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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

知り隊おしえ隊

京都へおこしやす
―新旧の文化がまじりあう岡崎エリアのご紹介

小泉浩子

京都の春は、鴨川を中心に桜吹雪があちこちで見られます。

そして寺院、仏閣など、日本の歴史にとってとても大切な場所が多くあり、誰しも一度は京都を旅行してみたいと思うことでしょう。

けれども、神社やお寺は古い伝統的な建物で、基本的にバリアがいっぱい。また、ここ数年、特に外国からの観光客が増加し、シーズンになると人でいっぱい。市バスなども大行列で、満員ぎゅうぎゅうになります。

そういう意味で、車いすの人が安心して観光するにはけっこうハードルが高いのが現状です。

今回は、そうしたハードルを上手にクリアしつつ、京都のいいところを十分に満喫できるエリアを紹介します。平安神宮、南禅寺、永観堂などの有名な神社、お寺があり、また広々とした清潔感ただよう敷地の中に、動物園や美術館、劇場などの文化・芸術施設が集積している洛東の岡崎公園周辺の紹介です。

蹴上インクライン

京都はバスが発達していますが、京都駅前のバスターミナルに行ってみたら、みんなびっくりするかと思います。バス待ちの大行列ができています。特に、春、秋の観光シーズンの京都は、道も渋滞しているので、移動にも時間がかかります。ぎゅうぎゅう詰めの車内で苦しい思いをすることになりかねません。また、車いす使用者は、本来はあってはならないのですが、この混雑する時期は、乗車を後回しにされてしまうこともあります。できるだけ、目的地の近くまでは地下鉄で行くことをお勧めします。

今回紹介する岡崎エリアは、地下鉄東西線「東山」駅か「蹴上」駅から歩いてすぐのところにあります。京都駅から地下鉄烏丸線に乗り、「烏丸御池」にて東西線に乗り換えます(東西線はフルスクリーンタイプのホームドアを採用しています)。30分以内で行けると思います。

今日はまず「蹴上」駅へ。「蹴上」のエレベーターを上がると、目の前に赤煉瓦のトンネルが見えます。このトンネルは、蹴上インクラインの下のトンネル。インクラインというのは、船を台車に乗せて運ぶ傾斜鉄道のことで、その昔、琵琶湖疎水を利用する船の山越えに使われたそうです。今は使われていませんが、明治時代の情緒が漂ってきます。

南禅寺

蹴上インクラインを見ながら、南禅寺に向かいます。この通りは、岡崎桜回廊とも呼ばれ、桜の名所にもなっています。

電動車いすで10分ほど歩くと南禅寺三門にたどり着きます。南禅寺三門は、かつて石川五右衛門が「絶景かな、絶景かな…」と語ったとされる名所。急な階段を上がると美しい景色が見られるそうですが、残念ながらここは、車いす使用者は、上がることができません。しかし、石段の下から見上げる三門は、重々しさを感じます。

三門から車いすで2分くらい歩くと、少し奥まったところに、南禅寺の周りの風景とは少し異色な感じをさせるレンガ造りの水路閣があります。アーチ型の橋脚は、とても風格を感じます。よく京都を舞台とするドラマのクライマックスに登場するような場所なので、「あぁ、ここか」と思うと思います。この水路閣は、写真撮影スポットのようで、若い観光客が、次々に写真撮影をしていました。

永観堂

次は紅葉で有名な「永観堂」を目指します。南禅寺を通り抜けて車いすで5分ほど歩くと「永観堂」に到着です。途中、道幅が少し狭く道は時に溝があり、歩くのに少し注意が必要です。

この永観堂が、今回の目玉といってよいかもしれません。京都のお寺は多少はバリアフリー化されるようになってきていますが、たいていは、車いすの別通路があったり、行けるところがかなり限られている場合が多いです。

永観堂はほとんどがバリアフリーになっており、他の拝観者と同じように廻れます。エレベーターやリフト、そしてスロープがとても丁寧に、しかも景観を損なわないようさりげなく、設置されています。

取材日、受付では、残念ながら、室内用の手動車いすに乗り換えていただきたいと言われました。でも、本堂に向かうと、若いお坊さんが待っていて、「そのままの方がいいですか」と声をかけてくれました。「このまま行きたい」と告げると、濡れタオルを手にした2人のお坊さんが出てきて車いすのタイヤをきれいにふいてくださいました。

それから、1人のお坊さんが、「段差解消機リフトがありますので、その使い方だけご説明させてください」とその場所まで案内してくれました。その後は「ご自由に、ゆっくりご観覧ください」と…。

