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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

放課後等デイサービスの現状と課題

中嶋麻衣

1 放課後等デイサービスとは

放課後等デイサービスは、平成24年4月に児童福祉法に位置づけられた新たな支援であり、同法第6条の2の2第4項で「学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(幼稚園及び大学を除く。)に就学している障害児につき、授業の終了後又は休業日に児童発達支援センターその他の厚生労働省令で定める施設に通わせ、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進その他の便宜を供与すること」と規定されている。

また、平成27年4月に厚生労働省が策定した、放課後等デイサービスガイドライン(以下、ガイドラインとする)では、「放課後等デイサービスは、支援を必要とする障害のある子どもに対して、学校や家庭とは異なる時間、空間、人、体験等を通じて、個々の子どもの状況に応じた発達支援を行うことにより、子どもの最善の利益の保障と健全な育成を図るもの」とされている。

自立支援と日常生活の充実のための活動、創作活動、地域交流の機会の提供、余暇の提供が基本活動として挙げられているが、放課後等デイサービスを利用する子どもや保護者の多種多様なニーズを踏まえて、さまざまな内容の支援が行われている。学校から事業所、事業所から自宅への送迎、食事の提供等を実施している事業所もある。子どもや保護者のニーズに応じて、毎日同じ事業所を利用するのではなく、複数の事業所を日替わりで利用している子どもたちも少なくはない。さまざまな人とかかわり、さまざまな経験ができるという利点はあるが、子どもへの支援がばらばらに行われるのではなく、一人の子どもの発達を支える視点で事業所間や家庭、学校とのより密な連携が必要であると思われる。

2 障害のある子どもたちにとって安心して自分を出すことができる「居場所」

私は、2013年4月から2016年3月まで大阪発達支援センターぽぽろ(大阪市鶴見区)、2016年4月から社会福祉法人おおすぎ城山れんげの里(三重県津市)という障害児通所支援事業所(児童発達支援事業と放課後等デイサービス事業を実施)で勤務している。学校では「できる、できない」の評価に緊張しながら過ごしたり、友だち関係に悩んだりしながら、精一杯頑張っている子どもたちが多い。

支援の内容やプログラムはそれぞれに特徴があるが、放課後等デイサービスでは、ありのままの自分を出して自分らしく、安心してゆったりと過ごすことができるよう心がけながらかかわっている。小学生になると、放課後は学童を利用したり、地域の友だちと一緒に遊んだりすることが多いが、障害のある子どもたちは放課後を主体的に楽しく過ごすことが難しい。

また、子ども同士の関係性の中では、自分の意見を相手にうまく伝えることができずにトラブルになることも多い。放課後等デイサービスは、同年代の友だち、集団の中でありのままの自分を出し、時には友だちとの意見の違い等に葛藤することもあるが、大人(支援スタッフ)が見守り、必要に応じて間に入って子どもたちの思いを代弁したり、調整したりすることができる場だと思う。

また、学校やクラスの集団の中では自分を出せずにいたり、不安を抱えたりしている子どもたちも、放課後等デイサービスという10人程度の小集団の中では自分らしく活き活きと活動に参加できる姿も見られている。

以前、私が勤務していた事業所を利用していたAちゃんは、事業所を利用することを楽しみにしながらも、物や場所への思いやこだわりが強いため、友だちに貸してあげたり、譲ってあげることが難しく、友だちとトラブルを起こしてしまうことが絶えなかった。Aちゃんと友だちの間に入って話をするスタッフや、友だちに手を出しそうになったAちゃんを制止しようとしたスタッフに攻撃的になることも少なくはなかった。私たちスタッフは繰り返し「Aちゃんにとって放課後デイサービスとは何なのか」「Aちゃんが求めていることは何なのか」を話し合いながら、Aちゃんとかかわってきたが、その答えはいまだ明確にすることはできていない。

