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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年1月号

列島縦断ネットワーキング【島根】

第5回チャレンジドアートエキスポインジャパン2015
第8回ゆめのつばさコンサート

土江和世

NPO法人サポートセンターどりーむ(以下、どりーむ)は、障がい者のアートの才能を発掘、育成し、その生活を支えるために、アートのビジネス化を促進することを目的として、チャレンジドアートエキスポインジャパンを毎年開催しています。

第5回目となる今年は、オランダ王国大使館、島根県商工会議所連合会の共催となりました。民間が主催する障がいのある人のアート作品のエキスポとして、2015年10月16日(金)から18日(日)の3日間、出雲市駅前のビッグハート出雲を会場に開催しました。開催テーマは「“世界はひとつ(IT’s a small world)”」です。

どりーむの誕生とこれまでの活動

エキスポインジャパン2015とゆめのつばさコンサートの内容をご紹介する前に、どりーむのことを少しお話します。きっかけとなったのが、1976年に重度の知的障がいとして生まれたわが子“広”の誕生でした。広の純粋な心を、その人格を私は誇りに思っています。そこから生まれた深い理念が“明るい共生社会づくり”でした。NPO法人にしたのは8年前、それまでは私財を投じて活動してきました。

民間で福祉活動を続けるのは、容易ではありません。ステージが用意されているわけではありません。資金が用意されているわけではありません。あるのはただ理念のみでした。オランダに渡って各地に広まった山茶花(さざんか)。40年の年月、福祉活動を継続できたことは、まさにこの花ことばのように“困難に打ち勝つひたむきさ”にあったように思えます。

障がいのある人たちが当たり前に生きていけるよう3つの権利を実現したく40年、歩んできました。つまり“学ぶ権利”“楽しむ権利”そして“働く権利”です。その中でも難しいのが“働く権利”です。自活していくため、親亡き後のかけ橋をいかにつなげていくか…。人は単に金銭だけで生きられるものではありません。そこには“生きがい”が必要です。夢といってもいいでしょう。そこで考えたのが“アートによる自立”でした。

芸術で食べていくのは大変ですが、それを利権ビジネス化できれば可能ではないか?障がいのある人の“感性”をデザインとして、社会に、企業に取り入れてもらえたら可能ではないか?そこで、エキスポ(見本市)として世に訴えたのです。

チャレンジドとは、障がい者アートとして普及している“アールブリュット(生の芸術)と同義語です。主にアメリカで使われている言葉で、困難に挑戦し、克服している人を指します。

第5回エキスポインジャパン2015の特徴

(1)オランダ王国大使館との共催

単なる名義だけの共催ではなく、実質的な共催です。オランダから講師2人の渡航費用、滞在費、通訳・翻訳料、などを負担してくださいました。こうした共催が実現したのは、どりーむの深い理念、40年継続してきた福祉活動に、旧知のオランダ王国大使館員のバス・ヴァルクス氏が感動、共感してくださったからです。

(2)島根県商工会議所連合会が共催

チャレンジドアートのビジネス化は、企業の協力なくしては困難です。今年は、その趣旨をご理解いただいた県全体を統括する島根県商工会議所連合会(会頭・古瀬誠氏)が立ち上がってくださいました。

(3)オランダから講師が来日、海外セミナー

海外の福祉の現状を直接、知ることは難しいです。オランダ王国大使館員が関係者と協議し、最良の講師2人を選出してくれました。

(4)オランダから34点のアート作品が特別出展

来日する講師が、オランダ国内に呼びかけ、障がい者アートを収集してくださり、34点の作品が特別出展されました。

(5)オランダ総領事の来場とご挨拶

オランダ王国を代表して、在大阪・神戸オランダ総領事ローデリック・ウォルス氏が来場してくださり、ゆめのつばさコンサートでも挨拶をしていただきました。

(6)出雲大社の特別協賛

わが国を代表する神社の一つ、出雲大社が後援や協賛に名を連ねることはまずありません。それだけ本イベントの理念に賛同していただいものと思います。

以下、エキスポインジャパン2015とゆめのつばさコンサートの概要をレポートしましょう。

★アート作品の展示会

展示会場は出雲市駅北側のビッグハート出雲のアートギャラリーで開催しました。午前10時から午後4時30分の開館時間で、延べ3日間で約500人の来場がありました。出展数はアート作品・絵画約200点、陶芸品約200点の計約400点。アート作品の参加都道府県は鳥取、東京、福岡、神奈川、群馬、兵庫、新潟、島根の計8県です。そして特別出展のオランダの障がい者アート(34点)、ごうぎんチャレンジドまつえ((株)山陰合同銀行運営)のアートとグッズ、ゆめゆくワークサポート(島根県)、わんぱくデザイン研究所(どりーむ運営)の五色天神、の4出展でした。

