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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年1月号

「合理的な配慮」理解推進のための調査
~八王子市権利擁護推進部会の取り組み

光岡芳宏

八王子市障害者地域自立支援協議会権利擁護推進部会(以下、「権利擁護推進部会」)は、平成24年4月1日から施行されている、「障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例(以下、「八王子づくり条例」)について、訪問による聞き取りアンケート調査を行なった。アンケート調査は、平成25年8月から9月、平成26年11月から平成27年3月にかけて、八王子市内の商業施設17店舗、医療機関(総合病院、精神科病院)11病院、市営駐車場2か所、金融機関3店舗、不動産業者5事業者を対象に実施した。

今回のアンケート調査は次の3つの目的で実施された。1.八王子づくり条例で謳(うた)っている「合理的な配慮」についての理解を進め、障害のある人が地域で差別されることなく、一般市民と一緒に暮らせることを実現するため、2.そのための具体的な対応、接遇方法等を事業者に理解してもらうため、3.障害当事者自身による調査を行い、障害者の立場から事業者に理解してもらうためである。また事業者が障害のある人たちに対して、すでに行なっている合理的な配慮の事例を収集することも、この調査の目的であった。

調査結果からは、八王子づくり条例を知っていると答えた事業者は約3割、八王子づくり条例の内容や合理的な配慮の意味を知っている事業者はわずか2割という回答であり、八王子づくり条例は施行されたが、市民事業者には十分に知られていない事実が浮き彫りとなった。

以下、今回の調査で明らかとなった合理的な配慮についての一例を記載する。

○金融機関における合理的な配慮

  • 手が不自由な人が可能な限り自筆を迫られないように、あらかじめ書類に氏名を入力して押印だけすれば済むような準備をしている。
  • ATM操作の支援は、暗証番号の入力は行員であってもすることができないので、ATM操作が難しい場合は窓口にて対応をする。その際には手数料は無料としている。

○不動産業者における合理的な配慮

  • 地域の相談支援センターと連携し、空き室を精神障害者対象に、積極的に賃貸物件を提供している。
  • 精神的に落ち着けるように静かな物件を紹介したり、来社が困難な場合には物件前で待ち合わせたり等の工夫をしている。

○商業施設における合理的な配慮

  • 車いすの介助方法について新人対象の研修で行なったり、定期的な接遇研修を行なったりしている。また障害者理解のために、講師を招いての研修を実施。
  • メモ書き、筆談での対応はすべての施設で対応。
  • 知的障害者、精神障害者に対しては、基本的には本人のペースに応じた対応をする。しかし大声や正当性のないクレームなど、業務に支障を来すような場合は、別室で話を聞いたり、警備や警察に連絡をするという対応をとった経験がある。
  • 事業所の中には近接する地域包括支援センターに相談し、対応。

○病院における合理的な配慮

  • 病院内で介助が必要な場合には、「応援コール」ボタンを押すことで、介助ボランティアによる支援を受けられる体制がある。
  • 病院内で診察室やレントゲン室などへの案内の際、見えやすい色の矢印で示したり、「ひらがな」での表記にするなど、知的障害者や弱視の人向けの配慮。
  • 補助犬については、3か所の病院では急性期病院なので衛生上受け入れが難しいとのことだったが、その他は個別に対応。

本調査においては、合理的な配慮を知らないと回答した事業者が大多数であったが、障害のある人に対する配慮はすでに実施しているところも多かった。その背景には、事業所全体として障害のある人への対応に取り組んでいることもあったが、多くはこれまでの日常業務の中で得た経験であったり、直接、障害当事者から要望があり、そのニーズに対応していった結果、自然と配慮が出来上がってきたことも考えられる。

一方では、以下のように配慮が不十分な点も本調査から見つかった。

  • オストメイト対応のトイレがあったのは4割程。
  • 車いす用駐車場は割合的に少なく、平均で1施設3か所程度であった。そもそも駐車場がないところや、提携先に委託しているところが半数。
  • 点字ブロックは完全に設置しているところは1か所のみで、ほとんどの事業者で入口までなどの一部分で未整備のところが大半。
  • エレベーターなどの点字は、約7割のところで実施されていたが、音声については、病院では約8割、商店では4割程度。
  • 視覚障害者が読みやすいホームページを知らない。
  • 不動産業者の中には、過去に精神障害者に部屋を貸していた際、近隣に迷惑をかけられたり、自殺に至った経緯があるので断ったことがある。
  • ファックスやメールでのやり取りについては、多くの事業者が可能としているが、個人情報やセキュリティの観点から、一般的には対応しておらず、個別での手続きが必要。

このような改善すべき配慮(差別と思われる対応)については、八王子市障害者地域自立支援協議会や障害者福祉課、八王子市内の相談支援事業所などが取り組んでいくが、事業者が合理的な配慮(差別と思われる対応の改善)を正当な理由なく行わなかった場合には、差別案件に該当する可能性があり、相談者が市長に申立てた場合においては、八王子づくり条例第21条に規定された、市長の付属機関である「八王子市障害者の権利擁護に関する調整委員会(以下、「調整委員会」)が調査審議を行い、最終的な助言、あっせんの可否を判断する。

調整委員会は7人以内の委員で組織され、1.弁護士、2.人権擁護委員、3.学識経験者、4.医療関係団体代表、5.教育関係機関代表、6.障害者支援事業所代表、7.障害者団体代表(当事者)が担うこととされている。調整委員会は八王子づくり条例の中で、差別是正の仕組みとして大切な役割をもった機関であるが、今回の調査では、認知度は非常に低いことが明らかとなっている。

八王子づくり条例制定後、間もなく3年が経とうとしているが、以上のような結果から分かるとおり、八王子市民、事業者への周知活動は引き続き、積極的に行なっていく必要がある。八王子づくり条例は、障害者への差別を禁止する条例であるが、差別是正の方法は罰則による取り締まりではない。条例の基本理念にあるとおり、障害及び障害のある人を理解することがその方法である。

「障害者に対する差別をなくすための取組は、差別の多くが障害者に対する誤解、偏見その他の理解の不足から生じていることを踏まえ、障害及び障害者に対する理解を広げる取組と一体のものとして行わなければならない。」

本調査も理解を進めるための周知活動のひとつであり、調査を実施することで知らなかった人々に伝えることができた。調査員が障害当事者であれば、さらに効果的に障害者の声を直接、事業者に届ける機会となった。権利擁護推進部会の活動の中では、市内の商工会議所、教育機関、不動産関連団体へ、障害理解のためのパンフレットの配布や八王子づくり条例研修などを行なっており、少しずつではあるが、確実に広まりつつある。

今後、八王子づくり条例は、障害者差別解消法の制定などを受け、改正される予定であるが、条例の内容がいくら良いものになったとしても、その存在を知らなければ意味がない。もちろん、障害当事者が差別に立ち向かうツールとして八王子づくり条例を用いることも大切だが、誰もが安心して暮らせる八王子をつくるために、障害のない人々への理解を進めることが、時間と労力のかかる困難ではあるが、必要不可欠な過程であると考える。

(みつおかよしひろ 日本障害者リハビリテーション協会研修課)

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