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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

列島縦断ネットワーキング【福岡】

精神障害のある人たちの地域生活を支える
~本人が納得して生活できる暮らしの支援~

前原善泰

まずは、グループホーム心の駅折尾の利用者さんから
~長期入院を経て、グループホームの生活をしてみて~

私は精神科病院に合わせて30年以上入院していました。長期入院になった理由は分かりません。病院では患者個人の生活感は感じませんでしたし、精神的幸福感も壊れていきました。そんな中、縁あって「グループホーム心の駅折尾」への入居が決まりました。

グループホームで最初に感動したことは、1.編み物の道具(かぎ針、糸、はさみ等)の使用が自由。2.油絵の具の使用も自由。3.外出自由。4.持ち物自由。5.生活必需品の冷蔵庫、テレビ、エアコン、ベッドが設置され、照明等が自分で付けて自分で消せる。6.生活のほとんどすべてが自分の裁量に委ねられている。7.三食好きな物が食べられる。8.スタッフに相談しやすいこと。

入居して間もないころは、知らない人ばかりで不安でしたが、病気と闘っているという共通のつながりで心強い面もありました。また、ピアサポーター事業にも応募し、1期2年間務めました。某精神科病院に行ってピアの方と出会い、食事を共にするなどして、見ず知らずの人とでも手と手を握り合って温かい気持ちになりました。

病院とは違う環境で精神保健福祉に携わる方の熱意、ピアメンバーと心の交流、本との出会いが徐々に回復につながったと思います。これからも、一歩一歩確実にやりたいことにチャレンジしていきたいと思います。

(PN:一本の鉛筆さんより)

グループホーム心の駅折尾の概要

グループホーム心の駅折尾(以下、当GH)は、平成23年3月1日に北九州市八幡西区則松に開設されました。もともと会社の社員寮として使われていた建物を賃貸で借り受けGHを運営しています。当GHはその後も利用のニーズがあったことから、心の駅折尾第2ホーム、第3ホーム、第5ホーム、到津ホーム、山王ホームと増やしていき、合計の定員数は現在100人になりました。

当法人理事長の「まず住むところを作らないと病院から退院できない」という考えから、入居予約者が増えれば新しいホームの立ち上げを行なっていきました。他にも就労継続支援B型、相談支援事業所の運営をしています。

当GHは精神障害、知的障害のある方が利用しています。最近では「司法と福祉の連携」ということで、医療観察法対象者の方の相談も増えています。当GHの形態は介護包括型GHで、障害支援区分も3、4の比較的区分の高い利用者の方も入居しています。平均年齢は60歳を過ぎ、最近では高齢化が進んでいます。職員配置は4:1です。職員の勤務時間は8時30分~18時00分の間で日中は常駐していますが、夜間帯は不在でオンコール体制になります。特に夜間帯は、利用者さんの体調が悪くなった際などはお互いに助け合って乗り切ることもあります。

昼間は精神科デイケア、就労継続支援B型、障害者雇用、アルバイトなどに利用者さんのペースで週に5日間通所する人もいれば、週に1回通所する人もいます。通所のない日はゆっくりお部屋で過ごしたり、当GH職員と掃除をしたりして過ごします。

支援内容は相談援助、余暇支援、各種手続き支援、金銭管理、服薬管理、食事の提供などです。

利用者さんの疾患別等について

利用者さんの約半数に統合失調症があり、次に精神発達遅滞やアルコール依存症、双極性障害、発達障害と続きます。さまざまな疾患や障害をもつ方が当GHを利用しています。当GH利用前の居住先について、精神科病院に入院していた方が最も多く、入院期間は1年以上3年未満が25%、3年以上5年未満と5年以上が15%、救護施設や宿泊型生活訓練事業所などの他施設からの利用と在宅からの利用が全体の25%になっています。

当GHを利用して~利用者さんの声~

当GHを利用して、友人ができた、自由がある、身近に相談できる職員がいる、食事の提供があるという声があります。一方で、居室は個室ですが、ある意味では集団生活になるため、人に気を使う、ルールがあるという意見もあります。20人が生活しているため、時に騒音問題などの苦情が出る時もあります。そのため、利用者さんが過ごしやすいGH作りを目的に、月に1回ホームミーティングを行なっています。このミーティングは原則全員参加で、職員からの伝達事項のほか、苦情への対策、レクリエーションの企画などについて話し合っています。

当GHで大切にしていること

一言で生活支援といっても、その支援内容は個別支援計画に基づくため、さまざまです。その多様性を大切にしています。その他にもキーワードは、プライバシーの保護、自立・自律、意思決定、自己実現、社会貢献、ピアサポートなどが上げられます。

ピアサポートについて少し触れますと、当GHでは、2人の利用者さんがピアサポート養成講座を卒業後にピアサポーターとして活躍していました(現在は引退)。ピアサポーターは精神科病院に出向き、地域での生活に不安を抱える患者さんにアドバイスを行なったりします。実際に退院に結びつき、その退院した患者さんがAさん(ピアサポーター)の影響を受け、ピアサポーターとして活躍するといった好循環も生まれました。

このように、当事者性というすばらしい専門性が発揮されます。当GHの利用者さん同士もしかりです。職員にはない当事者性という専門性を活かせるような関わりを大事にしていきたいと思います。また、このピアサポーターの養成や活躍する場が広がっていくことを期待しています。

地域との交流

当GHはいずれも街中に位置しています。GH立ち上げの際には、自治区会長さんに挨拶に行きます。いつも快くGHについて理解し励ましの言葉をいただき、協力関係を築くことができています。また、自治区会に入会しており、町内会の役割や、町内会の餅つき、消防訓練、清掃活動などにも参加させていただいています。これからも利用者さんの社会参加として、地域交流・地域貢献に努めていきたいと思います。

サテライト型GH

サテライト型GHとは、本体GHにつき2か所まで実施することができ、1か所の定員は一人です。当GHにおいても、本体GHから徒歩5分圏内に2か所のサテライト型GHを運営しています。2か所とも民間アパートの一室を法人が借りて、そこにGH職員が定期的に訪問して生活支援を行なっています。

当GHの利用目的に、一人暮らしの練習をするためという利用者さんも多くいます。その方々に一定期間、一人暮らしに近い環境であるサテライト型GHで一人暮らしに必要な練習を行なっていきます。一人暮らしに不安があった利用者さんもサテライト型GHを利用して自信がつき、今年春にサテライト型GHを卒業する予定です。

当GHの課題と展望

当GHは、定員規模が20人前後という比較的大規模であることが特徴です。GHは家庭的な雰囲気を大切にするため、施設化しないよう配慮を続ける必要があります。

また、先にも述べましたが、利用者さんが高齢化していることです。高齢者施設への転居を検討する場合もありますが、入所費用が一般的に高く経済的に厳しくなります。

GHは今後、重度化、高齢化に対応することが期待されています。それについて当GHとしてもハード面、ソフト面ともに整備をしなければなりません。今後も障害のある方と共に歩んで行きたいと思っています。

(まえはらよしひろ 社会福祉法人共生の里 グループホーム心の駅折尾 精神保健福祉士)