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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

発達凸凹を抱える子どもを支えるかたつむりの活動

西村南海子

発達凸凹(でこぼこ)を抱える豊かな子どもたち

「信号を渡りますよ~」「“信号”は渡れないよ!“横断歩道”を渡るんだよ!」「○○くんはテレビは何が好き?」「ええとね、シャープのアクオスの40型!」

落語の落ちか、笑い話の一つか、と思われるこのやりとりは、自閉傾向があり、知的な遅れのない言葉の達者な幼児さんとお母さんの会話です。

クスッと笑ってしまうようなこのやりとりをする子どもたちは、他者の視点が入りづらいという特徴を抱えています。一方で、自分の好きなものに対する興味や集中力は人並み以上のものを持ち、天才的とも言える能力を発揮することができます。

発達に凸凹を抱える子どもが、自らの内に持つ優れた能力を発揮するためには、周囲の大きな理解と愛情、そして年齢に見合ったサポートが継続的に行われてこそ育つことができると考えます。

NPO法人かたつむりが生まれた経緯

かたつむりは、2006年にいわゆる発達障害やその周辺の特性(発達凸凹)を抱える子どもの親の会から生まれました。

代表である筆者の子どもは、幼稚園の時に、保育室に入らない、お友達を叩く、など集団生活での不適応を繰り返しました。子どもの中で何が起こっているのか、自分の子育てに何が足りないのか、悩み自問自答する日々でした。そんな時に、同じように発達につまずきを抱える子どものお母さん方との出会いがありました。そのお母さん方と定期的に集まり、うまくいかない子育ての悩みや地域の情報を交換し、専門家から学ぶ研修等を続けました。気持ちをコントロールできずに度々かんしゃくを起こすわが子の姿に情けなさを感じ、力ずくで止めようとしたり、新しい経験を怖がるわが子の様子に焦りを感じて無理強いしたりと、失敗の連続の子育てをしていました。

そのような中で親である私たちが学んだことは、「子どもたちを変えるのではなく、自分たちが理解して変わるのだ」ということでした。外見では分かりづらい障害を理解することは簡単ではありませんでしたが、まずは親である私たちが理解し、次に、子どもたちが関わる周囲の人に伝えていくことが大切だと気づきました。

また、私は常に独(ひと)りではありませんでした。保育参観の日、楽しげにお友達が工作をしている時、部屋の片隅で小さく膝を抱え込んでじっとしているわが子を脇に抱え逃げ出したくなる場面がありました。それは自分の中の恥ずかしいと思う勝手な世間体であり、息子に全く寄り添えていない気持ちがそうさせていました。しかしそんな時も、私たち親子を理解してくれていた園の先生、同じような課題を抱える子のお母さん方が常にそばにいてくれました。子どもの育ちを共に考え寄り添ってくれる仲間がいたことが「弧育て」にならずにすんだ大きな理由でした。

発達障害児の将来を悲観して親が起こす悲しい事件が後を絶たない原因は、人と人の関わりが希薄な社会であるということ。大切なことは、そばに人がいるということだと思います。「弧育て」をする若いお母さんが一人もいなくなるまで、私はこの活動を続けようと決意しました。この気づきを形にすべく2013年にNPO法人化し、地域社会へ「外見からは分かりづらい困難さを抱える」発達凸凹の子どもたちを理解してもらい、そのお母さん方をピアメンターの立場でサポートする、という活動を継続することにしました。

必要なことは自分たちで創る

子どもたちは、このような障害特性であるために教育や福祉のサービス対象の狭間に位置する状況にあります。すなわち、公的支援が受けづらいということです。

教育では、平成19年から児童・生徒一人ひとりのニーズを把握し、共生社会をつくるという理念の下に特別支援教育がスタートしました。しかし教育現場では、発達凸凹な子どもの特性理解や、個々のニーズに合った学習に対する校内や家庭との共通認識を持つことは難しく、10年経った今も十分とは言えません。

