音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

ワールドナウ

ドイツ障害女性団体訪問記

瀬山紀子

今年(2016年)の2月、DPI女性障害者ネットワークからの派遣団の一員としてスイスのジュネーブで開かれた国連・女性差別撤廃委員会による日本政府報告審査の傍聴とロビー活動に参加した後、隣国ドイツの障害女性の団体「障害がある女性・レズビアンと女の子の全国ネットワーク(Nationwide Network from WomenLesbians and Girls with disabilities)1)」で活動を担うマルティナとブリジットという2人の女性を訪ねた。彼女たちとは、2002年に札幌で開かれた第6回DPI世界会議で出会い2)、その後、2007年の韓国での第7回DPI世界会議で再会し、2009年にイギリスで3度目に会う機会を持っていた。今回は、それから7年ぶりの再会だった。

2人が活動している団体の事務所があるカッセル(Kassel)は、ドイツのほぼ中央に位置する都市で、ベルリン、フランクフルトからいずれも電車で2時間ほどの場所にあり、グリム童話のグリム兄弟が長く暮らした街として知られている(写真1)。街は、4、5年おきに開かれるドクメンタという町全体が会場となる野外の現代芸術祭の開催地としても知られており、湖のある公園の園内をはじめ、町中のあちこちに、これまでの芸術祭で展示された作品が残されている魅力的な場所だった。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

障害がある女性・レズビアンと女の子の全国ネットワーク

「障害がある女性・レズビアンと女の子の全国ネットワーク」は、障害の種別を超えた障害のある女性たちによって1998年につくられたグループだ。創設に関わったマルティナとブリジットは、団体名に「レズビアン」をつけることで、障害がある女性のなかでも埋もれてしまいがちな障害があるレズビアンの存在を可視化することを意図したという。彼女たちは、90年代半ばから、障害をもつレズビアンの経験を分かち合う場も持ち、日常的な生活介助などで受ける同性愛差別の言動や権利侵害の問題にも取り組んできた。

グループは、ドイツ各地の自立生活センターに関わる5人の障害女性当事者が運営委員となっており、メンバーはそれぞれ、視覚障害、ポリオ、発達障害、車いす利用などで構成されているということだった。カッセルの事務所には2人の事務局メンバーと、1人のプロジェクト担当がおり、そこで日常的な活動が進められている。またドイツには、16の州のうち、11の州で、障害女性のグループがあり、各地域の障害女性のグループとも連携がとられているということだった(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

事務所は、カッセルの町中にある障害当事者関係の団体が複数はいっている活動拠点となっている新しいビルの中にあり、建物には、ミーティングや講座を開催した際に共同で使える部屋なども併設されていた。

彼女たちは、団体を立ち上げた当初、資金がなく、週に1回、電話によるホットラインをひき、障害女性からの相談を受けることから活動を始めていったという。そこから、障害女性に対する暴力や権利侵害についての実態が見えてきたことが、その後の活動を進めるきっかけとなったと話してくれた。

その後、2003年からの4年間は政策提言活動に対する国からの補助金を得て、障害者権利条約に障害女性の課題を位置付けるために、調査や提言活動を精力的に行なった。ドイツには、障害者権利条約の策定に関わり、現在も障害者権利委員となっている障害女性当事者であるテレジア・デゲナーがおり、彼女との協力関係のもとに、障害者権利条約に障害女性の課題を位置付けるちからとなったのが、この団体の活動だった。

また、権利条約ができた翌年の2007年5月には、ベルリンで、ヨーロッパの障害女性のネットワーク(A network for Women with Disabilities in Europe)を立ち上げ、3日間にわたる会議を持ったという。このネットワーク自体は、それ以降は大きな集まりは持つことができていないということだったが、2007年の集会の熱気は今も思い出すと当時の資料を見せながら話してくれた。

その後の権利条約関係の活動

ドイツでは、日本で行われたような国内法の整備等は行われず、2007年には、障害者権利条約の批准がなされている。マルティナとブリジットは、まずは権利条約を批准させることができたが、条約の批准によって、国内の法制度に問題がないとされてしまうことがないよう、その後に条約の順守を働きかけることが重要だという認識を持っていた。

ドイツ政府は、2011年に政府報告を国連に提出。政府報告書には、彼女たちのネットワークの名前が出され、国内の障害女性団体の協力で、障害女性の権利擁護の課題について取り組んだ、と書かれていた。彼女たちは、自分たちの活動が、政府の取り組みの口実に使われることには注意しなければならないとも話していたが、それだけ影響力のある活動をつくっているということでもあるだろう。

同時に、彼女たちは、ドイツ国内の障害当事者団体などとともにNGOレポートをつくるプロジェクトに関わり、多くの団体とともに、パラレルレポートをまとめている。このレポート作成には、ドイツの一般的な暴力被害者支援やシェルターの運営に関わる女性相談員の団体も関わったという。障害女性に関する課題のなかでは、障害女性の課題を可視化するためのベースとなるジェンダー統計の必要性や、障害女性のなかでも特に移民及び難民の女性の困難などが課題として書かれていた。

そして、2015年に出された国連からの勧告には、彼女たちが出したレポートが反映され、移民及び難民の障害女性に対する特別な取り組みの必要性と、ジェンダー統計に基づく課題の抽出の必要性があることが書かれた。

知的障害女性への取り組み

また、ここ最近彼女たちのグループが取り組んでいるのは、作業所等で働いている主に知的障害のある女性たちに向けた権利擁護ワークショップのプログラム作りということだった。2011年にはワークショップ教材を作り、2013年には、各地でのワークショップを開催するためのトレーナー用の教材作りを行なってきたという。それらを基に、複数のワークショップを開催し、今後も、開催地を広げていくためにトレーナーを育てているところだという(写真3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

ワークショップは女性のみを対象とした3日間のプログラムで、分かりやすい表現で、障害女性の権利や、自己主張の方法、暴力被害の防止に向けた護身術のワークなどがおりこまれていた。

ドイツには、知的障害の人が働く作業所が各地にあるが、それらの場所では、障害女性の権利といったことについて学ぶ機会がなく、ハラスメントや暴力被害も日常的な問題となっているという。彼女たちは、このプロジェクトを通して、これまで自立生活運動とは関わりが薄かった知的障害の女性たちに、広く障害女性の権利や課題について伝える機会をつくっていきたいと話していた。

今回、短い時間だったが、ドイツの障害女性を訪ね、まさに今年の2月、国連でDPI女性障害者ネットワークが訴えた内容とも重なるテーマについて、ドイツでも取り組みが進められていることを知ることができた。また、特に、彼女たちが、権利条約という枠組みを使いながらも、ドイツ国内の、まだ自分たち自身が出会えていない多くの障害女性たちに、この間に彼女たち自身が積み重ねてきた活動を伝えようと、具体的な取り組みを進めていることがとても印象に残った。

今後も、活動についての情報交換を続けようと再会を約束し、ドイツを後にした。

(せやまのりこ DPI女性障害者ネットワーク+α)


【注釈】

1)団体のウェブサイト(英語での情報を得ることもできる):http://www.weibernetz.de/

2)第6回DPI世界会議の際には、女性障害者分科会の発表者として参加し、「女性障害者への性暴力にどう対処するか」をテーマに話をされている。このときの分科会の記録は、『世界の障害者 われら自身の声―第6回DPI世界会議札幌大会報告集―』(2003、現代書館)に詳しく記されている。