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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

列島縦断ネットワーキング【長野】

障害のある人の芸術活動、表現活動
ビートウッズの活動と特徴
~Not live without dance~

小山多恵子

芝居の冒頭で観客の心を捕らえる

「おじさん、今朝も僕は新聞持ってきました。〈…中略…〉いないな〈…中略…〉誰かおじさん知りませんか?みんなちょっと変わっているけど悪いことする人じゃないんです。生き方はちょっとヘタかもしれないけれどいい人なんです。人とはちょっとうまくやれないかもしれないけどいい人なんです。仕事もしていないけどいい人なんです。こんなところで生活してるけどいい人なんです。…」

ビートウッズのある芝居の冒頭に、一人で舞台に上がり、観客に向かってこのセリフを言う新聞配達少年役の20代の女性メンバー。大きな声、はっきりした口調で長いセリフを語ります。彼女はダンスが大好きで高校卒業後、すぐにビートウッズに来ました。芝居は彼女の中で予定外だったかもしれません。いつも明るくて、仕事も、好きなこともどんなことも真っ正面に向き合う彼女です。「こんどのお芝居楽しみだな。いろんな人が観に来てくれるから、頑張ります。家でも練習してるんだ」とにこやかに話してくれます。

だけど、実はとってもとっても緊張しているのが伝わってきます。セリフが出ない、緊張で泣いてしまうこともあります。でもそんな思いもこんな言葉に変えて、彼女が自分自身に言い聞かせているかのように話してくれます。そんな彼女の心の底からの、全身からの表現だから観ている人の心が打たれるのだと思います。芝居の冒頭で観客の心を捕らえます。

D×Pビートウッズはかなりのダンス好き!

D×Pビートウッズは、長野市を拠点に、ダンスと芝居のステージや公演等を精力的に行なっている、知的障害のある人を中心とした表現チームです。

平成8年に楽しくダンスをしたい!と結成されたダンスチームで、今年20周年を迎えました。構成メンバーは20歳代~40歳代、現在35人ほどです。結成当時からのメンバーが半数以上います。平日は福祉就労等や一般就労で働き、月2回の日曜日の練習には15人~20人が参加しています。通常はダンス練習ですが、芝居の舞台が決まるとダンスに加えて1時間ほど芝居の練習が増えます。公演のDVDを観ながら自宅で自主練習をしているメンバーもいて、かなりのダンス好きチームです。

活動を始めた頃は練習中心でした。数年後、地域のダンスコンテストに参加したりイベントに売り込んだり、発表の機会を作りました。そんな活動を積み重ね、少しずつさまざまなイベントに呼んでいただくようになり、最近は毎週末、イベントに参加しています。ステージの経験を積み、ダンスのレパートリーも増え、いろいろな人に観てもらいたい思いから、10周年を記念して平成20年3月に、初めて2部構成の芝居&ダンスステージを開催しました。ダンスが入ったちょっとした芝居ならできるかも、ということで芝居に挑戦しました。その後も芝居は4作をこなし、芝居だけの公演も開催しました。アマチュアの劇団員の方のゲスト出演もあり、観に来てくださった方に「良かった」という感想をいただき、ますます勢いに乗っています。

Not live without dance

ビートウッズのダンスは「上手いダンス」ではありません。少しもそろっていないし、全く違う動きをする人、動かず佇(たたず)んでいる人もいます。芝居もセリフははっきり聞こえないし、しっかりしゃべれないし、動きもぎこちなく、とても演技をしているとは言い難いです。でも、舞台の後、観客の方から「あの人の踊りから目が離せなかった」「ビートウッズの舞台は毎回泣いてしまいます」といった感想をいただいています。おっかけや毎回、観に来てくださるファンの方もいます。上手くはないけど、なぜか観客の心を揺り動かすダンスや芝居なのです。

ビートウッズの表現は常に自由です。音楽が流れ、一人ひとりを観ていると、それぞれの表現の独特さがあります。そもそも、表現は自己を対象化するものなので、1人として同じ人間はいないのだから同じ表現などありません。同じ振り付けなのに一人ひとりの踊り方が違う、でも不自然さを感じさせない個の塊のように見えます。にじみ出る独特さからは、その人の自分の内にあるものが外に向かって開放され形となって表現されているのを感じます。彼らはこんなふうに表現しようなどと意図しているわけでもなく、無頓着なので自然体です。それが大きな強みなのかもしれません。

