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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

パラレルレポートをどう作るか

田中正博

昨年、権利条約を批准し締約国となったわが国は、現在、政府報告書をまとめる作業を第3次障害者基本計画の実施状況の監視として進めている。筆者は、障害者政策委員会の委員としてこの作業に携わっている。第3次障害者基本計画については、これまで設定期間を10年間と定めてきたが、権利条約を批准したことを考慮して5年間とした。

権利条約の締約国は、条約に基づく義務の履行状況に関する包括的な報告を行う義務を負い、その1回目の報告は、批准後2年目、以後、4年ごとの報告とされている。このことを踏まえての前述の障害者基本計画の策定、監視と進めている状況である。

障害者基本計画は、実効性の偏りをあまり意識せずに次の計画を立案してきた過去を考えると、締約国となったことで、今まで見過ごされてきた点に焦点を当て、本格的な検証の機会を得たと評価すべきである。

一方で、初めての検証であることからさまざまな課題に直面している。先日の委員会でも伯仲(はくちゅう)した議論があった。「検討すべき範囲がどこまで及ぶのか、明確にすべきではないか」との提案に対して、審議官から「基本計画の監視がどこまで及ぶのか、政策委員会の役割を改めて整理する必要があると思う。委員長とも相談したい」とのやりとりであった。これは混乱と捉えず、現状把握に必要な議論として前向きに受け止め、結論に向かう必要があると感じている。批准後2年目であり、締約国として権利条約に達していない点を探るのではなく、批准に向けて準備してきた今までを検証し、権利条約の定めに到達するにはどの程度の距離感があるのか、確認のために現時点の立ち位置の認識に活用するべきと考えている。そのために肝心なのは、現状把握の基本データ不足を補う視点が必要である。

現在、並行して障害者差別解消法について、平成28年4月の施行に向け、本年2月に閣議決定された基本方針により、現在、国の行政機関及び独立行政法人等において対応要領、各主務大臣において対応指針策定のための準備が行われている。障害者差別解消法第9条第2項及び第11条第2項において、対応要領・対応指針を「定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。」とされている。これを踏まえ、7月から8月にかけて、国の行政機関及び独立行政法人等ならびに各府省庁等がヒアリングを行なった。

これらを踏まえ当会では、生活の各分野における知的障害のある人に対する合理的配慮の具体例の検討を目的として「知的障害のある人の合理的配慮」検討協議会を内部に設置し、本年1月末に報告書をまとめた。これは知的障害のある人の合理的配慮については、その障害特性からイメージが困難であり、差別の根本が「無理解、偏見」であることから、配慮の内容が「無理解や偏見を持たずに接すること」といった抽象論に帰着しがちである。

他方で、知的障害のある人に関しても、生活の各分野に対応する合理的配慮の具体例は少なからず列挙でき、また、障害特性のイメージが困難であるからこそ、具体例を提供し、これを通じたイメージ形成に役立てることが重要であると考えてのことである。

合理的配慮の具体例を列挙するにあたっては、障害者政策委員会が策定する「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(案)」に基づき、障害者政策委員会差別禁止部会の「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」、当会による「差別に関する意識調査アンケート・集計結果について」を参考とした。

検討分野については、差別禁止部会意見の分類を参考として、特に知的障害のある人と関係の深い分野である、「情報・コミュニケーション」「サービス」「住居」「医療」「教育」「政治参加(選挙等)」「司法手続」の各分野について、合理的配慮の具体例を列挙し、分野ごとに一覧表としてできるだけ分かりやすい内容を目指した。なお「雇用」分野については、改正障害者雇用促進法に基づく報告書において、合理的配慮の具体例について検討がなされているため、本報告書の検討対象には含めていない。

合理的配慮に関連する「過重な負担」については、本報告書においては検討していない。また、各検討分野に共通する「合理的配慮」の一つとして、知的障害のある人に対する情報保障の問題が挙げられた。そこで本報告書においては、知的障害のある人に対する情報提供に供するため、『わかりやすい情報提供のガイドライン』を作成し、資料として添付している。

知的障害のある人の場合、意思表明が困難であることに加え、生活歴の中で意思表明をすることの自由や権利(たとえば選挙権等)があることさえ認識していない場合や、経験がなく意思表明ができない場合、自尊心の欠如から意思表明が困難な場合など、権利行使を巡るさまざまな障壁が考えられる。したがって、権利があることを知ってもらうための支援や、権利行使を後押しする支援が不可欠である。

パラレルレポートを作成する際には、当会の視点では、権利擁護に重きを置き、これから具体化していかなければならない「意思決定支援」と「成年後見」の諸課題を整理し、国内の現状に即して現実的な打開策を持つ必要を感じている。

(たなかまさひろ 全国手をつなぐ育成会連合会統括)