学校のような枠にはまった取り組み、“~しなければならない”ことではなく、子どもたちが主体的に“楽しい”“おもしろそう”と感じ、自分から“やってみたい”“やってみようかな”と感じることができるような取り組みを考えながら、子どもたちとかかわっている。ただ、Aちゃんに限らず、放課後等デイサービスを利用している子どもたちの中には、“学校や家庭ではしないけど、○○(事業所)ではする!”という子どもたちも少なくはなく、大人も驚くようなダイナミックな遊びが展開されることもある。思いきり“やんちゃ”に遊ぶ経験も大切にしながら、時には子ども同士が思いを出し合ってぶつかったり、気持ちに折り合いをつけることができずにしょんぼりしたり等、日々、喜怒哀楽を共有しながら、さまざまな経験をして過ごしている。

3 職員に求められる専門性

放課後等デイサービスで勤務していると、子どもたちから話を聞いたり、相談を受けることも多い。学校の先生や家族には話しにくいことも、放課後デイサービスのスタッフには話せるという子どももおり、先生や親との“縦の関係”でもない、友だちとの“横の関係”でもない、“斜めの関係”が職員には求められている。また、子どもだけでなく、保護者からの相談を受ける機会も少なくない。子どもの発達や障害に関する相談だけでなく、就学相談や学校生活に関する相談、身体の変化や性に関すること、思春期のかかわり方等、相談内容は多岐にわたる。あらゆる相談内容に的確に対応できるだけの専門性が職員には求められる。

しかし、現状では現場の支援員が対応している場合が多く、保護者からの相談を十分に受ける体制、職員の研修制度や相談員の配置等は十分に整備されていない状況である。2015年度から、放課後等デイサービスの報酬単価に事業所内相談支援加算が新たに設けられ、報酬として算定することができるようになったが、月1回までと回数が限定されていることや、1回あたりの単価は35単位と十分な報酬単価が定められていないこと等、制度上の問題点はあるが、その必要性から鑑みても、制度や体制をより充実させていくことが急務であると思われる。

障害のある子どもたちにとって、放課後や長期休暇等を過ごすための場所、家庭でも学校でもない“第三の世界”は、発達の土台を広げると同時に、豊かな生活を築いていく上で重要であり、放課後等デイサービス事業に求められる役割は大きい。

放課後等デイサービスは、放課後をただ過ごすだけの場所ではない。子どもたちが主体的に遊びや余暇を楽しむことができる場だと私は考えている。そのためには、活動の計画、子ども一人ひとりの見立て→実際の支援→振り返りというPDCAサイクルのような支援を日々行う必要がある。子どもの発達や障害に関する知識だけでなく、子どもの遊びをどのように集団に広げるのか、子どもの興味関心があることを見落とさずに遊びに展開させていくことができるのか等の視点や引き出しも求められる。現場の実情や支援内容を踏まえ、放課後等デイサービスの職員に求められる専門性とはどのようなものなのかを、改めて明らかにしていくことも重要ではないだろうか。

4 豊かな学齢期から充実した青年期を目指して―ライフステージに沿った支援

今日、地域で生活する障害のある子どもたちや家族にとって、その年齢やライフステージに応じて、児童発達支援事業や放課後等デイサービス事業が身近に利用できるようになってきている。子どもや保護者のニーズは多種多様であり、そのニーズに応えるように放課後等デイサービス事業の支援や内容も広がっている。また、小学生から高校生までを対象としている放課後等デイサービス事業では、それぞれのライフステージに応じた支援、かかわりが求められており、一言で放課後等デイサービスといっても、その支援の内容はさまざまである。

障害のある子どもたちの放課後や生活、余暇が広がるよう、家庭でも学校でもない、安心して自分を出すことができる居場所となるよう、今後も取り組みを続けていきたい。日々発達し成長する子どもたちの姿をありのまま受けとめ、共有しながら、ライフステージに沿ったきめ細やかな支援ができるよう心がけていきたいと考えている。

(なかじままい 立命館大学大学院)