また、福祉サービスを受けるために必要な「障害者手帳」の交付は、IQ数値に左右され、自閉症スペクトラムと診断されても、子どもたちはその範囲に入らないことがほとんどです。

発達凸凹の子どもたちに必要な資源は、どこかにお願いするのではなく、無いものは自分たちで楽しんで創(つく)ることを大切にしてきました。幼児期は、さまざまなことを子どもたちと一緒に経験しました。落ち着かないわが子を連れて日用品を買いにスーパーにも行けない時、母親同士で互いに公園で預かり合うことをしました。暗がりが怖くて泣いてしまう子どもは、一般向けの人形劇の公演に連れて行けません。自分たちで人形劇団を招き、明るい部屋で多少動きながらでも、鑑賞する機会を作りました。

このようにして、学齢期に必要なこと、これからの就労期に必要なこと、それぞれのステージにわたって、当事者視点・家族視点を大事にして、自分たちの手でこれからも必要なものを創っていきます。

現在の事業

《カフェ☆かたつむり》

一番大切にしている事業であるカフェは、親の会から10年間、途切れることなく毎月開催しています。月に2~3回お母さん方が集まり、お茶をいただきながら、自由に悩みや子育てのヒントを話し、参加者同士で交流しています。会員数は年々増え続け、現在は約80家族の登録をいただいています。

《テーマ交流会》

テーマ交流会は、毎回決まった題材を、参加者で深めて学んでいきます。たとえば「凸凹さんの入園について学んでみよう」「わが子の凸凹を周りの人にどう伝える?」など、具体的でその時期にあったものを設定しています。

《キッズラボ》

小中学生対象の放課後の学習とソーシャルのサポートクラスです。学校での集団生活がうまくいかずに、教室に入れずに自信をなくしているお子さん、一斉授業では学習習得が難しいお子さんなどが、週1回利用しています。ほぼ子どもと先生が1対1で行うため、丁寧な関わりが生まれ、回数を重ねるごとに参加する子どもたちの表情が明るく、自信を回復してリラックスする姿が見られています。

《未就学のお子さんとご家族のための音楽ムーヴメントクラス》

音楽に合わせて体を自由に動かすムーヴメントプログラムを毎月1回、日曜に開催しています。競争も正解もなく、子どもたちはゆったりとあるがままを表現します。1時間のプログラムの後託児をし、大人のカフェタイムがあり、普段は関わりの少ないパパもママと一緒にゆっくりと過ごしていただきます。

ピアメンターとしての役割

私たちは発達障害やその周辺の特性を抱える子どもの親として、次世代のお母さんたちに、自分たちの経験を引き継ぐため、NPO法人設立とともにピアメンター活動を始めました。ピア=仲間、メンター=良き理解者・助言者という意味合いを持ち「NPO法人かたつむり認定ピアメンター」として13人が活躍しています。

前記のカフェでは、悩みを抱えて訪れる方を迎え入れお話を聴いたり、お茶をいれたり、テーマ交流会では講師やファシリテーターを務めます。また、最近では地域からの依頼も増え、発達凸凹を理解するための講演会や、学校の先生向けの研修などにも招いていただき、活動の場が広がっています。

私たちでしかできないこと。発達凸凹の子どもを育てた経験はかけがえのない財産です。発達凸凹を抱える子どもとの関わり方、学校の先生を含めた周りの方への障害の伝え方、医療機関とのつきあい方、学習のこと、生活のこと、就労のこと…。そして何よりも、大変な子育てをしたという、苦しい経験から生まれる寄り添いのサポートを大切にしていきたいと思っています。そしてそこには、希薄になってしまった今の社会が立ち戻るべき姿が生まれつつあると信じています。

発達凸凹を抱える子どもたちは、私たちに人生の大切なことをたくさん教えてくれています。

(にしむらなつこ NPO法人かたつむり理事長)