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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年9月号

盲ろうを意識した政府報告書・パラレルレポートを

庵悟

1 はじめに

2014年1月に批准された障害者権利条約(以下、「本条約」)英語版第24条の3の(C)の条文の中にある「deafblind」は、「盲聾(ろう)者」がわが国の公定訳となった。これはあらゆる分野において、盲ろう者の存在に注目し、その特性とニーズに合った合理的配慮、施設・設備・支援機器・サービスが確保されなければならないことを意味する。

本稿では、盲ろう者の視点で政府報告書に期待することや、パラレルレポートでさらに踏み込んだ内容にすべきことについて述べる。

2 教育に「盲ろう」の位置づけを

まず、本条約第24条の規定に沿って、盲ろう児・者の教育を受ける権利がどこまで実現できているかを考える。

第24回障害者政策委員会(2015年8月10日)で示された、障害者基本計画(第3次)の実施状況(案)の中に「3―3―(1)―2 障害のある児童生徒に対する合理的配慮について」の記述がある。その中で実施状況として、「『教育支援資料』を全都道府県・市町村教育委員会に配布するとともに、文部科学省ホームページにも掲載し、その周知を図った。」とある。しかし、視覚障害や聴覚障害、知的障害、肢体不自由等の具体的な記載があっても、盲ろうに関する記載がない。

今の日本の教育では、盲ろう児・者は重複障害の一つとして位置づけられていて、視覚特別支援学校や聴覚特別支援学校等において、他の重複障害児・者と混じった重複クラスに編入され、「盲ろう」という独自の障害の特性に応じた教育を受けられていない。

政府報告書において、「盲ろう」という障害の特性に応じたカリキュラム策定の必要性の明記や、教育支援資料等への合理的配慮の具体的記載を求めたい。また、パラレルレポートでは、盲ろう児・者の教育の現状と課題を明らかにし、国内の関係団体と連携しながら盲ろう児・者の存在を意識した教育システムの確立を促していきたい。

3 あらゆる場面で必要な通訳・介助支援

「盲ろう」という障害は、視覚障害と聴覚障害の単なる足し算ではない。たとえば、視覚障害者向けの同行援護は、聞こえていて音声での会話ができる視覚障害者が利用することを想定している。聴覚障害者向けの手話通訳・要約筆記は、見えていて自力で自由に移動できる聴覚障害者が利用することを想定している。

一方、視覚と聴覚の両方の感覚障害を併せもつ盲ろう者には、自力で情報(周囲の状況把握を含む)を取得したり、他人とコミュニケーションをとったり、自由に移動することがきわめて困難である。そのため、教育、雇用、司法等の社会活動のみならず地域住民との交流、通院や買い物等の日常生活のあらゆる場面において、情報・コミュニケーション・移動の3つのニーズを総合的・一体的にサポートする通訳・介助支援が必要なのである。

現在、「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」は、障害者総合支援法の都道府県(指定都市、中核市を含む)地域生活支援事業の必須事業として、また、手話通訳・要約筆記等と同様に、意思疎通支援として位置づけられている。しかし、利用できる時間数が足りない、通勤・通学等の活動では利用できない等、派遣内容の制限があり、多くの盲ろう者がその特性とニーズに見合った通訳・介助支援が十分受けられていないのである。

政府報告書では、障害者基本計画(第3次)における障害福祉サービス等の段階的な検討の中で、盲ろう者向け通訳・介助支援のあり方について重要な課題であることを明記すべきである。また、パラレルレポートにおいては、盲ろう児・者の生活実態、今後の盲ろう者支援のあり方についての展望を示すべきである。

4 「盲ろう」を意識した支援システムの不備

ところで、日本の社会において、視覚障害者や聴覚障害者には設備・支援機器での音声ガイドや文字・画像表示等が充実してきているものの、盲ろう者が使えるものは、ほとんどない。とはいえ最近のICTの進歩によって、ようやくほんの一握りの盲ろう者が、点字の読み書きができる携帯端末(ブレイルセンス等)を使うことにより、自力でインターネットでニュースや好きな情報を得たり、直接相手とメールの送受信ができるようになっている。しかし圧倒的多数の盲ろう者は、点字等の読み書きや、コミュニケーションの技術を習得したり、機器を使いこなすまで到達できず、従って、就労になかなか結びつかないという問題もある。

こうした背景には、わが国にはまだ「盲ろう」という障害を意識した支援システム、教育・職業訓練等リハビリテーションシステムが確立できていないことが関係している。

5 盲ろう者の実態と支援のあり方の明確化

政府報告書では、本条約第9条「施設及びサービス等の利用の容易さ」、第20条「個人の移動を容易にすること」、第21条「表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」、第26条「ハビリテーション(適応のための技能の習得)及びリハビリテーション」、第27条「労働及び雇用」の規定に照らして、盲ろう者の権利がどこまで実現できているかを明らかにすることを期待したい。

また、これまで述べてきた教育、通訳・介助支援、「盲ろう」を意識した支援システムは、いずれも密接に関連しあっている。パラレルレポートにおいては、より横断的な視点から、盲ろう者支援のあり方について明らかにしていくべきではないかと考える。

(いおりさとる 社会福祉法人全国盲ろう者協会)