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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年1月号

1000字提言

おかしなことだらけの障害年金

市川亨

「日本の社会保障制度で、ここまでずさんなものがほかにあるだろうか」。2年ほど前から、国の障害年金の問題点を追及する報道をしているが、おかしなことが多すぎて、驚き呆れている。ほかの制度にも問題はある。だが、障害年金はレベルが違う。あまりにも理不尽なことがまかり通っているのである。

たとえば、2014年夏に報じた支給・不支給判定の地域差。日本年金機構の判定にばらつきがあり、不支給となる人の割合に都道府県間で最大約6倍の差があることが分かった。その原因は突き詰めれば、年金機構から審査を委託された各地の医師(認定医)の「個性」といってよい。

「認定医が変わった途端に、審査が厳しくなった」「うちの県の不支給割合が低いのは、認定医の先生が優しいから」。年金機構の複数の現・元職員からこうした話を聞いたときは、「そんなことで障害者の生活が左右されてしまうのか…」と絶句した。

通常、神経症(いわゆるノイローゼなど)では、「精神病の病態」と認められなければ、障害年金は支給されない。だが、東日本のある県では認定医の方針で神経症も支給対象にしているという。また、うつ病では、更新の審査が1~2年ごとに必要なことがほとんどだが、西日本のある県の認定医は一律5年にしている。「同一の障害者がこの県では年金を受け取れるが、別の県では受け取れない」ということが、間違いなく起きているのである。

だが、自分の住む県の認定医が誰か、年金機構に尋ねても教えてはもらえない。開示されるのは、50音順に並べた全国の認定医の氏名一覧だけ。不支給の理由についても「障害の等級が2級の程度に該当していないため」などという、理由の説明になっていない通知が届くのみだ。認定医たちは隠れた状態で、説明責任を果たす必要もないまま、障害者の生活を左右する権限を握っているのである。

もっとも、そうした仕組みになっている責任が認定医にあるわけではない。制度を運用している厚労省の問題だ。たとえば、認定医が単独で判断する現在の仕組みを合議制にすれば、地域差はそこまで大きくならないだろう。納得性も高まる。実際、介護保険の要介護認定や、障害福祉サービスの支援区分の判定は、福祉分野などの人間も加わった合議制だ。調査員による生活の場での調査もある。ところが、障害年金の審査は書類だけだ。

なぜ、障害年金はそういう仕組みにしないのか。厚労省の幹部は「コストの問題」を挙げる。要するに「そこまでお金や手間を掛けたくない」ということだ。厚労省は地域差是正に向け、春から新しい判定指針を導入する予定だが、判定の仕組みを根本的に変えない限り、矛盾は残ったままになるだろう。


【プロフィール】

いちかわとおる。全国の新聞・テレビなどに記事を配信する共同通信社・生活報道部記者。1972年山梨県生まれ。地方支局や厚労省担当キャップ、ロンドン特派員などを経て、2014年から同部遊軍キャップ。ダウン症のある子の親でもある。