音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

時代を読む76

チェアスキーの開発
~長野パラリンピックをきっかけに~

長野パラリンピック(1998年)の開催はチェアスキーの開発や普及にとって非常に大きな転機となった。当時障害者、特に車椅子ユーザーがスキーをするということに対して一般的な理解はほとんどなく、どのスキー場に行っても、まずチェアスキーとは何かから説明し、その安全性と素晴らしさを理解してもらわなければならなかった。それがパラリンピックの開催によって一変した。日本人が金メダルを2つ獲得したことも大きな要因であったかもしれない。

さて、チェアスキーの開発については、長野パラリンピックで好成績を上げることを目標にプロジェクトチームを結成して取り組んだ(本誌2011年1月号)。ただし、開発期間が短すぎるため、本来、開発したかった性能や特性を実現させることを止め、選手が違和感なく乗りこなせる特性にとどめた。そして、長野パラリンピックが終わるとすぐに本格的な研究開発に取りかかり、設計・試作と滑走テストを繰り返した。

チェアスキーの性能を左右する大きな要因の一つが、サスペンション機構(衝撃吸収機構)の特性と性能である。座位姿勢で滑るチェアスキーは、立位で滑るスキーヤーのように下肢で衝撃を吸収する動作ができないため、高い衝撃吸収性能が要求される。その要求を満足させるためにはショックアブソーバ(衝撃吸収装置)の性能が大きく関わり、専門メーカーのエンジニアによりチェアスキー専用に設計してもらって組み込んだ。サスペンション機構の特性は、1996年から構想していたものを実現させるよう設計した。その特性は、スキー滑走中のターンの切り替え時にスキー板を加速させるように動かすということである。この特性を備えたチェアスキーの性能を引き出すにはチェアスキーヤーの高い技術が必要であり、誰でも簡単に乗りこなせるものではなかった。しかし、日本チームの選手たちはトレーニングを重ね、技術を高めて乗りこなしていった。そして現在、世界のトップクラスのスキーヤーとして活躍している。

その活躍を目の当たりにした海外選手たちも日本選手が使っているチェアスキーを求めるようになり、今では世界チャンピオンである日本選手をはじめ、多くの世界トップクラスの選手が日本製のチェアスキーを使用しており、2014年のソチパラリンピックでは、男子のメダリストの3分の2は日本製のチェアスキーを使用していた。

チェアスキーの開発は、長野パラリンピック後の4年間で基本的なコンセプトは完成した。その後は信頼性を高めていくことを繰り返している。

(沖川悦三(おきがわえつみ) 神奈川県総合リハビリテーションセンターリハ工学研究室主任研究員)