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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

高齢又は障害により自立困難な刑務所出所者等の改善更生・再犯防止に向けた更生保護の取組

中野智之

1 更生保護とは

更生保護とは、犯罪をした人や非行のある少年に対し、地域社会の中で適切な指導・援助を行うことにより、その再犯と再非行を防ぎ、善良な社会の一員として自立し、改善更生できるよう働き掛けることなどをいう。

更生保護の内容としては、保護観察、刑事施設からの仮釈放又は少年院からの仮退院、生活環境の調整、更生緊急保護、恩赦及び犯罪予防活動などがある。その中でも、生活環境の調整とは、刑務所や少年院等の矯正施設に収容されている人について、保護観察所が釈放後の住居や就業先などの帰住環境を調査し、改善更生にふさわしい生活環境に整えることによって、刑務所出所者等の円滑な社会復帰を目指すものである。

受刑者においても、保護観察対象者においても、高齢者(65歳以上)や障害者が増加傾向にある。ここでは、高齢又は障害により自立困難な刑務所出所者等に対する更生保護の取組について、生活環境の調整の特別な手続である特別調整を中心に紹介した上で、その現状や課題について考えたい。

なお、本稿中の意見にわたる部分は筆者の私見である。

2 特別調整が開始されるまでの経緯

平成18年に法務省が実施した特別調査においては、刑務所に収容されている人のうち、親族等の受入先がない満期釈放者は約7,200人に及び、このうち、高齢又は障害により、自立が困難な人は約1,000人にものぼることなどが明らかとなった。法務省と厚生労働省において協議がなされる中、平成20年12月、犯罪対策閣僚会議において、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」が策定された。同計画の中には、「高齢・障害等により、自立が困難な刑務所出所者等が出所後直ちに福祉サービスを受けられるようにするため、刑務所等の社会福祉士等を活用した相談支援体制を整備するとともに、『地域生活定着支援センター(仮称)』を都道府県の圏域ごとに1か所設置し、各都道府県の保護観察所と協働して、社会復帰を支援する」ことが盛り込まれ、平成21年度からこの「特別調整」の取組が実施されることとなった。

3 特別調整の取組

特別調整は、矯正施設に収容されている人(以下「被収容者」という。)が釈放された後、速やかに公共の衛生福祉に関する機関その他の機関による必要な介護、医療、年金その他の各種サービス(以下「福祉サービス等」という。)を受けることができるように調整し、その円滑な社会復帰を図ることを目的としている。

手続としては、まず、矯正施設が、要件(高齢であること又は障害を有すると認められること、帰住予定地がないこと及び本人が希望していることなど)に該当すると思われる被収容者を選定し、心身の状況、福祉サービス等の必要性等について調査を行い、要件を満たすと認めたときは、当該被収容者が特別調整の候補者である旨保護観察所に対して通知する。

通知を受けた保護観察所は、必要に応じて面接するなどの調査を行い、特別調整の対象者として決定し、全都道府県に設置されている地域生活定着支援センターに協力を求めて、連携しながら調整を進めていく。具体的には、同センターが中心となって、矯正施設を出た後の適当な帰住先を確保したり、必要な福祉サービス等を受けたりすることができるよう調整が行われる。

4 特別調整の実施状況等の推移

平成27年度の特別調整の実施状況は、特別調整の対象となり釈放等に至った人員は730人、そのうち福祉施設等につながった人員は479人であり、どちらの人員も年々増加している(法務省保護局調査)。釈放後直ちに福祉施設等につなぐことができない場合であっても、保護観察所や地域生活定着支援センターが連携して継続的に調整を行う場合もある。

また、矯正施設から釈放された後に帰住できる福祉施設を調整できたとしても、釈放時に必ず居室が空いているとは限らない。このような場合は、更生保護施設に一時的に入居することもある。更生保護施設は、身寄りのない刑務所出所者等を宿泊保護して社会復帰を助ける法務大臣の事業認可を受けた民間の施設だが、全国の更生保護施設のうち、現在、71か所が法務大臣の指定する「指定更生保護施設」とされており、福祉の専門資格を有する職員が配置され、福祉サービスが必要な人への対応を行なっている。

5 最後に

特別調整の取組により、矯正施設から釈放後、速やかに福祉的支援を受けることのできる人の数は増加している。そして、福祉の力によって社会復帰を果たしている人も増えてきている。しかし、依然として、福祉サービス等を必要としながら、必要な支援を得られないまま釈放される人も相当数いることから、1人でも多くの人を福祉施設等につなげていくことが課題となっている。

また、特別調整の対象者に該当しないものの、福祉的支援を要する保護観察対象者は増加していることから、保護観察所においても更に体制を整備し、適切な支援につなげ、対象者の改善更生と再犯防止を図っていく方針である。関係機関・団体の皆様のより一層の御理解と御協力を切にお願いする。

(なかのともゆき 法務省保護局観察課)