音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

1000字提言

実現しているインクルーシブ教育
子ども同士のつながり

長位鈴子

8年前、涙をこらえながら両手を震わせて訴える父親の姿を昨日のように鮮明に思い出すことがある。

I君は重度の知的発達の遅れや多動、感覚過敏などの障害がある。小学校は地元の小学校の普通学級を選択。その時のI君の父親の言葉。「親として子どもがどんな環境の中で育ってほしいのかと考えるのは当然だと思います。うちの子は言葉を発することができなくても、トイレが自力でできなくても自分たちの子どもです。子どもは子どもたちの中で育ちあうことを分かってほしい。そんな小さなことを願うことはいけないのでしょうか?」

I君は、現在、中学2年生。今までいろいろなことがあったが、I君なりに著しい成長を見せている。

先日、担任の先生と支援員2人に学校での取り組みや苦労していることを聞き取りする目的で訪問した。重点教科の授業は特別支援学級で行なっている。そこで五十音を学んでいるが、まだア行を覚えている状況で、このような進め方でいいのだろうかと先生方も模索している。全校集会の時に奇声を発したり、周りの風紀を乱すことも多くあるようだが、その都度、支援担当の先生がマンツーマンでついている。

教育の現場では、インクルーシブ教育と言われてもどのような方法がいいのか分からない。教えてくれる人たちも少ない。I君の能力の引き出し方が分からないなど、先生方は悩んでいるが、逆に、生徒から教えられることが多いという。発想を変えて、手探りをしながら実践しているそうだ。

7月初めに行われた校内陸上競技大会の出来事がとても印象的だった。リレーに参加したI君が走っていると、途中から他のチームのメンバーが手をつないで一緒に走りだした。ゴールしたI君はじめ他のメンバーも笑顔だったという。事前に大人が考え出したわけではなく、学校行事があるたびに子ども同士で話し合い、チームは彼を排除することなく行事に参加しているそうだ。小学校の時から一緒の子どもたち。I君のことを知っているからできることだといえる。

地域もI君を支えている。たとえば、通学途中で気になる物を蹴(け)とばして壊してしまうことがあった。初めは住民からクレームがあったが、次第にI君のことを理解するにつれて見守ってくれるようになってきたという。悪いことをすれば叱り、良いことは褒(ほ)めるという関わりが自然に行われている。

今までインクルーシブ教育というと海外や県外に目を向けていたが、自分たちの身近なところで実践されていた。障害者運動をしてきた者として、これから障害のある子どもたちの教育機関とのつながりをつくり、地域で育ちあう環境を考えていきたいと強く思う。


【プロフィール】

ながいれいこ。1963年2月11日生まれ。NPO法人沖縄県自立生活センター・イルカ理事長。障害者が地域生活を満喫するには、幼少期からの関わりが必要と考える。その中から本音で話し合える場所があること、お互いの違いを認め合うことを願い障害者運動を続けてきた。