「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号
解説 障害者差別解消法 第4回
労働及び雇用に関する差別と合理的配慮
赤松英知
■労働及び雇用分野の差別禁止を担当する法律は
労働及び雇用分野の障害を理由とする差別については、障害者差別解消法第13条の規定により、改正障害者雇用促進法(以下、雇用促進法)で対応することとされている。これは、労働及び雇用分野では、すでに蓄積のある都道府県労働局等を活用した紛争解決制度の構築等特有の内容を定める必要があり、障害者差別解消法との重複を避けるためだと説明されている。
つまり、この2つの法律が相まって、障害を理由とする差別のない共生社会を目指そうというわけだが、表1のように両者の内容は少し異なっている。特に、合理的配慮の提供が障害者差別解消法では努力義務であるのに対して、雇用促進法では義務となっている。
表1
対象分野 | 差別とは | 差別禁止 | 合理的配慮の提供 | 紛争解決 | |
---|---|---|---|---|---|
障害者差別解消法 | 労働及び雇用以外 | 不当な差別的取扱い 合理的配慮の不提供 |
義務 | 行政機関等は義務 民間事業者は努力義務 |
規定なし |
改正障害者雇用促進法 | 労働及び雇用のみ | 不当な差別的取扱い | 義務 | 義務 | 自主的解決 調停、勧告等 |
労働及び雇用分野では、雇用される障害のある人と事業主は継続的な関係にあることから、合理的配慮の提供が努力義務にとどまらないのは適切な措置といえる。このことが募集及び採用を含むすべての過程で徹底されることと、障害者差別解消法にも波及することが求められる。
■障害を理由とする配置転換の実例から
今年3月、岡山県の大学の教員である山口雪子さんが、視覚障害を理由に授業から外され事務業務を行うよう命じられたことを不服として、提訴した。大学側は、授業中に飲食する学生を発見できないことや、無断で教室を退出する学生を注意できないこと等をあげ、教育の質の保障に関わるために配置転換をしたのであって、障害を理由とする差別はしていないと主張する。しかし、雇用促進法の観点からみると、どうだろうか。
雇用促進法は労働及び雇用分野のあらゆる局面で、障害を理由に排除することや、不利な条件を付すこと等の差別的取扱いを禁止している。だとすると、視覚障害があるために授業の能力が無いとして配置転換をすることは、まさに障害を理由とする差別的取扱いに当たるだろう。
また、同法のもう一つの柱である合理的配慮の提供を事業主に義務付けた点に関しても見てみよう。
授業中の学生の飲食等については、大学は山口さんと話し合った後も、視覚障害を補う合理的配慮をまったく提供していない。山口さんは私費で補佐員を雇用したが、大学との約束で「補佐員は学生と直接関わってはならない」とあるため、補佐員は飲食等を見つけても注意できないという。このように山口さんが働く上で直面するさまざまな障壁(バリア)を取り除く措置を何ら講じることなく授業能力が無いと断じることは、「授業をしたいなら見えるようになりなさい」と言うに等しく、明らかに合理的配慮の提供義務に反している。
■公務員労働者への差別禁止について
山口さんが勤務する大学は私立なので民間事業者と見なされ、障害を理由とする差別については雇用促進法で対応するが、公立学校の場合、教員は公務員であるため、表2に示したように国家公務員法や地方公務員法の同趣旨の条項で対応することになる。
表2
差別禁止 | 合理的配慮 | |
---|---|---|
国家公務員 | 国家公務員法第27条 (平等の取り扱いの原則) |
国家公務員法71条(能率の根本基準)等や人事院規則等 |
地方公務員 | 地方公務員法第13条 (平等の取り扱いの原則) |
障害者雇用促進法を適用 第36条の2から第36条の5 |
これについては、2013年5月28日の第183回通常国会参議院厚生労働委員会において、当時の民主党の石橋通宏議員からの質問に答える形で、国家公務員法や地方公務員法の上記条項によって、雇用促進法の差別禁止及び合理的配慮提供義務という趣旨が担保されることが確認されている。
■差別禁止と合理的配慮義務の例外について
障害のある人に障害のない人と異なる取扱いをしても、積極的に差別を是正する観点から、障害のある人を有利に取り扱う場合、合理的配慮を提供して労働能力等を適正に評価した結果として異なる取扱いをした場合、合理的配慮を提供した場合等は差別に当たらない。
特に、二つ目は山口さんの場合に照らしても重要で、障害を理由とする差別的取扱いの例外として配置転換等が認められるには、適切な合理的配慮によって障害に起因する不利が補われた上で、労働能力が適正に評価されることが前提となる。
また、合理的配慮の提供義務についても例外が認められている。すなわち、合理的配慮の提供が事業主にとって過重な負担になる場合は、これを提供する義務は無いのである。過重な負担であるかどうかは、合理的配慮の提供が事業所の生産活動やサービス提供に与える影響、そのための機器や設備の整備等の困難さの度合い、費用や負担の大きさ、事業所の規模や財務状況、公的支援の有無などを総合的に勘案して判断することになっている。
ただし、こうした例外規定が乱発されることで、結果として、障害のある人がその能力に適合する職業に就くこと等を通じて職業の安定を図るという法の趣旨が損なわれることがあってはならない。例外はあくまで例外として、抑制的な適用を徹底しなければならない。
(あかまつひでとも きょうされん常務理事)