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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

工夫いろいろエンジョイライフ

実用編●身体感覚の基点を作る工夫、他●

提案者:喜多ことこ イラスト:はんだみちこ

喜多ことこ(きたことこ)さん

自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)・注意欠如多動性障害。発達障害者を中心とした当事者研究会、発達・精神障害者とホームレスの拠点「べてぶくろ」等で当事者研究をしてきた。自分の身体との付き合い方を当事者研究することで、人や物や環境とつながる形を発見するのが、今の楽しみです。

私には、さまざまな環境の中で人や物などの新しい情報が入ると、溺れるようにアワアワしてしまい、普段できていたことも容易にばらばらになって行動が困難になる、という特徴があります。しかし数々の苦労の経験から、その身体に沿った生活の工夫がいくつか見えてきました。


身体感覚の基点を作る工夫

私の身体は日々違っています。右足裏の傾きが外側に開いて歪んでいる感じがして、どのように足を地面に着いたらバランスがとれるだろう、と歩き方が分からなくなることがよくあります。昨日は平気だった服や靴が、気温や湿度やその他の環境の変化によって、今日はなんだか合っていないとアワアワすることもあります。こうしたばらばらな身体感覚への対処法として、毎朝座禅をしています。まっすぐな姿勢と安定した呼吸の感覚を毎日実感しておくことで、この感覚が基点として機能するため、アワアワした時でも、落ち着いた身体感覚に戻りやすくなりました。


生活空間に基点を作る工夫

自分の身体だけでなく日常生活の行動においても、いつもと違うことがあると私はアワアワしやすいです。そこで家の中では、カバン、手帳、リモコンなど、日用品の基点となる置き場所を決めて、忙しく感じている時でもいちいちあえて戻します。家の外では、「今日は歯医者」「明日は役所」というルーチンではない用事でアワアワした時のために、基点となる場所を生活の中のあちこちに設置しています。毎日仕事前に寄る100円でコーヒーが飲める本屋さんもその一つです。そこに行くと自分の気持ちと身体がスッと落ち着きます。


行動予定に基点を作る工夫

私の頭の中は、いつも感覚の粒でいっぱいで、しかも新鮮な粒にすぐ占領されます。そのため予定していた行動も、新しい情報にのっとられて、やるべきことや、やろうと思っていたことをフッと見失い、そのままにしておくと日常がばらばらの粒となって崩れて、時間がスーッと流れてしまうことがよくあります。

そこで、スケジュール帳を基点とする工夫をしています。布団あげ、洗顔、座禅など、日常の決まった行動であっても、やったことをその都度スケジュール帳の時間軸に書き込みます。書き込まれたものを目で確認することで「ああ、何もやってなかったわけではなくて、ちゃんとやっている」と安心でき、次の日も同じ行動をすることができます。

また、やるべきなのにやらなかったことは、やり終わるまで次の日の予定欄に何日でも書き込み続けるようにしています。そして特に何もなくても見返すことで、書き込まれた優先事項が私に行動を促してくれます。

このように基点があることで、新しい感覚や思いつきに引っ張られてどこまでもばらばらになりやすい身体を、どうにか形のままに踏みとどめているように思います。