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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

1000字提言

インクルージョン社会を目指して
~フロアホッケーの魅力~

細川佳代子

「今日はゴールではございません。スタートです!」

2005年スペシャルオリンピックス(以下、SO)冬季世界大会・長野の閉会式での私の挨拶だ。「本当の成果が問われるのは10年後…2015年までに、障がいの有無などに関係なく、すべての人が地域社会で生き生きと、助け合い支えあって暮らす社会が実現してこそ、大会は真の成功と言える」と宣言して丸10年経った。真の成功と呼ぶには、まだほど遠いのが現実だろう。では障がいに対するマイナス意識を変えるにはどうすればよいのだろう?

私は「スポーツ」の力こそが変革へのカギだと信じている。知的障がいのある人たちにスポーツを提供するSO活動を通じて、スポーツが彼らの健康促進や社会参加の助けになるだけでなく、関わるボランティアの心の成長や自己実現にも大きなプラスをもたらすと実感してきた。関わった人なら誰もが感じる醍醐味とも言えるだろう。SOと限定せず、誰もがもっと気軽に参加でき、楽しい交流を通じて「インクルージョン」を実現できないものかと、SO世界大会開催の年に設立したのが「日本フロアホッケー連盟(以下、連盟)」だ。

フロアホッケー(以下、FH)とは、直径20センチメートルの穴のあいたパックをスティックで操り、相手のゴールに入れる競技。体育館さえあれば誰でも気軽に楽しめる。もともとSO独自の競技で「障がい者スポーツ」と して発展してきたが、連盟では「障がい者の」と限定せず、年齢・性別・障がいの有無などにかかわらず、誰もが一緒に楽しめる「ユニバーサルスポーツ」として普及に努めている。さまざまな違いを超えたメンバーが一つのチームで助け合ってゲームをすることで、相互理解が深まり、共に過ごす素晴らしさを実感できる。健常の社員と障がいのある社員のチーム、障がいのある職員を交えた県庁や市役所チーム、年齢差60歳以上のチームもあれば、地域との交流大会を実現したり、隣接する高校との混成チームで全国大会に乗り込んでくれた支援学校もある。どの例をとっても、輝く笑顔と温かな心の交流は、『これこそ社会を変える原動力』と発信しているようにさえ感じる。

毎年開催している「全日本フロアホッケー競技大会」も今年で11回目。「障がい者大会」と区別せず、多種多様な参加者が同じチームでゲームする、これほど楽しい大会は他に類を見ないと思う。私も一選手として出場し、笑顔溢れる大会から元気と勇気をもらっている。

違いにかかわらず、助け合い支えあう『インクルージョン社会』というものは、弱い立場の人だけでなく、すべての人が幸せに暮らす理想の社会!日本中の人に体験してほしいスポーツと自負している。


【プロフィール】

ほそかわかよこ。NPO法人勇気の翼インクルージョン2015理事長。公益財団法人スペシャルオリンピックス日本名誉会長。知的障がいのある人の自立と社会参加を目指して「スペシャルオリンピックス日本」を設立。「インクルージョン社会」の実現に向けて活動を続ける。ドキュメンタリー映画5作品を製作・総指揮。著書『花も花なれ、人も人なれ ~ボランティアの私~』