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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

フォーラム2016

言葉さえ知られていない「要支援者名簿」備えと周知の遅れ
震災から5年の当事者アンケートで浮き彫りに

粟野弘子

日本障害フォーラム(JDF)と日本財団は3月9日、参議院議員会館で東日本大震災における障害者への支援について「JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部第5次報告会」を開いた。「震災5年目から未来への提言」をテーマにしたこの催しには110人が参加。

報告会では、震災から5年の障害者と災害に関する障害当事者アンケートの調査結果が発表された。アンケートでは「要支援者名簿」「個別避難計画」「福祉避難所」のうち、知っている言葉をすべて回答してもらったところ、「要支援者名簿」32%、「個別避難計画」16.1%、「福祉避難所」28.2%、「いずれも知らない」51.4%と、言葉さえ知られていない状況が明らかになった。このほか、宮城、福島、岩手3県の各JDF被災地障がい者支援センターの活動報告や、関係団体によるパネルディスカッションが行われ、最後に「障害者インクルーシブ防災」を求めるアピールが採択された。

障害者インクルーシブ防災への取り組みは、具体的な行動を起こす段階にきている。「避難行動要支援者名簿」(以下、要支援者名簿)、「個別避難計画」の作成など、防災と障害における個々の課題はすでに明確になっている。政策においても、2015年3月に国際的な防災に関する行動指針「仙台防災枠組」が採択され、障害者は防災における重要なステークホルダーに位置づけられている。

しかし、2015年9月に茨城県常総市で発生した水害の支援で現地を訪れた経験や、日本財団が実施している「被災者支援拠点運営人材育成事業」の研修で出会った参加者との対話からも、取り組みが進んでいないという実感を持っていた。報告会を開催するのであれば、「あの東日本大震災をもってしても、次の災害に向けた対策が十分でない」という現状を客観的な数値で裏づけ、今一度行動を促すことを目的にすべきではないかと考えた。

そこで、今回の報告会開催の提案者、JDF事務局の原田潔さんに障害当事者への防災に関する実態調査を行なってはどうかと提案してみたところ、準備期間があまりないにもかかわらず賛同してくれた。その後、NHK番組「ハートネットTV」でも同様のアンケートをJDFのネットワークを通じて実施したいという要請があったことから、共同で調査を行うことになった。約1か月半の回答期間中に、ありがたいことに1,809人もの障害当事者から回答を得た。アンケートに記載された貴重なコメントは、3月5日の同番組「誰も取り残さない防災―要支援者1800人の声から―」放送内で取り上げられ、全国に発信された。

今回の報告会は、こうした準備期間を経て当日を迎えた。主催者、来賓の挨拶、そして、ドキュメンタリー映画「生命(いのち)のことづけ」のダイジェスト版の上映後、各被災地支援センターからの活動報告に移った。これまで宮城県内にある約330か所の仮設住宅を訪れてきたJDF宮城からは、仮設住宅を出た被災障害者は、いまだ2割程度にとどまるという現状が報告された。事務局長の池田裕道さんは「災害から5年と言われるが、まだ5年という感じ」と述べ、震災の風化や活動資金の確保が難しくなってきているとした上で、支援継続の必要性を訴えた。

支援センターふくしまからは、福島県の被災障害者は、大震災に加え、原発事故による被害で一層厳しい被災生活を送っていることが報告された。同センターが独自に実施した「被災障がい者の生活等についてのアンケート調査」によると、約9割の人が原発を理由に住居を去り避難所に移ったが、障害者のニーズに配慮した避難所の整備が進んでおらず、繰り返し避難所の移動を余儀なくされた。報告者の白石清春さんは、「5年が経過して、ニーズの細分化が進んできており、個別性の高い支援が求められている」とつけ加えた。

JDFいわての報告では、要援護者名簿への登録時における課題が指摘された。登録が進まない背景には、名簿への登録の同意確認が事務的に文書を通じて行われるので、自分事として捉えるのが難しいという。記載箇所も多く、理解するのが難しいので放置するという悪循環が起きている。この点について、事務局次長の小山貴さんは「対象者への配慮が足りていない、過去の反省がいきていない」とし、行政と当事者の意思疎通がさらに求められていることを強調した。陸前高田市では、県内の他の地域に先駆けて、登録の同意を得る際に保健師が対象者を訪問する方式を開始しているという。

続いて、アンケートの調査結果1)がNHK村井晶子ディレクターから報告された。前述の低い認知度に加え、当事者参加の観点からも、要支援者対策は十分な取り組みが行われていない。地域の防災訓練や避難訓練に参加したことがあると回答した人は33.1%。また、地域の防災計画や施策に関する話し合いへの参加の有無について、86.6%が「参加したことはない」と回答。理由として「連絡や誘いを受けたことがない」が最も多かった。村井さんは「形骸化せず、検証し働きかけ続けることが必要」とまとめた。

アンケート調査の結果を踏まえ、6人のパネリストが障害当事者・支援団体、行政、NGO、メディア、助成団体の立場から、これまでの活動で得た教訓と今後について語った。東日本大震災の被災障害者と向き合う中で、立場の異なるパネリストが、「つながることの大切さ」という共通の学びを得ていた。なぜ東日本大震災で、地域住民の2倍もの障害者が命を落とさなくてはいけなかったのか。これを突き詰めていくと、震災前から障害者が地域から孤立していたことが浮き彫りになる。仙台市障害者福祉協会会長の阿部一彦さんによると、震災時に、障害福祉サービスを利用しておらず、地域とつながっていなかった障害者は約8割にも及ぶという。災害時に「つながり」を必要としているのは障害者だけに限ったことではない。

防災対策は見直されなくてはならない。超高齢化が進む日本において、このままでは地域に防災を担う人材が加速度的に減少するのだから当然だ。

私のチームでは、「障害者インクルーシブ防災」という言葉を使っているが、これは障害者のための防災対策ではなく、「障害者の視点を生かした、みんなのためのまちづくり」にほかならない。

まずは、命が助かることが必要だ。日本財団では、2016年4月から別府市と地域の障害当事者団体「福祉フォーラムin別杵・速見実行委員会」と協力して、個別避難計画を立案するための「仕組みづくり」を始めた。当然、生活支援相談員や、地域の防災組織との連携が必要不可欠になる。モデル地域を選定して、時間帯や災害の種別ごとに、誰と、どうやって、どこに逃げるのか、逃げた先の避難所ではどんな支援が受けられるのかを一つ一つ検証していく予定だ。

そして、助かった命が被災生活で失われないための取り組みも重要だ。大規模な災害が起きると、障害者の家族や介助者も被災者になる。そこで日本財団は、DPI日本会議と協力して、継続的に介助を受けられる環境が整備された他の地域へ被災障害者をつなげる「広域連携」に4月から取り組んでいる。

目指すは、障害のある人も、ない人も安心して暮らせるまちづくり。障害者インクルーシブ防災は、具体的なアクションを起こす時期にきている。

(あわのひろこ 日本財団ソーシャルイノベーション本部 福祉特別事業チームプロジェクトコーディネーター)


【注釈】

1)http://www.normanet.ne.jp/~jdf/seminar/20160309/2-1-1_questionnaire.html