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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

刑事施設における特別調整の現状について

田畑賢太

1 はじめに

近年、刑事施設では、受刑者の高齢化が急速に進んでいる。各年の新受刑者に占める高齢者の割合を見ると、平成16年に4.2%だったものが、平成26年には10.4%と大幅に増えている。高齢の受刑者は、身寄りがないことが多い上、疾患があることもしばしばであるため、出所後まもなく生活苦に陥り、短期間で再犯をする者もいる。また、障害を有している受刑者についても、出所後の自立が困難である場合が少なくない。

このような高齢又は障害により特に出所後の自立が困難な受刑者については、「特別調整」の対象者とし、出所後すぐに福祉サービスを受給できるようにしている(特別調整の詳細は、法務省保護局の論稿を参照されたい)。本稿では、特別調整について、刑事施設がどのような取り組みをしているかをご紹介したい。なお、本稿の意見にわたる部分はすべて私見である。

2 刑事施設における特別調整への対応

特別調整に関する刑事施設の主な役割は、特別調整の候補者を適切に把握して保護観察所に通知することのほか、対象者に選定された後、保護観察所や地域生活定着支援センターと連携しながら、必要な情報を提供したり、各種の調整をしたりすることである。これらのため、刑事施設では次のような対応を行なっている。

(1)知的障害用スクリーニング・ツールの導入

特別調整の対象となる条件のうち、高齢であることはすぐに把握でき、身体障害や精神障害についても比較的把握しやすい。その一方、知的障害については、これまで障害認定を受けたことがなく、また障害の程度も軽い場合、見逃されがちである。

これに対応するため、刑事施設においては、知的障害用スクリーニング・ツールを導入している。これは、専門知識を有しない職員であっても、受刑者との面接の中で簡便に実施できるものであり、受刑開始時に本ツールを実施し、その結果、精査が必要となった場合には、各刑事施設に配置されている調査専門官が個別知能検査を実施するとともに、医師の診断を仰ぐなどしている。

なお、刑事施設では、受刑開始時にCAPASという能力検査を実施しており、その結果の一つとして「IQ相当値」が出力される。しかし、CAPASは、刑事施設内における刑務作業の適性の把握等を目的とした検査であり、受刑者を母集団として作成されているなど、通常の知能検査とは異なるものである。「IQ相当値」は参考値にとどまるものであり、これをもって知的障害の有無について判断することはできない点に留意が必要である。

(2)社会福祉士等の配置

もともと刑事施設では、一部の医療刑務所などを除いて福祉を専門とする職員は配置されていなかった。しかし、特別調整に対応するためには、福祉に関する専門知識や実務経験等を有する職員が必要であるため、刑事施設では、非常勤の社会福祉士等(社会福祉士又は精神保健福祉士)の配置を進めてきたところである。さらに、平成26年度からは、福祉専門官(社会福祉士又は精神保健福祉士の資格を有する常勤職員)の配置を進め、随時、拡大を進めている(平成28年度においては34庁に1人ずつ配置)。

刑事施設では、これら社会福祉士等が、釈放後に福祉サービスが必要と考えられる受刑者と面接をして福祉ニーズ等を把握し、必要な場合は、特別調整候補者として保護観察所に通知している。その後も、障害の程度や生活歴等の必要な情報提供を随時行うとともに、障害者手帳の取得や生活保護の受給に必要な手続を支援するなどして、特別調整の円滑な実施に努めているところである。

(3)関係機関等との連携強化に向けた取り組み

特別調整は、刑事施設のみで実施可能なことではなく、保護観察所や地域生活定着支援センター等の関係機関との協力、連携が不可欠である。この点、省庁レベル、施設レベル等、さまざまな段階において協議等を行い、随時必要な見直し等を行なっている。その他、全国の刑事施設と保護観察所の間において、テレビ会議を実施するためのシステムを整備し、生活環境調整における受刑者との面接にも活用できるようにするなど、情報共有体制や連携の強化に向けた取り組みを進めている。

(4)高齢受刑者等への改善指導

客観的に見れば、福祉の支援が必要と思われる受刑者であっても、支援を拒否する場合が少なくない。その背景には、福祉に対する知識の不足や誤解があると考えられ、そうした受刑者を対象に、福祉に関する正しい知識を理解させたり、社会適応力を身に付けさせたりするための改善指導として、「社会復帰支援指導プログラム」の開発を進めている。平成28年度においては、全国展開を見据えつつ、6つの刑事施設において試行中であり、その指導には、外部講師として福祉機関等にもご協力いただいているところである。

3 最後に

以上のように、特別調整の円滑な実施に向けて刑事施設では各種の対応を行なっているところである。前述のように、刑事施設においては受刑者の高齢化が急速に進んでおり、今後、福祉の支援を要する受刑者はさらに増えると予想される。職員体制の強化はもちろん、関係機関等との連携をさらに強化し、福祉が必要な者を適切に支援につなげ、再犯防止に努めたい。

(たばたけんた 法務省矯正局成人矯正課処遇第二・三係)