永観堂は、秋の紅葉の美しさと「みかえり阿弥陀」で有名ですが、新緑の季節もとてもすばらしいと言われています。

「みかえり阿弥陀」は、阿弥陀堂の一番奥に纏(まつ)られていて、車いすの私は、残念ながら畳の部屋には入れず、少し遠くから拝みました。なぜか、さみしさの漂う阿弥陀さまに私にも少し静かな時が流れました(ちょっとお願いしたら、畳にマットを敷いていただき、上がることも可能のようです)。車いすトイレが本堂内と庭の両方に設けられており、すべてが大満足でした。

京都市動物園

永観堂を後に、来た道を戻る形で、15分くらい歩きます。京都市動物園の東門入り口から入ります。身障者手帳を持っていれば、無料で入園できます。京都市動物園は、日本で2番目に開園した歴史ある動物園ですが、昨年4月にリニューアルオープンし、洗練された空間になりました。

京都に来てまで動物園?と思われるかもしれませんが、「京都の森」コーナーがあったり、ゾウさんやキリンさんもとても見やすく、もちろん車いすトイレ等も整備されているので、通過がてらに立ち寄ったら、ほっこりできると思います。正門2階には、レストランなどもありますが、土日は大勢の家族連れでいっぱいなので、平日がお勧めです。動物園内を通過して、正門玄関から出て、5分ほど歩くと、平安神宮の大きな鳥居が見えてきます。

岡崎公園

岡崎公園は、平安神宮辺りの広場一帯を指します。中心に平安神宮があり、まわりに動物園や京都市美術館、国立近代美術館、大規模な劇場、観世会館(能楽堂)、京都市図書館などがあり、文化的にもとても豊かな地域です。最近、ロームシアター京都という劇場のリニューアルにあわせて、岡崎公園内の整備も進み、とても広々として開放的で、清潔感もある素敵な地域になりました。

このエリアの難点は、お昼ご飯を気軽に食べられる手ごろなお店が少ないということです。でも、この日は、このエリア内にあるフランス料理のお店のランチボックス(1200円)を買い、ほのぼのとした日差しの中、気分よく公園でランチをいただくことができました。この日は土曜日で家族連れがゆったりと、のんびりと時間を過ごしている感じでした。私ものんびりと心地よい時を過ごせました。

公園の一角に、電車がぽつんと置かれています。ちょっと近づいてみると、立派なスロープがついており、入っておいでと言われているような気がして、ちょっと中をのぞいてみました。実はこの電車、京都市電岡崎コンシェルジュという名の観光案内所なのでした。ちなみに、京都のこの市電は、日本初の一般営業電車らしいです。

公園内には、ひときわ目をひく「ロームシアター京都」があります。このロームシアターは、もともとは、京都会館という名称で50年間にわたり「文化の殿堂」としての役目を果たしてきた建物ですが、2016年1月に「ロームシアター」として、新たにオープンしました。1階には「蔦屋書店」と「スターバックス」が入っています。そこらの蔦屋とはだいぶ趣を異にしており、芸術関係の本がずらりと陳列されています。かなりおしゃれなスポットです。本は低い位置に陳列されており、車いすの私もゆっくりと本を見ることができます。

ロームシアターは単に劇場だけでなく、市民一般に開かれた建物で、広々としたオープンスペースもあります。ちょっとのぞいたら、京都の新しい文化に触れることができるかもしれません。

平安神宮

最後に、平安神宮です。正門をくぐると、広々とした庭が広がります。スロープは少々ついていますが、本殿での参拝は、車いす使用者は、単独では難しいようです。また、神苑というお庭も有料で見ることができますが、車いす使用者は別ルート。ルートの中にも階段が数か所あり、バリアフリーの観点からはまだ不十分でした。

これまで、何となく、お寺や神社はバリアがつきもので、車いす使用者には行きにくい場所という感じがしていましたが、「永観堂」のように車いす使用者をウエルカムしてくれるお寺もちょっとずつ現れています。

4月に障害者差別解消法が施行されました。神社仏閣も例外ではないです。京都は古いものを大切にしている街ではありますが、その中でも「永観堂」のようにがんばっているところもあります。古い伝統的な建物にも私たち車いす使用者が溶け込んでいけるように、ちょっとずつ、改善を求めていけたらいいと思います。

京都に長年住んでいる私、改めて京都観光。

京都はいいところです。

どうぞ京都におこしやす…。

(こいずみひろこ 日本自立生活センター)