★海外セミナー1「オランダの障がい者ケアの現状と課題」

10月16日(金)午後2時~午後4時、ビッグハート出雲の茶のスタジオで開催いたしました。講師のマールテン・ウェッセルズ氏にはダウン症の弟デルクさんがいます。デルクさんの生い立ちからどのように家族として彼の成長に取り組んできたのか。マールテン氏のお話から見えてきたのは、国の手厚いフォローとして、その障がいの段階に応じて国が生活費を提供していることでした。現在デレクさんは、24時間看護体制のあるアパートで一人暮らしをしながら、生活はボランティアがサポートしています。今後の課題は、国の財政難に呼応して、いかに支援団体が自立運営していくか?生活費をいかに得ていくか?まさに、わが国と同じ悩みを抱えていることがわかりました。フェムケ・リール氏のご主人です。お二人揃っての来日となりました。

★海外セミナー2「オランダの障がい者アート活動の現状」

フェムケ・リール氏は、オランダのhet Werk vanの代表で、障がい者アートの普及に力を入れています。オランダの34点のアート作品が展示してあるアートギャラリーに移動してのセミナーとなりました。ギャラリーでは、作品を1点1点見ながら、作者の紹介、制作の意図などを説明されました。個性的な作風に感動し、文化の違いが作風に現れ、大変興味深いものとなりました。海外セミナーの参加者は45人でした。

★特別セミナー「知的障がい者の雇用に関する取り組みについて」

10月17日(土)、ビッグハート出雲のレセプションスペースにて開催いたしました。講師は島根県商工会議所連合会会頭(株式会社山陰合同銀行特別顧問)の古瀬誠氏です。古瀬氏は、県の経済界をリードする逸材、また山陰合同銀行のトップとして、いち早く障がい者の雇用を地域の理解を得ながら促進されてきた方です。企業が地域で成長していくこと、企業の社会的責任について、そして真の地方創生について的確なアドバイスがありました。参加者は48人でした。

★第8回ゆめのつばさコンサート

10月17日(土)午後2時~4時30分、ビッグハート出雲・白のホールで開催いたしました。障がい者、健常者が一体となって音楽を通して共生社会を目指すコンサートです。参加アーティストは9組でした。今年の特徴は、共催の在大阪・神戸オランダ総領事のローデリック・ウォルス氏が来場してくださり、冒頭で両国のアートを通した友情を深めたい旨のご挨拶がありました。続いて、島根県知事の溝口善兵衛氏が挨拶に立ち、2か国が一緒になったコンサートのスタートとなりました。

島根大学医学部オーケストラアンサンブルによるオランダ国歌の演奏に始まり、障がい者アーティストが2組、合唱、ジャズバンド、デュエットなどジャンルはさまざまです。障がい者3人による感動的な司会、懸命な出演者の演奏が続き、フィナーレは参加者全員によるオリジナル「OTOMODACHI」を合唱しました。「平和を願って 世界はひとつ、みんなお友だち…」と熱唱して感動的なコンサートは終了しました。また、客席の200人を超える人たちに、障がいのある人たちや参加アーティストが折った折鶴が配られました。

最後に

以上、3日間のプログラムの概要をご報告しました。おおよそですが、3日間の全体来場者数は800人を超えました。山陰島根のこの小さな歩み、この小さなNPOどりーむが…と思うと感慨ひとしおです。でも40年間絶えることなく歩み続けた結果、オランダ王国が動き共催の運びとなりました。本当に感謝です。最後にもう一度、どりーむの思いを聞いてください。

ステージが用意されているわけではありません。
資金が用意されているわけではありません。
あるのは ただ理念のみでした。

(つちえかずよ NPO法人サポートセンターどりーむ理事長)