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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年3月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

より多くの方がみやぎを楽しめることを目指して
~「旅行サポートブック」の発行とみやぎユニバーサルツーリズムシンポジウム開催~

武田輝也

はじめに

宮城県リハビリテーション支援センター(以下、当センター)では、2014年から障害のある方や高齢の方の「旅行」をテーマに取り組みを始めました。活動としては大きく2つあり、第一に「障害のある方・高齢の方とご家族のための旅行サポートブックみやぎ」の発行、第二に「みやぎユニバーサルツーリズムシンポジウム」の開催です。本稿では、この2つの取り組みと今後の展望について紹介します。

当センターでは、リハビリテーション医療の提供や生活支援機器の相談、地域でのリハビリテーション相談等を行なっています。多くの相談の中で、たとえば障害児のいるご家庭では家族全員が揃っての旅行の経験が少ないこと、介護しているご家族からは要介護者との旅行のハードルが高いなどの事例に遭遇していたものの、事業として正面から向きあった企画や実施はなかなかできませんでした。

そんな2013年のある日、宮城県栗原市で生活介護事業所を運営するNPO法人みやぎ身体障害者サポートクラブの野澤タキ子さんから、事業所で実施する旅行での困難な点や、インターネット上で公表されている「バリアフリー情報」は有効とは言えず、県内外問わず、現地調査をした上で旅行する必要があること、また受け入れ可能な旅館・ホテルが少ない状況にあることなどのお話を伺う機会がありました。「県内は当事者から旅行に行きたいと言い出せる状況ではないし、家族も負担が大きくて簡単には旅行に連れていかれずサポートも少ない」というお話を聞き、まずは当センターでこの現状に対し何か対応できないか検討を始めました。

旅行の一歩を応援するサポートブックづくり

当センターが取り組むに当たっては、仙台市を中心にバリアフリーなまちづくりに取り組んでいるNPO法人ゆにふりみやぎ理事長の伊藤清市さん、視覚障害者の相談・支援に取り組んでいるNPO法人アイサポート仙台の阿部直子さん、ユニバーサルツーリズムに取り組んでいるUT東北の金田真須美さん、高齢者の旅行支援に取り組んでいる介護老人保健施設なとりリハビリテーション科長の大内義隆さんらに助言をいただきました。「旅行の準備はどうすればよいか」「相談先はあるか」など、まずは当事者や家族の目線に立ち、宮城県内の情報や実際の旅行事例を発信し、旅行の一歩を踏み出すきっかけづくりを目指しました。それが「障害のある方・高齢の方とご家族のための旅行サポートブックみやぎ」です。県内で高齢者支援や障害者支援の現場で旅行支援に関わっている方々からなる作成検討委員会を設け、内容の検討、現地取材などを行いまとめました。サポートブックは、A4版の20ページで3つの内容で構成されています。

1つ目は「みやぎ」を楽しむモデル事例です。視覚障害者や車いすユーザーの方とそのご家族も含めて県内の観光地を歩き、学び、泊まった体験を掲載しています。2つ目は県内のバリアフリー旅行お役立ち情報として、県内の移動や宮城県を訪れる際の交通機関の状況や問い合わせ先をまとめています。また、県内でバリアフリー旅行支援に取り組んでいる団体等も掲載しています。3つ目として、旅行のチェックリストです。「旅行に行きたいけど準備はどうしたらよいだろう」「家族を旅行に連れていきたいけど、心配なことを整理したい」など旅行の企画に役立ち、より具体的に旅行をイメージすることを目的にしています。旅行のプロセスを1.旅行計画、2.情報の入手、3.旅行準備、4.同行者、5.出発地からの移動、6.目的地内での移動、7.観光・体験、8.宿泊施設に分け、それぞれに心配なことや必要なサービスについての一覧となっています。またチェックリストを活用することで、行き先の観光資源の情報を得るきっかけや観光施設への問い合わせ、必要なサポートにつながってほしいと考えています。

