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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

フォーラム2016

熊本地震で被災された障害のある方々への支援:
テレビの災害・緊急情報の音声化の取り組み

原田敦史

東日本大震災から5年が経過し、被災地の復興が少しずつ進んできたと感じ始めていた4月14日に熊本地震が発生した。その2日後には本震が発生し、被害が拡大した様子が放送され始めた。私は東日本大震災で被災した視覚障害者の現地支援対策本部責任者として活動していた経験から、どうすれば熊本の視覚障害者に必要な情報を届けることができるのかを考え始めていた。

視覚障害は情報障害であると言われる。それは、「情報が取れない・入らない」ということではなく、「取りにくい・入りにくい」という状況を指している。特に、災害時には情報を正確にかつ早急に手に入れられるかどうかが生死、またその後の避難生活での鍵となってくる。

東日本大震災では情報入手を思うようにできない人が多く、支援電話への問い合わせの多くは、病院の開院状況や食料品を販売している店舗の情報、給水場所の確認などであった。こうした情報はラジオやテレビでも報じられ、多くの方と同様に視覚障害者も確認することはできた。しかし、被災者の多くが情報の入手に活用したであろう媒体は、テレビ画面の周囲にL字型で表示されるテロップ情報であり、残念ながら、このテロップ情報は音声化されておらず視覚障害者には使えないものであった。

このL字型の表示はご覧になったことがある方も多いと思うが、実は被災地と被災地以外でその内容は少し異なる。被災地ではよりローカルな給水情報やスーパーの開店情報、病院の状況等、かなり有用な情報が流れている。私自身は機会あるごとに、テロップ情報を音声化するよう各方面にお願いしていたが、対応は難しいということで、今まで状況を変えることができていなかった。

このままでは、今回の熊本地震でも視覚障害者に必要な情報が届かない状態となってしまう。私はニュースを見ながら、テロップ情報を音声化し、視覚障害者が利用できる方法がないかと考えていた。しかし、テロップ情報をメモして音声化しようにも、現地にいない私にはどうすることもできない状況だった。私ができたことは、所属する災害時情報保障委員会の上部に当たる障害者放送協議会のメーリングリストに、「L字型のテロップ情報が音声で聞けないため、視覚障害者が十分な情報を受け取ることができていない」ことを報告するのみであった。

ただ、この報告により、L字型のテロップ情報がNHKのホームページにテキストでまとめてあることを問い合わせて見つけ出してくれた方がおり、ノーマネットのページにリンクを分かりやすくまとめてアップされるところまで繋(つな)がったのである。

これでノーマネットのページにアクセスすれば、自由に情報を確認することが可能な状態となったが、視覚障害者にはパソコン・携帯等の操作を得意としない方も少なくない。やはり音声で簡単に利用できる情報にすべきだと思い、テキスト情報の音声化を勉強している堺市の音訳・点訳ボランティアを数人募り、L字型のテロップ情報を音声化する体制を整えたのである。作業の流れとしては、

  • ホームページからテキストデータを取り出してレイアウト調整。
  • 音声合成化ソフトにより、読みの間隔や地名等漢字の読み間違いがないかを確認し、必要に応じて修正。
  • 最後に、MP3形式の音声出力したものをホームページにアップをする。

というものであった。作業は朝の情報をもとに作成し、午後に前日の音声データと入れ替えるということを毎日1回行なった。同じアドレスを利用することで、一度アドレスを登録しておけばアクセスするたびに最新のMP3データが再生されるので、パソコンを得意としない方も活用しやすい環境となった。なお、このアドレスは、情報が必要な視覚障害者や関係者に第1回のアップが終わった段階で、メールでお知らせした。実施期間は4月25日から5月8日までであった。連休を返上して作業に協力してくださったボランティアの方には本当に感謝をしている。

ノーマネットの災害情報ページへのリンク画面
http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/nhk_disaster_info.html

この情報がどの程度活用されたのかは確認できていないが、情報保障という観点でいえば、今までできていなかったことを少しは解消することができたと思っている。しかしながら、災害時は情報が利用しやすい形になっていないことがまだまだ多い。視覚障害者の場合、多くの情報が紙媒体で提供されるために読むことができず、情報として利用できていない。たとえば臨時で発行される行政の広報、国から発行される被災者向けの情報資料など活用できれば便利なものがたくさんある。今回も国から多くの情報が紙媒体で出されたが、残念ながら音声版や点字版はなかった。堺市では、早い段階で発行された「平成28年熊本地震被災者の皆様への生活支援」については音声合成で作成し、熊本の点字図書館に提供をしている。しかし、それ以外のものについて音声・点訳化されたということは聞いていない。

大変な状態だから準備できないのかもしれないが、大変な状態だからこそ必要な情報が障害者にもわけ隔てなく届くようにすべきであると思う。差別解消法も始まり、合理的配慮の中では配布資料の音訳・点訳化に触れられている。非常時であっても、非常時だからこそ、きちんとした情報提供をする体制を整えるように、国には率先して準備をしてほしい。

(はらたあつし 堺市立健康福祉プラザ点字図書館館長)