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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

第10回視覚障害者雇用・就労支援連続講座の報告と視覚障害者就労生涯学習支援センターの活動

井上英子

第10回視覚障害者雇用・就労支援連続講座

重度の視覚障害者の雇用は、企業の真摯(しんし)な社内調整、業務の洗い出し、関係支援機関の努力により徐々に進んでいます。平成25年6月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が制定され、平成28年4月1日から施行されました。

障害者差別解消法は、国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指しています。具体的には、企業がダイバーシティを基本的な経営姿勢として取り入れ、多様な人材活用、女性の活躍、育児・介護、働きやすさを目指す動きになっています。

そこで、10回目を迎える連続講座は、企業のダイバーシティ推進活動を考え、一般の社員が「視覚障害」や「障害者雇用」について知り、理解を深める方向を探すとともに、視覚障害当事者も職務を果たしていくために必要なことを考えました。

第10回連続講座は、2月2日(火)・3日(水)の13時~17時、東京体育館サブアリーナ会議室において、東京労働局のご支援を得て実施しました。両日の参加者は200人、内訳は事業所70%、支援機関30%、このうち視覚障害者は21%でした。

1日目の内容は、特別講演『障害者雇用の現状と今後の動向』(厚労省障害者雇用対策課)、視覚障害者による就労事例2発表、3社からの視覚障害者雇用とダイバーシティ推進活動状況、さらに、雇用支援のために必要な就労支援機器、在職者訓練、歩行訓練について情報提供と相談を行いました。

就労事例の業務としては、総務の社内福利厚生に関わる申込受付とその処理、衛生委員会取りまとめと議事録作成、残業時間集計などのデータ加工、総務庶務全般、イントラ掲載社内報作成、メールマガジン作成、各種資格試験の日程収集と管理、フェイスブックページ管理、ツイッター検索、総務部電話対応などです。

また、コールセンターの電話応対業務では、顧客相手に自分の障害は理由にならず、資料を見ながら対応することができないために不具合が生じたこと、システムへの顧客情報登録や販売処理入力は、作業として難易度は低いが、処理速度の関係で件数が増えてくると処理しきれなくなる不具合が生じたことなど、具体的な課題を共有できました。

ダイバーシティ推進活動について、ある事業所からは、活動を本格化するきっかけは、障害者の法定雇用率の未達成とCEOからの強い指示だったことをあげ、障害者の雇用の方針は本社及び営業拠点で行うこととし、ダイバーシティ推進の取り組みとして、障害のある社員が講師を務める「障害を理解する講座」を継続していること。また、営業現場への働きかけとして、ダイバーシティ担当者と本社マッサージルームに勤務するセラピスト数名で営業現場を訪問し、視覚障害者とのコミュニケーションについての研修とお試しマッサージを提供しているという報告がありました。

2日目の内容は、特別講演『障害者雇用に関する事業主支援』(東京障害者職業センター)、話題提供、就職応援、採用活動事例、部門受入事例、継続就労支援の事例紹介とグループディスカッションを行いました。発表内容を基に各グループで活発に意見交換を行い、多くの感想が寄せられました。

・視覚障害者のさまざまな働き方、マネジメント側、就労側の話がなまで聞けてよかった。

・就労事例の話が、定着に向けて具体的な視点、当事者の気持ちや考えが参考になった。

・障害のある方とは、常に状況を確認し合うことが必要であると思った。

・健常者と同じ評価基準では、障害者には不利になってしまう。障害を考慮した公正な評価基準が必要。そのためには、その障害に合った職域の開発と業務の切り出しが必須である。

・障害者には、視覚障害単一の場合であっても、本人が自分のことをうまく語れない場合がある。視覚障害の専門家の存在は非常に大きい。

・グレーゾーン(障害者なのかどうか微妙なところ)の場合に、職業カウンセラーの支援の意義がある。

視覚障害者就労生涯学習支援センターの事業内容

連続講座を主催する当センターは、視覚障害者への画面読み上げソフトを利用したパソコン技能の講習と、社会・経済の変化に応じられるように就労と生涯学習の支援を行なっています。東京しごと財団から受託した求職中の視覚障害者を対象とした職業訓練「知識・技能習得コース(3か月)」を年に3回、在職視覚障害者の技能向上を目指す「在職者訓練」を随時行なっています。そして、社会に視覚障害者の雇用の促進を働きかける「雇用・就労支援連続講座」、「視覚障害大学生のためのビジネス・パソコン実技と就活準備講座」を行なっています。

また、雇用・就労の場面で、東京障害者職業センターからの派遣型職場適応援助者(ジョブコーチ支援)・雇用管理サポート専門家としての支援を行なっています。

ジョブコーチとして、具体的には、通勤ができるかどうか分からない、適当な業務が見つけにくい、 作業効率が分かりづらくグループでの行動がしにくい、介助が必要であるなど、事業所が持つ視覚障害者雇用の不安を一緒に考えます。

ジョブコーチ支援を希望する際は、地域障害者職業センターに相談します。支援計画に基づいて、視覚障害者へは作業能率を上げる、職域を広げるために、画面読み上げソフトとキー操作によるパソコン操作法やオフィス機器などの利用法、オフィス内のオリエンテーションを行います。事業主へはシミュレーションゴーグルなどを利用した視覚障害の理解、視覚障害者のガイド方法、職場内の整理など配慮すべき事柄、上司・システム部門と社内情報システムのアクセシビリティの検討、などに協力します。

中途の視覚障害者は、会社に行っても画面読み上げソフトを使えないと仕事ができないので休むしかない、視力低下以前は、マウス操作によるパソコン使用で業務をしていたので、仕事ができない、視覚障害者向けの訓練を実施しているところが分からない、就労支援機器の入手方法が分からないという状況にあります。また、会社は組織が大きく、人事を通して公的支援に辿り着くのに時間を要する、事業所では視覚障害者の就労事例がないので分からない、などの課題に対して、それぞれに情報提供や技術指導をします。

ジョブコーチ支援の効果としては、業務処理能力を開花させ、視覚障害者を戦力として活躍させる土台をつくります。

ジョブコーチ支援の具体的な手法は、視覚障害者の通勤や移動の安全確保、業務開拓と作業手法の構築、キャリア計画作成に役立つガイドの方法やナチュラルサポートの浸透、さらに、事業所と視覚障害者自身に視覚障害に起因する困難と、データやシステムに起因する困難との違いを判断できるようにしていきます。

視覚障害者が仕事で能力を発揮するために

眼科医、産業医、保健師、看護師、健康管理者、カウンセラーなどが医学的、心理的に対処し、上司、指導者、同僚、ハローワーク、障害者職業カウンセラー、ジョブコーチなどの適切な人々が具体的に、さまざまな課題に適応できるようにしていく必要があります。

企業は、雇用率達成だけのために障害者を雇用するのではなく、能力を活かせる「働く価値のある仕事」を確保して、障害者のモチベーションを喚起していくようにすることが大切と考えます。また、ジョブコーチ支援は、身体障害者手帳を所有していないが、職務の遂行に困難がある人も受けられることを広く伝えていく必要もあります。

(いのうええいこ 視覚障害者就労生涯学習支援センター代表)