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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

当事者に寄り添う支援
~ビートスイッチの活動

斎藤茂

1 はじめに

認定NPO法人ビートスイッチの活動の特徴の一つは「ニーズから出発する」です。これは障害/高齢/児童当事者に加えて、親・同胞の他に支援者のニーズも含まれます。障害をもつ人のきょうだいは「親亡き後は自分が後見しなければならない」と思っていたり、「どのように接したらよいか迷う」支援者も多く、これらの人たちのニーズに応えていく取り組みを行なっています。第二の特徴は、「障害者はライセンスを持っている」です。当事者でないと知り得ない「生活上の困難」や「支援者への接し方を助言できること」や「社会が障害者への理解度を上げる方法を提言する」ことができます。当事者はライセンスを磨き、関係者が気づくプログラムを実施しています。第三の特徴は、「出会いは感動を呼び、感動は人を動かす」という合言葉です。

2 認定NPO法人設立の経緯とミッションと認識

活動のきっかけの一つは、2001年の第4回世界脳損傷大会(イタリア)と2003年の第5回世界大会(スウェーデン)に参加し、東川悦子さん、大漉憲一さん、藤井正子さん、大塚由美子さんとの出会いが高次脳機能障害者運動の開始となりました。

特に、スウェーデンのLSS法(伴走型個別支援を保障する法律)との出合いは第一の衝撃で、第二の衝撃は、リ・ハビリテーション(受傷前の能力を回復する訓練活動)のほかにハビリテーション(新しい能力の獲得)の領域があることでした。

また、2001年に高次脳・痴ほう症支援プログラム英国視察研修に参加しました。第一の印象は、労働省心理職キャリアが第一線で高次脳当事者と職親との調整の指揮を取っており、ブレア政権の本気度を見た気がしました。第二に、行政が毎日「夜カフェ:17時―20時」を開き、当事者のその日のトラブルを聞き、ストレスを次の日に持ち越さないようにしている対応を知り、これを持ち帰ることにしました。

活動を始めたもう一つのきっかけは、2000年末に千葉康彦さんに出会ったことです。千葉さんと中途視覚障害者支援で意気投合し、2001年4月に、第1回中途視覚障害者を支援する学習会(現在49回)を開催し、「りはけん仙台」設立と機関紙「夢の翼」(現在45号)を発行し、同時に講演会・交流会を開催しました。

2005年4月にNPO法人を設立し「障害者及び高齢者・児童等が地域で分け隔てのない生活ができるように幅広い環境づくりに寄与するとともに、社会参加をめざす活動を行う」ことをミッションにしました。

2015年1月に認定NPO法人となり、現在、230人の会員に支えられ、8事業(高次脳・視覚障害・自閉症・視覚就労支援B型・アートミーツ・IT支援・学校SW・クラブハウス2か所)を行なっています。

3 当事者に寄り添う支援活動

活動の特徴は、「はじめに」で述べましたが、「当事者に寄り添う支援=当事者と伴走する支援」を基本としています。「中途障害者の方は人生を一旦諦(いったんあきら)める」と聞きます。しかし、同じ障害をもつ人と出会ったり仲間を意識したり、やりたいことが見つかったり、自分の居場所や役割が見つかるきっかけをつかめば、楽しくなります。支援者も「当事者に自分で選んで自分で決めてもらう」関わりを年単位(高次脳は5年単位?)で継続し、鈍行の上り列車に乗っている感じで支援していきます。ただし当事者のプライドを傷つけずに。このように、ビートスイッチの障害者支援は、LSS法をベースにした個別支援から出発し、グループ活動で活性化し、環境づくりアプローチに進んでいることを読み取っていただけたでしょうか。

4 活動事例の紹介

以上のように「当事者に寄り添う支援」は、支援者の心理・生活両面の支援力に負う所が大きいので、支援全体の査定と調整が重要になります。そこで高次脳分野は筆者が行い、視覚障害分野は千葉と筆者がカンファレンスをしながら進めています。当事者と支援者の組み合わせも重要で、持ち味と相性を見て行い、再調整も行なっています。

