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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

こころの不調・病気のある子どもの家族と支援者の会「こころ・あんしんLight」
―家族のピアサポートから、友達と支え合う精神保健福祉教育へ

久下明美

会の設立の経緯

ある日、気になり始める子どもの異変。学校や日常の生活に不適応が起こり、不眠や痛みなどの体の不調も出る。多くは登校困難になる。見守っていていいのか、教え諭すべきなのか、何か手助けするべきなのか、カウンセラーか誰かに相談するべきか。心配な様子があっても、本人の成長や環境調整によるストレス軽減で治まる場合が多い。「過保護や病気扱いはかえって良くない」と言われる。確かにそうかもしれない。だが中に、治療で苦痛を和らげた方が良い場合、医療が必要な場合もある。その見極めは難しい。

心配したり叱ったりしているうちにいつの間にかコントロールできない状態になる。混乱の渦の中で疲労困憊(こんぱい)、「もしや“こころの病気”?」と思っても周囲の目や自分自身にそれを認めづらい思いがあり、受診になかなか踏み切れない。安易に子どもを精神疾患や精神医療に結びつけることは警戒した方がいい。児童思春期に専門性を持つ精神科医や医療機関もまだ少ない。安心して治療が受けられるとは限らない。だが、しかし…。

わが子が学校や友人関係などの居場所から隔絶された焦りと悲しみ。子どもは症状や自己否定に苦しみ、自分自身や家族を攻撃することもある。苦しむ子を見る辛さ。受診するまでの苦労。思い切って受診し、疾患名を告げられた時のショックと複雑な思い。それまで子どもに投げかけた否定の言葉や態度がわが子をいかに深く傷つけたかの悔い。自分の子育てがわが子を病気にしたのかとの罪悪感。将来も社会から閉ざされたかのような孤立無援感。なぜ、こんなことにという怒り。こころの病気や障害の正しい知識がなく、先の見えない不安と孤独。誤解や偏見、恐れや差別的意識。これらの「ないまぜになった“分からなさ”“不安”“認めたくなさ”」が、当事者・家族・周囲の人の深い悩みや軋轢(あつれき)、こころの痛みを多く生んでいることを、私たちは経験から実感している。混乱する家庭内で子どもに向き合う強いストレスから、親も治療を要する精神不調に陥ることが珍しくない。

分かってくれる人がほしい。ありのままの思いを否定されずに話せる場がほしい。受け止めてくれる人がいたらそれだけでも、こころに安心が広がり回復に向かえる気がする。教育相談や児童心理相談、保健所、不登校の親の会、精神障害者家族会、あちこち探してもニーズに合う場がうまく見つからなかった。良かれとのアドバイスも、立場や視点が違うと親の傷ついたこころには辛く感じる。そんな親同士が巡り合わせで偶然出会い、「同じ立場の親が出会える場を作ろう」と話し合ったのが新たな会設立の動機となった。

会の目的

「こころ・あんしんLight」(こあら)は、学校に通う年齢層(小学生~25歳くらい)の、こころの不調や病気のある子どもの家族と支援者の会である。2009年、兵庫県の阪神地域を中心に約10人の親で発足した。

当初は“思春期・青年期のこころの病気を抱える子どもの家族会”と考えたが、検討して対象を広げた。思春期以前の小学生にもうつや不安障害があり、メンバーにもその経験をした親がいたこと。「“病気”と“病気でない不調”は連続していて境目は不明確」という親たちの実感。“障害受容”の課題を待つ人もいる。親の悩みは病気の診断よりはるか前から始まり、さらに後まで続く。“病気”を受け入れた段階の人だけでなく、その手前や周辺も含め、「ないまぜになった“分からなさ”“不安”“認めたくなさ”」で悩む気持ちを区別なく受け止める会にしたかった。

親が癒されると、子どもの辛さを受け止めることができるようになる。子どものありのままを否定せず、こころの病気や障害を正しく知って否定や特別視せず“誰にでも起こりうること”“人生にいろいろある苦労の一つ”と考えることができたらいいのではないか。学びと啓発も会の大切な目的と考えている。

会の活動・今後の展望

今は会員約70人。親たちが語り合い情報交換する定例会、医療・福祉専門職を招いた学習会・懇談会、電話・メール相談、会員や地域向け講演会、外出や出会いの場になる子どもの集まり、学校や地域への啓発、隣接分野の家族会や当事者会との交流などを行なっている。

2012年からは、思春期向け精神保健福祉教育の教材開発を手がけ、高校や大学への出張授業や教員研修を自治体との協力で実施している。不調や病気を経験しても学校や地域で受け入れられ、すべての子どもの権利とこころの健康が守られるよう、子どもたちの正しい理解と支え合える環境づくりを目指している。

(くげあけみ NPO法人こころあんしんLight理事長、スクールソーシャルワーカー)