり出版)を出版した。そして、広報誌「すべての人の社会」で「私の考える他の者との平等」「世界のあたりまえを知る」といった権利条約を意識した連載を、2015年には短期連載「誌上講座 政策改善の絶好のチャンス パラレポを活用しよう!」を開始し、韓国やドイツのパラレポへの取り組みなどを紹介した。

そして、JD内部に「障害者権利条約の報告書に関する検討会」(以下、検討会)を立ち上げ、権利条約の政府報告書やパラレポについて情報共有し、会員団体に向けてアンケート調査を実施した(継続中)。政府報告書やパラレポに、各団体の実態調査や当事者や家族の実態を反映させることを意図したものだ。内容は、1.障害当事者・家族などの困りごとや課題、2.各団体が行なった調査研究活動、3.政府や自治体などへの政策提言、要望活動、4.政府や関係省庁に実施を希望する調査などだ。

2 アンケート調査から見えてくる課題

検討会では、寄せられたアンケート結果について政府報告骨子案に合わせて整理したが、その内容はJDの会員団体の多様性を反映して幅広い。とりわけ多くの意見が寄せられたのは、第19条、第21条、第24条、第27条であった。たとえば、第19条では、どこで誰と暮らすのか選択できる住まいの整備が進んでいないこと、精神科病棟転換型居住系施設の問題、施設入所者が地域移行するための地域資源の不十分さ等々が指摘されている。

第21条については、現行の手話通訳制度の課題、行政窓口にいる職員が手話通訳で対応できること、全身性の身体障害のある人の言語障害に対して、社会がゆっくり聴く姿勢をもつことなどが指摘されている。いずれもごく当たり前の要求で、権利条約を物差しとして障害のある人をめぐる状況は「他の者との平等」と大きな乖離(かいり)がある。

そして、もっとも多くの意見が集中したのは、第31条だった。多くの団体から実態を正しく把握できる調査やデータ不足が指摘された。視覚障害者の年齢別人数、自閉症者数といった基礎的データの不足、さまざまな障害のある人の暮らしや労働の実態を把握すべきという指摘等々、正確な実態把握なしに障害者施策が進められていることも浮き彫りになった。一方、会員団体が実施している調査も多く、政府の調査の不十分さを各団体の調査が補完し、パラレポづくりに向けて貴重なデータとなることもわかった。

今回のアンケート調査から明らかになった、障害者施策の根本課題を解決するためにも科学的な調査が必要であり、政府報告書もその視点で点検することが重要であろう。

3 もっとも困難な障害、谷間の障害に注目する

本年5月23日に開催したJD主催の政策会議では、パラレポについて学習し、パラレポが国連の障害者権利委員会から締約国の政府報告書に対して出される追加質問や締約国への総括所見に大きな影響力を及ぼすこと、私たち市民社会の意見が重要視されることなどを確認した。その後、制度の谷間に置かれている失語症の人たち、病名や患者数などで対象が決められ制度の谷間に置かれる難病の人、他の者との平等とは程遠い障害のある子どもの教育の実態、介護保険優先原則(65歳問題)から生まれるさまざまな権利侵害、障害のある人の雇用・労働について現行法に照らして見えてくる課題などが、5つの団体から報告された。もっとも困難を抱える障害のある人たち、谷間に置かれ続けている人たちについて、政府報告書はどう明らかにしていくのか注視したい。

おわりに

「私たち抜きに私たちのことを決めないで」―政府報告書の内容に加え、検討過程も大事だ。内閣府の障害者政策委員会だけでなく、JDFやJDFの構成団体にも広く意見を聞き、最初の政府報告書が作られていくことを期待したい。

パラレポづくりに向けて、JDFを中心にしながら日本の障害関係団体がまとまっていくこと、最も優先されなくてはならない困難な課題、立ち遅れている領域に光を当てていくことが求められよう。そして、他の条約体との連携を進めていく大事な機会にしていきたいものだ。

(ますだかずよ NPO法人日本障害者協議会常務理事)