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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

障害のある人たちが高齢期を迎えたときに必要な支援とは
~田原市社会福祉協議会ができること~

花井良枝

はじめに

田原市は、愛知県の最南端、東西に30キロ細長く伸びる渥美半島に位置し、豊かな自然と温暖な気候に恵まれています。

人口約6万4千人のうち、65歳以上の高齢者は約1万6千人で高齢化率は25.4%。障害者数(手帳保持者)は約2千7百人です。三方を海で囲まれ、隣接市町村が一つしかないため、半島特有の民間機関が進出しづらい状況となっています。そのため福祉課題を解決するにあたって、活用可能な社会資源に限りのある地域でもあります。

高齢になることは、生きづらくなることか

障害福祉サービスを利用して生活されている障害のある人たちも、65歳を迎えると、制度的には、「介護保険優先」となります。担当者も障害者相談支援専門員から介護保険のケアマネジャーへ、利用するサービスも障害福祉サービス事業所から介護保険サービス事業所への変更となり、戸惑っている方も少なくありません。

65歳で高齢者の中へ入ることへの違和感、拒否感は否めません。介護保険での支援者側が、本人の障害についての理解が不十分なことがあったり、障害特性に合わせた個別支援サービスの変更、サービス利用料の1割負担発生など、本人を取り巻く状況が変化し、本人の精神的負担や不安が増加する等、さまざまな問題点があります。

今まで障害福祉サービスを受けながら、地域で自分らしく安心した生活ができていたのに、高齢になることだけで、なぜ生きづらさを感じなければならないのでしょうか。

今後、高齢期を迎えた障害のある方が自分らしく地域で生活をしていくために、どのような支援が必要なのか。また、本人の希望に沿った生活を実現するには、どのような体制が必要なのかを、田原市内における障害のある高齢者の生活の様子や、地域での支援の現状等を含め、田原市社会福祉協議会(以下「社協」という。)が行なっている取り組みをご紹介します。

*Aさん(統合失調症)男性 66歳

統合失調症にて夜間高校中退後、17歳から42歳まで25年間の入院を経験。退院後、精神障害者の作業所を利用開始。母親は認知症のため、従兄弟がAさんの判断能力の不十分さを懸念し、成年後見制度の申立を行い、保佐人に選任され、財産管理を行なっている。52歳のときに母親が死去。その後、独居となり、障害者制度ヘルパーを利用開始。

65歳で要介護認定の申請を行い要支援1となり、地域包括支援センターが担当となる。高齢になったが、自分でできることはやり続けたいと、障害福祉サービスの就労継続支援B型事業所の利用継続を希望され、現在も自転車通勤にて工賃獲得、利用者との交流に生きがいを感じている。

生活面は介護保険サービスヘルパー2回に障害福祉サービスヘルパー1回を追加で導入。障害者相談支援専門員とケアマネジャーが各制度の個別サービス計画を共有し、役割分担しながら支援している。

これは、Aさんに対し、障害福祉と介護保険の制度を併用して支援できているケースです。要介護認定が軽度であり、生活を支えるサービス量が絶対的に不足しているため、行政も了承しやすかったという背景があります。原則の介護保険サービスだけであれば、ヘルパーのサービス量は不足し、就労継続支援B型事業所は老人デイサービスへ変えられ、Aさんが望む「生きがい」が奪われていたかもしれません。本人は変わっていないのに、年齢により制度が変わり、生活を変えざるを得ないのは、果たして本人が望む支援といえるのでしょうか。

また、前述のケースのほかに、親族の支援を受けてつつがなく暮らしていた知的障害や発達障害等のある人たちが、その親族の高齢化(要介護化)や死亡によって支援が受けられなくなり、障害があるが故の問題が顕在化して、生活の破綻を迎えてしまうといったことも少なくありません。高齢化は本人だけの問題ではなく、支援者であるその親族など、本人を取り巻く環境にも大きな変化を起こします。

このようなケースは、消費者被害や財産の搾取、住環境の劣悪化、アパートや入所施設の保証人確保等の問題が生じやすく、障害者総合支援法や介護保険法のサービスだけで解決することはきわめて困難となります。

これらのさまざまな課題に対して、社協では判断能力の不十分な方の権利を守ることを目的とした成年後見センター事業(法人後見も受任)や、日常生活自立支援事業、生活困窮者自立支援事業、地域包括支援センター事業、また、田原市独自の有償の市民ボランティア制度である「生活ささえあいネット」などにより、障害のある人たちの金銭管理の支援、ちょっとした困りごとからごみ屋敷対策まで対応しています。高齢・障害といった区分に収まらない、制度の狭間の問題を抱えている人たちを対象に、その方が自分らしい生活を営めるよう、セーフティーネットの一端を担っています。

そして、障害のある人たちの生活を支えながら寄り添い、中年期から高齢期へと向かう、利用制度の変わり目の時期に、一貫して関わりを持つことで、障害者の不安感や負担感を軽減する役割を担っています。

また、社協が事務局を務めるボランティアセンターが関わりを持つことによって、神経難病等の障害者が、ボランティアサークルの活動に参加をするなどの、社会参加が実現した事例も存在します。

地域をつなぐ

社協は、介護保険事業から地域福祉の推進事業、障害福祉サービス等を実施し、幅広い視点・専門性を持った組織です。しかし、それでも万能ではありません。

そこで社協職員が地域へ赴き、支援を必要とする住民と、それを支える住民を結びつけることで、地域の中で支えあいの輪ができます。その後は、住民同士がつながり、地域の中で課題を解決していくことができるよう、各種事業の担当者が機動力を発揮しながら、関係機関や住民と連携して障害者の生活を支えるよう努めています。

社協の使命

田原市社協の基本理念は「市民と共に未来に広げる福祉の輪」です。地域で暮らす高齢者や障害者をはじめ、すべての市民の人権が尊重され、お互いに理解しあい、共に支えあいながら地域で安心して暮らせる福祉のまちづくりを目指しています。

今後も高齢期の障害のある人たちの生きづらさに寄り添いながら、『その人らしい人生』が送れるよう、地域をつないでいくことが私たちの使命だと考えています。

図 利用者を支えるネットワーク
図 利用者を支えるネットワーク拡大図・テキスト

(はないよしえ 田原市社会福祉協議会総務課障害福祉係長)