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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

障害者の家族支援の現状と課題

曽根直樹

1 「障害者の家族支援」とは

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下、「障害者総合支援法」という)や児童福祉法に基づき障害児者自身に対して行われる各種の支援は、本人の生活支援や介護、訓練、発達支援などを目的としているが家族支援としての意味も持つものである。

筆者は、かつて知的障害児通園施設(現在の「障害児通所支援」)で障害児保育をしていた時期があった。通園施設には、知的障害や重症心身障害など、さまざまな障害をもつ子どもが通っていた。通園施設の利用を始めるまでの家族、とりわけ親は、それまでの数年間、生まれたばかりの子どもの障害を医師から告知されて大きなショックを受け、悲しみ、不安の中で障害を「治そう」と医療機関を転々とし、障害の回復に効果があると聞くとさまざまな療法を試す一方、子どもの障害を隠すように人目を避けて自宅にこもった生活を送るなど、強い緊張に支配された生活の中で子育てをしてきた様子がうかがえた。

通園施設は、子どもが親から離れて通園することが基本であった。それまでの親子密着した生活から、日中は親子分離した生活へ移行し、最初は親子とも不安を感じながらの通園であったが、障害のある子どもを育てる親同士が出会い仲間を得、子どもが通園施設の生活に慣れ、楽しんで過ごせるようになると親も安心し、日中ゆっくり家事をしたり、通園施設で出会った親同士が集まって食事会等をしながら悩みを共有したり情報交換するなどゆとりが生まれ、家族の緊張感も緩和され、落ち着いた生活を取り戻すことができるようになっていった。

その通園施設には、「お泊まり保育」という行事があった。通園している子どもと職員が、通園施設で一泊の「お泊まり会」を行うのであるが、この行事が親たちからとても人気があった。親子が夜を別々に過ごすことは、医療機関への入院以外、ほとんどの親にとって初めての体験である。最初は心配で、夜中にこっそり子どもの様子を見に来る親もいたが、子どもの方は親の心配をよそに普段担当している職員と楽しく一晩を過ごすため、2回目からは安心し、その日の夜に合わせて夫婦でデートを楽しんだり、きょうだいにサービスしたり、親同士が集まって朝までカラオケパーティーで大騒ぎしたりと、普段できない特別な過ごし方をするようになっていった。

「お泊まり保育」の翌朝、親たちは化粧も剥(は)がれ寝不足と飲みすぎで顔がむくみ、その夜をどう過ごしたかが言わずとも分かる状態で子どもたちを迎えに来たが、日頃のストレスを一気に解消した表情は誰もが晴れやかで生き生きとしており、「改めて子どものことをかわいく感じた」「また今日から子育てしていく元気が湧いた」などの感想を多く聞いた。

「お泊り保育」に対する家族の希望が高まり、通園施設を運営していた法人は、それを制度外のサービスとして事業化した。家族が何らかの理由で子どもを預けたい時に、子どものことを日頃からよく知る職員が、予約制でそれを引き受けるというサービスで、筆者はその専任職員になった。サービスの予約をしてくる時に、ほとんどの家族は利用時間中の子どもの過ごし方について要望を伝えてきた。「食事はハンバーグにしてほしい」「日中はプールに連れて行ってほしい」「テレビは、いつも楽しみにしている番組を見せてほしい」。サービスの利用時間中において、子ども自身の希望が尊重され、いつもと同じような生活をさせてほしいと望んだ。家族が望んでいたことは、家族の都合で「子どもを預ける」ことではなく、家族が世話をできない時に、家族と同じように子どもを尊重した支援が受けられることであった。

これらの「通園施設」や「お泊まり保育」「制度外サービス」の体験を通じて理解したことは、家族は、障害のある子どもの生活が尊重されるサービスが提供されることで、初めて本人の世話から心身ともに解放され、サービスを利用している間を自分自身の時間として過ごすことができる、家族支援は本人支援の上に成り立つということであった。

また、家族は障害のある子どもたちが、同じ地域の障害のない子どもたちと一緒に育つことを望んでいた。時代とともに、通園施設に通いながら一般の保育園、幼稚園に通う子どもたちが増えていき、それを支えるために、通園施設の職員が保育園、幼稚園を訪問し、障害のある子どもに対する支援方法を保育士などに伝えた。最初は障害児の受け入れに戸惑っていた保育園、幼稚園側も、子どもたちを受け入れ、保育等の経験を積むうちに重度の障害児の受け入れも可能になり、自治体も保育園に保育士を加配し、看護師を配置して体制を整えた。すると、障害のある子どもの就園先として保育園、幼稚園を選ぶ家族が増え、通園施設に通う子どもは減っていき、通園施設の機能は同じ法人が運営する診療所が行う個別のリハビリ等に置き換えられていき、通園施設は閉園となった。

地元の保育園、幼稚園に通うようになった子どもたちの就学先は、「友だちと同じ地元の学校に行きたい」という希望が増えていった。教育委員会は、家族の就学先の希望を尊重するようになり、地元の学校に介助員を配置し、看護師を派遣して体制を整えた。自立支援協議会では、子どもの育ちを支える部会を設け、保育、教育の連携を進めるために家族、保育園、幼稚園、学校、教育委員会、相談支援事業所などが話し合い、家庭や保育園、幼稚園での子どもの様子を記録にまとめ、就学先の学校と話し合い引き継ぐ取り組みが開始された。

障害のある子どもへの支援が家族支援に影響を与え、相互に関連し合いながら発展し、通園施設のあり方を変え、保育園や幼稚園、行政、学校教育などを動かして、地域の支援の仕組みを変えていった。

