音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

1000字提言

インクルージョン社会を目指して
~スペシャルオリンピックスとの出合い~

細川佳代子

オリンピック・パラリンピックが始まると日本で会う知人から「大会行かないの?」とよく聞かれる。「障がい者のオリンピックである=パラリンピック」と誤解されるのだ。パラリンピックはオリンピック同様、知らない人はいない。強さや速さで世界一を目指す大会は、観る人にも大きな感動と勇気を与える。

では、私たちの「スペシャルオリンピックス(以下、SO)」が知的障がい者の大会で、夏・冬のオリンピック前年に別の国で世界大会を開催していること、冬季世界大会が2005年に長野県で開催されたことをご存じであろうか。SOとは、知的障がいのある人たちに日常のトレーニングと競技会をボランティアたちが提供している国際的なスポーツ組織。40年以上前にケネディ大統領の妹が知的障がいのある方たちに開いたデイキャンプが始まりで、日本での活動も20年を超える。今年2月には、新潟で来年の世界大会の予選を兼ねた冬季ナショナルゲーム(全国大会)も開催される予定だ。

私がSOと出合ったのは24年前。熊本の地方新聞の「ダウン症で難聴の10歳の女の子がSO世界大会体操競技で銀メダル獲得」という記事がきっかけだ。すぐに彼女のコーチに講演を依頼し、心から感動したことを2つご紹介しよう。

1つめは、このコーチが指導を始めるきっかけとなった牧師さんの言葉だ。「どんなに医学が進歩しても、人間が生まれ続ける限り約2%知的障がいの子どもが生まれてくる。周りの人に優しさや思いやりを教えるため神様が与えてくださる贈り物だから…」。これまで傲慢な価値基準で障がいは気の毒で不幸なことと同情してきた「過ち」にはっとした。

人はみな幸せになるために生まれ、各々の存在自体に意味があり、かけがえがないものであること。障がいは暗くてマイナスなものではなく、彼らの個性を理解して必要な部分のサポートさえできれば、本来の可能性や能力を発揮して、活き活きと地域で暮らせると気づいたことで私の人生は変わった。

2つめはSO独自の理念だ。それぞれの目標に勇気を持って挑戦し、ゴールまでベストを尽くしたすべての人が勝利者だという理念。「ナンバーワン」より「オンリーワン」、昨日の自分に勝つことを重視する理念は、世界の頂点を競うオリンピック・パラリンピックとは大きく異なる。競争主義や効率重視の日本で、今こそ一番大切にすべき理念なのではないかと感じている。

障がいのある人たちと出会い、彼らの純粋さ、ひたむきさに触れ、私の人生はとても豊かになった。日本中の人が彼らと触れ合い、優しい気持ちで満たされたら、障がいは「個性」となり、誰もが輝いて暮らす温かな社会は夢ではないと思っている。


【プロフィール】

ほそかわかよこ。NPO法人勇気の翼インクルージョン2015理事長。公益財団法人スペシャルオリンピックス日本名誉会長。知的障がいのある人の自立と社会参加を目指して「スペシャルオリンピックス日本」を設立。「インクルージョン社会」の実現に向けて活動を続ける。ドキュメンタリー映画5作品を製作・総指揮。著書『花も花なれ、人も人なれ ~ボランティアの私~』