音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

高齢障害者支援について

小泉貴人

今回の高齢障害者支援の見直しは、平成25年に施行された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下「総合支援法」)の附則の検討規定に基づいて行われたものである。高齢障害者の支援については、社会保障審議会障害者部会のもとに、障害福祉サービスの在り方等に関する論点整理のためのワーキンググループ「高齢の障害者に対する支援の在り方に関する論点整理のための作業チーム」が設けられ、そこで整理された3つの論点をもとに、障害者部会での議論がなされた。障害者部会でとりまとめられた課題と今後の方向性を中心に、高齢障害者支援について触れたい。

1 障害福祉制度と介護保険制度との関係について

総合支援法第7条に基づき、障害福祉サービスに相当するサービスが介護保険法にある場合は、原則介護保険サービスの利用が優先されることとなっている。障害福祉と介護保険制度の関係については、障害者部会でもさまざまな議論があったところであるが、「日本の社会保障は、自助を基本としつつ、共助が自助を支え、自助・共助で対応できない場合に社会福祉等の公助が補完する仕組みを基本とすることを踏まえると、現行の介護保険優先原則を維持することは一定の合理性がある」とされた。

一方、これまで障害福祉制度を利用してきた障害者が介護保険サービ スを利用するに当たって、以下のような課題があると指摘された。

  • 介護保険サービスを利用する場合、これまで利用していた障害福祉サービス事業所とは別の事業所を利用することになる場合がある。
  • 介護保険サービスを利用する場合、介護保険制度の利用者負担が生じる。
  • 自治体によっては、障害福祉サービスの上乗せが十分に行われず、介護保険サービスの利用に伴って支給量が減少する要因となっている。

このような課題に対応するため、

  • 障害福祉サービス事業所が介護保険事業所になりやすくする見直しを行う。
  • 一般高齢者との公平性を踏まえ、一定の高齢障害者に対し、介護保険サービスの利用者負担を軽減する仕組みを設ける。
  • 介護保険給付対象者の国庫負担基準については、財源の確保にも留意しつつ、見直しを行う。

といった対応を行うこととなった。

介護保険サービスの利用者負担軽減の仕組みについては、法律事項となるため、今回の総合支援法の改正にその内容が盛り込まれている。

このほか、高齢化に伴い、障害者を支援する親が要介護者となる事例などに対応するため、障害福祉制度と介護保険制度の緊密な連携に向け、相談支援専門員と介護支援専門員、基幹相談支援センターと地域包括支援センター等との連携の推進も重要であるとされ、それぞれの連携に向けた取り組みが必要となる。

また、「障害者支援施設等に入所していた障害者が退所して、介護保険施設等に入所する場合の住所地特例の適用についても見直す」こととされており、今後、介護保険部会等で議論されることとなっている。

2 障害者の高齢化に伴う心身機能の低下等への対応について

障害者部会では、高齢化による障害者の心身機能の低下に伴い、従来の障害福祉事業所の体制・人員では十分な支援が行えなくなっているとの指摘や、障害者自身も日中活動への参加が困難となったり、若年者と同様の日中活動ができなくなっている等の指摘もあった。

また、障害福祉サービス事業所では高齢障害者に対応するノウハウが乏しく、事業所における支援技術の向上が必要であるとされた。

このような課題への対応として、高齢化に伴い心身機能が低下した障害者に対応するための技術・知識を高めるため、障害福祉サービス事業所に対する研修における心身機能の低下した障害者支援の手法などの位置付けとともに、高齢化に伴い重度化した障害者に対応する重度者対応型のグループホームを検討することとなっている。

3 いわゆる「親亡き後」について

親と同居している知的障害者や精神障害者が多い中、親による支援が障害者の生活全般にわたる場合もあり、親以外の支援者がいないケースにおいて、親が高齢化したり、亡くなったりすると、障害者の生活を総合的に支援する者が失われることが指摘された。

このような「親亡き後」に備えて、親がいる間に将来に向けた準備をしておくことが重要であることから、当該障害者がどのような課題を抱え、何を準備しなければならないかを明確にするため、成年後見制度利用の理解促進(たとえば、支援者に伝達するために作成する本人の成長・生活に関わる情報等の記録の活用)や、個々の必要性に応じた適切な後見類型の選択につなげることを目的とした研修を実施することとなっている。

また、「親亡き後」に向けて、適切な助言を行い、親が持つ支援機能を補完し、障害福祉サービス事業者、成年後見人、自治体、当事者・家族などさまざまな関係者で当該障害者を支えるためのチームづくりを主導するため、主任相談支援専門員(仮称)の創設も検討することとなっている。

いずれの取り組みについても、その詳細については、制度が施行される平成30年4月に向けて検討することとなっており、そこに向けて障害者の高齢化に対応するための精緻な基盤づくりを行なっていく必要がある。

(こいずみたかと 厚生労働省障害保健福祉部障害福祉課課長補佐)