2 障害児に対する支援と家族支援

厚生労働省では、平成26年1月に障害児支援の有識者や関係団体を構成員とした「障害児支援の在り方に関する検討会」を設置し、7月に「今後の障害児支援の在り方について(報告書)~「発達支援」が必要な子どもの支援はどうあるべきか~」(以下、「報告書」という)を公表したが、その内容は、先に述べた筆者が経験した出来事と関連しているように思われる。

報告書では、基本理念として、1.地域社会への参加・包容(インクルージョン)の推進と合理的配慮、2.障害児の地域社会への参加・包容を子育て支援において推進するための後方支援としての専門的役割の発揮、3.障害児本人の最善の利益の保障、4.家族支援の重視、を挙げた。

地域社会への参加・包容を進めるために、保育所や放課後等児童クラブ等の一般的な子育て支援施策における障害児の受け入れを進めることにあわせて、教育ともさらに連携を深めるとともに、障害児の支援を専門的に行う障害児通所支援・入所支援の施設・事業所等が、保育所等を訪問し、障害児に対して障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的な支援等を行う保育所等訪問支援などのサービスに積極的に取り組み、持っている専門的な知識・経験を、保育所等の一般的な子育て支援施策における障害児の育ちをバックアップする後方支援としての機能を果たすことが必要であるとされた。

また、保育園、幼稚園等から学校教育へ、学校教育から就労支援機関へといったライフステージに応じた切れ目のない支援に加えて、ライフステージの各段階に応じた関係者の連携を充実させていくことが必要であるとした。

家族に対する直接的な支援としては、保護者の「子どもの育ちを支える力」を向上させることを目的としたペアレント・トレーニング等の支援や家族の精神面でのケア、カウンセリング等の支援、保護者等の行うケアを一時的に代行する支援(短期入所等)を充実させることを目指して制度のあり方を考えるべきであるとする考え方が示された。

障害児相談支援は、地域における連携の要として、障害児本人だけでなく保護者・家族にも寄り添うことが重要であると記された。

3 障害者総合支援法3年後の見直しと障害児者及び家族への支援

成人の障害者に対しては、障害者総合支援法に基づく支援がある。平成25年4月に施行された障害者総合支援法の附則では、施行後3年を目途として見直しの検討が行われることになっており、厚生労働省社会保障審議会障害者部会において平成27年4月から検討された結果が、12月に報告書「障害者総合支援法施行3年後の見直しについて」として取りまとめられた。

ここでは、次のような施策、取り組みの必要性が指摘されている。

(1)新たな地域生活の展開

障害者が安心して地域生活を営むことができるよう、緊急時の対応等を行う地域生活支援拠点の整備を推進する。知的障害者や精神障害者が安心して一人暮らしへの移行ができるよう、定期的な巡回訪問や随時の対応により、障害者の理解力・生活力等を補う支援を提供する新たなサービスを実施する。重度障害者に対応可能な体制を備えたサービスをグループホームに位置付ける。

「意思決定支援ガイドライン(仮称)」の作成や普及させるための研修、「親亡き後」への備えも含め、成年後見制度の理解促進や適切な後見類型の選択につなげるための研修を実施する。

入院中も医療機関で重度訪問介護により一定の支援を受けられるように見直す。通勤・通学に関する訓練を就労移行支援や障害児通所支援により実施する。就労定着に向けた支援が必要な障害者に対し、一定の期間、企業・家族との連絡調整等を集中的に提供するサービスを就労移行支援や就労継続支援で実施する。

(2)障害者のニーズに対するよりきめ細かな対応

乳児院や児童養護施設に入所している障害児や外出が困難な重度の障害児に発達支援を提供できるよう必要な対応を行う。医療的ケアが必要な障害児への支援を推進するため、障害児に関する制度の中で明確に位置付ける。

放課後等デイサービス等について、質の向上と支援内容の適正化を図るとともに、障害児支援サービスを計画的に確保する取り組みとして、自治体においてサービスの必要量の見込み等を計画に記載する。

障害者が介護保険サービスを利用する場合も、それまで支援してきた障害福祉サービス事業所が引き続き支援できるよう、その事業所が介護保険事業所になりやすくする等の見直しを実施するなど、障害福祉制度と介護保険制度との連携を推進する。介護保険サービスを利用する高齢の障害者の利用者負担について、そのあり方についてさらに検討する。精神障害者の地域移行や地域定着の支援に向けて、市町村に関係者の協議の場を設置することを促進するとともに、ピアサポートを担う人材の育成等や、短期入所における医療との連携強化を実施する。障害種別ごとの特性やニーズに配慮したきめ細かな対応や、地域の状況を踏まえた計画的な人材養成等を推進する。

(3)質の高いサービスを持続的に利用できる環境整備

主任相談支援専門員(仮称)の育成など、相談支援専門員や市町村職員の資質の向上等に向けた取り組みを実施する。サービス事業所の情報公表、自治体の事業所等への指導事務の効率化や審査機能の強化等の取り組みを推進する、など。

4 まとめ

障害児者及び家族に対する支援は、時代とともに見直されてきた。障害児者に対する支援の充実は、直接的、間接的に家族支援となり、障害児者も家族もそれぞれが地域社会の中で自己決定、自己選択に基づく自立した生活を送ることができるようになる。そのことをとおして、障害者総合支援法の基本理念である、すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に近づくことにつながるものと考えている。

(そねなおき 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域生活支援推進室障害福祉専門官/虐待防止専門官)