モデル事例の取材は、当事者や家族の方と一緒に旅行計画から話し合い、旅行先での観光や体験などできる限り旅行者の要望にも対応しながら、「障害があっても、高齢になっても旅は楽しめる」をコンセプトに執筆、編集を進めました。

旅の新たな楽しみ方の発見も

視覚障害のモデル事例では、「手で見る旅 触れて納得」というテーマで、宮城教育大学特別支援教育講座長尾博教授と石巻市や日本三景松島を巡りました。石ノ森章太郎記念館の「石ノ森萬画館」では、目が見えなくとも触れてどこまで楽しめるかということをテーマに取材しました。マンガは見えない人や見えにくい人にとってともすると縁遠いものですが、触れて体感できるものや触って発見できるものが意外に見つかり、目が見えなくとも障害があっても旅をこんなに楽しめるということがダイレクトに伝わる事例となりました。

また、石ノ森萬画館のスタッフや海産物直売所の方とさまざまなやりとりをするうちに、観光地における合理的配慮とは何かということも取材を通じて考える機会となりました。取材先とは、取材交渉は行なっていたもののどのように体験するかは打ち合わせしないで、その場でスタッフの方に人的対応の工夫や展示の工夫を相談しながら取材を進めました。ほかに宮城ならではの「チェアスキーの体験」や「宮城の三大プロスポーツ」などの事例も掲載しています。

多くの観光施設では、取材当初は「合理的配慮」というと何かさせられるのではないか、苦情を言われるかもしれないという身構えた姿勢もありましたが、取材を進めるにつれて、実は旅館や観光施設にとっては「より多くの方に楽しんでいただくための対応」として、お客様に楽しんでいただく視点での提案や実践をしていただきました。旅行における環境の整備は、障害のある方だけでなく、超高齢化社会全体の課題であり、課題の解決を図る上で、合理的配慮の工夫・実践が旅の楽しさを広げることにつながると思います。

みやぎユニバーサルツーリズムシンポジウムを開催

平成27年12月5日(土)、宮城県庁を会場に「みやぎユニバーサルツーリズムシンポジウム」を開催し、110人余りの障害者やその家族、福祉・医療関係者等が参加し、基調講演やパネルディスカッション、旅に役立つ相談コーナーや、より旅をアクティブに楽しむための機器展示などで会場は熱気につつまれました。

基調講演では、神戸ユニバーサルツーリズムツアーセンターの鞍本長利さんから、兵庫県神戸市で市民活動として行なっている障害のある方の旅行を通じたまちづくりの取り組みについてご紹介いただき、パネルディスカッションでは宮城県内の現状と今後のあるべき姿を共有しました。

宮城の現状として、震災復興の過程の中で、観光施設や公共交通機関のハード面の改善が進んでいます。しかし、より多くの方が観光やレジャーを楽しめる観光施設のソフト面、つまりは合理的配慮に基づいた接遇・接客が今後の取り組みのカギとなります。そのために、より多くの関係機関がさらに協働する必要があることを共有しました。

さいごに

当センターで旅行をテーマに事業を取り組む中で、「リハビリと旅行は何の関係があるのか?」「旅行は観光関係の部署がやることでは?」という意見をいただくことも多くありました。当センターでできる取り組みには限界があり、県全体の観光の受け皿づくりは観光担当部署なども大きく巻き込まなければ、障害のある方の旅行の課題解決は進みません。現在の観光業界や宿泊施設は、多くの場合は健常者を想定しています。外国人の誘客は積極的に行なっている一方で、障害のある方の旅行については活発に進んでいない状況にあります。障害のある方の旅行を考えた時に、観光担当部署と保健福祉医療関連部署との協働は必須であると思います。今後も、当センターは障害福祉の支援機関の立場で継続的に旅行支援について取り組む所存です。

(たけだてるや 宮城県リハビリテーション支援センター)


*旅行サポートブックは、下記のホームページに掲載しています。http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/rehabili/supportbook-0.html