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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年5月号

列島縦断ネットワーキング【愛知】

知多地域の「つながり」を活かした支援
~知多地域成年後見センターの活動

今井友乃

NPO法人「知多地域成年後見センター」は、現在、知多半島5市5町の委託を受けて、成年後見業務を行なっています。他にも、成年後見制度に関する無料相談を行なったり、制度の普及・啓発事業として、イベントや講座を開催したりしています(図1)。

図1 知多地域成年後見センターの概念図
図1 知多地域成年後見センターの概念図拡大図・テキスト

成年後見制度は、認知症高齢者・知的障害者・精神障害者等、精神上の障害により判断能力が不十分な方を法律的に保護し、支えるための制度です。主な支援としては、本人の財産管理(預貯金の管理、各種費用の支払いや受領、不動産の管理など)や身上監護(病院の入退院・施設の入退所・福祉サービス等の契約締結や変更、解約などの法律行為)があげられます。

13年前、半田市で知的障害者の支援をしていた法人の理事長が、利用者の母親から相談を受けました。そのお母さんは癌で余命半年、自分が死んだ後、この子を誰が守ってくれるのか…。親に先立たれ、グループホームで暮らす知的障害の若者はどうなるのか。今後、適切な福祉サービスは受けられるのか?悪徳商法に騙(だま)されて高額な買い物はしないだろうか?親亡き後を支えていくには成年後見制度が必要だ!という思いが活動のきっかけでした。

まず親御さんは、お世話になっている事業所の理事長にお願いしたいと思います。しかし、本人と利益相反の関係になるので後見人にはふさわしくありません。それでは、弁護士などの専門家はどうでしょう?困ったことがあったらお願いする必要はありますが、通常は弁護士などの専門家である必要はないと思われます。連携が取れていればいいと思われました。

それでは、誰が後見人にふさわしいのか?若者が人生を全うするまで個人で支えるのはあまりにも責任が重大です。継続性と複数の眼での監視体制を持つべきなので、個人後見人より法人後見人、利益相反の関係より福祉の直接サービスを行なっていない団体がいいということになりました。そこでちょうどあてはまったのが、当時、私が事務局長をしていた中間支援のNPO法人「地域福祉サポートちた」でした。その後、所得の少ない方の成年後見を行うには、資金が必要だということで行政に資金援助を訴えましたが、対応してもらえませんでした。

10年前、半田市社会福祉協議会が法人後見を考えているという情報がありました。知多半島での成年後見センター構想を考えているなか、ある市の課長が大型バスを出してくださり、成年後見センターの先進地である岐阜に、5市5町の行政とNPO、社会福祉協議会で視察に行きました。それがきっかけで、行政5市5町の成年後見の委託事業を考える会議が始まり、あれよあれよという間に現在に至る状況になりました。

現在、後見センターは、半田市と知多市の2か所に事務所を構えました。半田後見事務所が南部の1市4町を担当し、知多後見事務所が北部の4市1町を担当しています(図2)。

図2
図2拡大図・テキスト

開所から私たちが行なってきた活動内容を紹介します。

(1)相談

5市5町から委託を受けているため、知多半島にお住まいの方は無料で相談を受けられます。各事務所、担当市町への巡回相談も月に1回行なっています。

寄せられる相談はさまざまですが、弁護士・司法書士など専門家の支援が必要な場合や、高額の資産を有する場合などは、専門家を紹介します。成年後見センターの支援が必要と考えられる場合は、法人後見の申立て手続きを行います。また、申立書類を作るお手伝いなどもしています。

(2)法人後見

生活保護を受けている方など、後見費用が支払えない低所得者、福祉的な関わりが多く必要な困難を抱えている方を中心に法人後見を行なっています。

(3)普及啓発

一般市民の理解促進を目的としたイベントや、支援員等の養成を目的とした講座等を開催しています。毎年、普及啓発に成年後見フォーラムの開催や、成年後見サポーター研修、支援員養成には、地域の社会福祉協議会と協力して権利擁護サポーター講座を開催しています。

後見センターが始まったころは、成年後見を行う組織は、多くありませんでした。近年、厚生労働省がこの分野に助成金を出したり、利用促進が進められるなか、全国的には社会福祉協議会が担う地域が増えました。その中で、老舗の部類にはいる当法人の特徴は、3つほどあります。

1.知的障害のある人をきっかけに始まっています。全国的には、高齢がきっかけで始まります。なぜかと言えば、高齢者になると認知症が多くなるという理解は得られやすく、賛同してもらいやすいのです。

2.関係者ではなく一般市民が始めています。やはり、障害と言えば、身内に当事者がいる人がきっかけを作りやすいのですが、当法人は、誰もが自分が暮らしている地域で住めるようにと市民活動の一環から始まりました。中間支援のNPOから始まったことが、この地域らしさです。市民活動、NPO活動が盛んな地域ならではの活動といえます。

3.広域行政が連携して委託しています。これは、行政にとっては経費が安くすみ、高い効果が得られる良い仕組みです。当法人にとっても、広域で人材を考えられる利点があります。まだまだ、この成年後見、権利擁護等を考えられる人材はたくさんはいません。その中で、広域で人材を確保できるのは得策です。

他に、当法人は、成年後見フォーラムを、地域住民を巻き込んで行なっています。他の地域では、まじめで難しい題材を基調講演やシンポジウムで行うことが多いのですが、私たちは、設立当初から、地域住民に理解してもらうために、講談、落語、漫才と敷居の低いもので理解促進を図ってきました。今では、クイズや寸劇を職員で行うようになりました(図3)。
※掲載者注:イラストの著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

当法人は、日本一素人性の高い成年後見センター(権利擁護センター)とも言われています。事務局長である私は、専業主婦上がり、会社への就職経験もありません。その私が集める仲間は、福祉の専門家ではなく素人が多いようです。しかし、それは、市民活動が盛んなこの地域の特徴でもあるような気がします。

超高齢化に伴い、後見制度の利用者数はどんどん増え、担い手は足りなくなると言われています。当法人も現在、350人ほどの後見人を受任しており、そのことは痛感しています。その対策として、法人のお手伝いをしていただく支援員を養成しています。それも、一般市民から募集しています。市民が関わることが、障害のある人が地域で暮らし続けるにはとても大切なことなのです。

全国各地の成年後見の実践を聞いて、後見人として感じることは、この知多地域は本人の生活を豊かにする社会資源が多いこと、それが連携していることが特徴です。困った時はお互いさまと手をつなげる土壌があるように感じます。これはまさしく地域包括ケアができている地域ではないでしょうか。

市民活動が活発なこの地域で、誰もがどんな状態になっても、地域で暮らし続ける支援を、NPOや自治会をはじめ地域住民と協力し合う中で、当法人は、これからも地域のセイフティーネットの役割を果たし続けていきたいと考えています。

(いまいともの 知多地域成年後見センター事務局長)