また、彼らは個の表現に没頭し周囲のメンバーを意識していないように見えます。しかし、個々が表出したものを無意識のうちにお互いが受け止め、コミュニケーションがなされ、認め合っていることを感じます。認め合うことで調和のとれた一体的な集団になるのだと思います。そんな集合体が観客には感動として伝わるのではないでしょうか。

ビートウッズのダンスステージは緊張とは無縁で怯(ひる)むことはありません。ステージに立つことが大好きなことも大きな強みです。いつも観客の皆さんに伝えたい思いが沸々と溢(あふ)れています。「私を観(み)て!」「私の思いを感じて!」とメッセージを届け、爽やかさと爆発的な力強さを感じさせるステージです。

芝居に挑戦の時、メンバーに少し戸惑いがありました。芝居とダンスでは表現の方法が違います。覚えるセリフがあり、セリフの意味に基づいた身体の動きがあります。セリフが無くても身体の動きはあります。役者同士の掛け合いでは、相手を意識しながらの表現になります。セリフに意識がいくと身体が動かなくなり、身体を動かそうとするとセリフが出てこなくなってしまいました。彼らは音楽のリズムを使わずに、セリフや動作で、その思いをどうしたら表現できるのだろうと何度も練習をしていました。家でも練習をしていました。セリフを一生懸命覚えました。しかし、大きな声で話す、ゆっくり話すなど場面に合わせた技術を獲得し、感情や喜怒哀楽を表現できるようになるのはなかなか難しいです。

でも、彼らが芝居になっても変わらないのは「体を使って表現したい、伝えたい」という強い思いです。月並みですが、芝居は技術や上手さではなく、ハートなのだと思います。また、芝居に出る彼らは演技をしている彼らではなく、しゃべりはいつものAさん、動き方もいつものBさんだったりするので、その個性が生かされた芝居をすることで個の面白さがよりいっそう強調され、際立ち、それが観客に強烈に印象づけられるのだと思います。

彼らにとってビートウッズは生活や人生の中でしっかりと位置づけられ「ダンス」「芝居」はなくてはならないものになっている気がします。

「表現」「コミュニケーション」は、人間が生きていくために重要な要求の一つだと思います。現代社会では、本当の自分を表現できる機会がほとんどありません。心と心をつなぐコミュニケーションも困難な時代になってきています。彼らにとって「ダンス」「芝居」は「表現」「コミュニケーション=共感」する場なのだと思います。日常とは違う「非日常の空間」ともいえるかもしれません。そんな自分を開放できる空間が心地よく、毎回練習に通ってくるのでしょう。

ビートウッズはこれからも熱い!

ビートウッズは、親御さんの強い希望から子どもや家族中心の「ビートキッズ」のユニットも結成され、現在は80人ほどになりました。結成の頃、高校生だったメンバーは30代半ばを過ぎましたが、変わらずのパワーです。20代メンバーも増えて将来が楽しみです。将来を担うスタッフ不足が心配で課題でもあります。これからは、大きな舞台でやりたい、県外で踊りたい、時代劇をやりたい。ダンス合宿したい…といった声が上がる一方、ヒップホップは難しい、主役はもう降りたい、どろぼう役はいやだという声も。それぞれが気持ちの葛藤や折り合いをつけながら表現活動に勤しんでいます。

現在は、20周年記念公演に向けて練習の真っただ中です。今回は初めて長野市芸術館で、入場料をいただいての公演を予定しています。メンバーは不安と期待をヒタヒタと感じつつ、パワーは衰えません。

チーム名の「D×Pビートウッズ」のDはダンス、Pはプレイ(演劇)の意味です。これからもダンスと演劇の表現に取り組む痛快パフォーマンス集団を目指し、熱い、熱いパワーを皆さんに届けたいです。

(こやまたえこ 社会福祉法人森と木)