(1)視覚障害分野

月1回、担当者が参加して調整会を開催します。全事業(1.就労支援B型、2.計画相談事業の設立準備、3.視覚障害者演奏「音の展覧会」準備、4.Jボスのガイドボランティア、5.視覚障害者を支援する学習会開催、6.毎月イベントの企画:ランチ会、ヨガ教室、買い物ツアー、美術館鑑賞(アートミーツ)、7.グループホーム設立準備会、8.エイブルアート・カンパニー)について検討しています。2月25日の部会参加者は9人でした。楽しみを活動の中心においた取り組みを多く取り入れています。

〈支援事例〉

Aさん(20代、先天障害)は、盲学校卒業時にマッサージ資格を取ったが対人関係に課題があり、卒業後に1年半ほど自宅でひきこもり的生活を送る。2007年に支援開始。現在は、自分の出張マッサージと点字の就労で月に1万3000円(視覚就労支援B型)の工賃を得て、楽天サポートなどを楽しんでいる。

(2)高次脳分野

高次脳当事者会の活動は、2008年11月に開始し、月1回開催の定例会(月末月曜日の17時―20時に開催)は86回(2016年2月現在)になります。定例会では、1か月間の活動や近況報告、うれしかったことなどを全員が話すほか、活動計画を話し合い、参加した感想を一言ずつ話しています。これは、英国版「夜カフェ:17時―20時」をベースにして、個別支援ニーズから出発し、グループ活動に入って活性化し、環境設定アプローチに進める支援の流れになっています。支援には、「自分の取扱説明書」と「障害克服のための工夫暦」を使用しています。

〈支援事例〉

Aさん:障害起因は交通事故(2002年)。受傷してから14年。障害者職業センターで訓練の後、紹介で障害者雇用枠で店員(パートタイム)となる。できることは、オカリナ演奏。東北福祉大学卒業、コンサートや障害者交流を企画することが好き。やりたいことは、障害者が自ら障害者支援講習会を主催し講師になること。

(3)自閉症分野

2009年に自閉症の親が中心となり、「自閉症部会」を設立しました。2016年3月で84回の開催となりました。現在、「当事者サポートブック:特に災害時避難所が課題」を作成しています。自閉症交流会をボランティアと一緒に開催し、「親亡き後、または親と一緒にグループホームに入る」ことについて、視覚障害者部会と共同で検討しています。

5 今後の展開

今後10年間の活動の柱の一つは「福祉コンビニづくり」です。現在、仙台市内に交流サロンのクラブハウス「恐竜やま」「梅田クラブ」の2か所を高齢者や障害者の交流の場として、町内会活動と連携し地域のニーズを掘り起こしています。活動メニューは、マッサージ・ヨガ・一品持ち寄り会食・パソコン教室・ハーモニカやオカリナ演奏・水彩画教室など人材次第で開いています。空き家を固定資産税程度の家賃で借りて、備品は会員から提供してもらっています。10万人に一戸の計画で進め、今後は「子どものたまり場」にも使う予定です。

その他、子どもの貧困・学習教育支援プロジェクトや、高齢者の「コーポラティブ・ハウス」づくりについても検討したいと考えています。

(さいとうしげる 認定NPO法人ビートスイッチ代表、社会福祉士斎藤茂事務所長)


【注釈

1)LSS法:1994年に重度障害者が同じ年齢の障害をもたない人と同じ程度の生活をできるようにする/足りない分を補う制度。パーソナル・アシスタント:P・Aの利用が柱の一つで、旅行や添い寝や映画に行く利用も可能で、相性もあり事前登録も可能で、知人を申請できる。1日12時間/週48時間の利用制限がある。リハビリ訓練を受ける権利も保障されており、週20時間まで利用可能な制度。

2)日本に「生活の質=QOL」という「最中の皮」のみが理念として持ち込まれたが、財政的裏付けの必要な「餡(あん)」は置き去りにされてきた経緯がある。現地では、当事者に寄り添う支援は、この法律ですでに障害者支援の基本として確立している。