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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年10月号

「障害者の芸術活動支援モデル事業」の取組と今後の展望

品川文男

1 モデル事業創設の背景

芸術活動は障害者にとって重要な社会活動の一つであり、それらを支援していくことは、障害者の社会参加を進めることだけでなく、障害の有無にかかわらず人々がお互いを尊重しながら共生する社会を実現していく上でも非常に重要な意味を持っている。

また、障害者の芸術活動の中には、既存の価値観にとらわれない、その芸術性が国内外で高く評価される事例も多く存在している。

一方で、芸術活動に取り組む障害者やその家族、支援者等に対する支援や、芸術作品としての認知、展示の取組等が不十分であったことから、障害者の芸術活動に関して一層の支援を図るため、有識者による専門的な検討を行うこととし、平成25年6月から7月にかけて、文化庁と厚生労働省とが共同で「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」を開催した。

この懇談会では、障害者の芸術活動への支援の方向性や、具体的な支援のあり方について、主に美術の分野に焦点を当てて議論が行われ、その検討結果は、平成25年8月に「中間とりまとめ」としてまとめられた。

厚生労働省では、この「中間とりまとめ」の内容を踏まえ、その方向性に沿った取組を着実に推進するため、障害者の芸術活動の支援を行う者を支援するモデル事業を、平成26年度から28年度にかけて実施することとした。

2 モデル事業の目的

本事業は、芸術活動を行う障害者及びその家族並びに福祉事業所等で障害者の芸術活動の支援を行う者を支援し、その成果を普及することにより障害者の芸術活動の支援を推進することを目的としている。

3 モデル事業の実施団体

実施主体は、社会福祉法人その他の法人格を持つ団体とし、平成26年度は、支援活動の実績を有する5団体でスタートした。

平成27年度は、裾野を広げる視点からも、新たな団体を加え7団体とし、平成28年度は、10団体で実施している(図1参照)。

図1
図1拡大図・テキスト

なお、3年間における実施団体は次のとおりである。

(北海道)社会福祉法人ゆうゆう(H27、28)

(宮城県)特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン(H26~28)

(秋田県)特定非営利活動法人アートNPOゼロダテ(H28)

(埼玉県)社会福祉法人みぬま福祉会(H28)

(東京都)社会福祉法人愛成会(H26~28)

(神奈川県)特定非営利活動法人スローレーベル(H27)

(新潟県)社会福祉法人みんなでいきる(H28)

(山梨県)社会福祉法人八ヶ岳名水会(H28)

(滋賀県)社会福祉法人グロー(GLOW)~生きることが光になる~(H26~28)

(奈良県)一般財団法人たんぽぽの家(H26~28)

(広島県)特定非営利活動法人コミュニティリーダーひゅーるぽん(H26)

(佐賀県)特定非営利活動法人ライフサポートはる(H27、28)

4 モデル事業の内容

主な事業内容について、成果につながる取組事例を交えて紹介する(図2参照)。

図2
図2拡大図・テキスト

(1)障害者芸術活動支援センターの設置(必須事業)

各実施団体は、障害者芸術活動支援センターを設置し、次の取組を行う。

1.相談への適切な対応

障害者本人やその家族、障害者の美術活動を支援する福祉事業所等から、支援方法や著作権保護等に関する相談を受け付け、関係機関の紹介やアドバイスを行う。

成果につながる取組事例としては、相談対応シートの導入、弁護士を交えた相談の振り返り、記録のデータベース化等が挙げられる。

2.障害者の美術活動を支援する人材の育成

福祉事業所で障害者の美術活動を支援する者等に対して、美術活動の支援方法に関する研修と、著作権等の権利保護に関する研修を行う。

成果につながる取組事例としては、先進事例の見学や現場体験プログラムの提供、コンサルテーションの実施等が挙げられる。

3.関係者のネットワークづくり

障害者やその家族、障害者の美術活動を支援する福祉事業所や特別支援学校の職員、障害者の美術活動に理解のある専門家、都道府県担当職員等の情報交換の場を設け、相互の連携・協力を促す。

成果につながる取組事例としては、地域間や学芸員同士のネットワーク構築、特別支援学校へのアプローチ等が挙げられる。

4.美術活動を支援する者が参加して企画する展示会

福祉事業所の美術活動担当者、障害者の美術活動に理解のある専門家と連携し、各福祉事業所等から作品を持ち寄って展示会を開催する。

成果につながる取組事例としては、展示スペースや公募展の情報収集・提供、展示ノウハウ研修会等が挙げられる。

(2)協力委員会の設置(必須事業)

各実施団体は、実施団体の代表、都道府県関係職員、障害者美術活動支援団体の代表、学芸員及び弁護士を必須メンバーとする「協力委員会」を設置する。協力委員会は、事業実施計画の確認、実施への協力、進捗状況の確認等を行う。

成果につながる取組事例としては、大学教員や市民活動団体からの委員の任用等が挙げられる。

(3)調査・発掘、評価・発信(任意事業)

学芸員と実施団体が連携し、作品と制作する障害者の調査・発掘、専門家による評価委員会での評価、企画展により発信等を行う。

成果につながる取組事例としては、作品や作者情報の収集、評価ポイントの明示、市民による身近な場での展示・発信等が挙げられる。

(4)モデル事業連携事務局の設置(任意事業)

連携事務局を1か所設置し、実施団体間の連絡調整、成果報告のとりまとめを行うほか、「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた障害者の文化芸術活動を推進する全国ネットワーク」など関係団体との連携を図る。

加えて、平成28年度は、過去のオリンピック・パラリンピックの文化プログラムの調査・研究を行い、2020年東京大会の文化プログラムの効果的な展開について検討を行うこととしている。なお、各年度とも「社会福祉法人グロー(GLOW)~生きることが光になる~」が実施しており、各実施団体の取組状況を連携事務局のホームページにて掲載している。

5 今後の展望

モデル事業の取組で蓄積された障害者の芸術活動への支援ノウハウは、実施団体での活用に留(とど)めることなく、今後、未実施の自治体を含め、全国的に普及させることが重要である。

このため、厚生労働省では、平成29年度概算要求において、モデル事業で培った支援ノウハウを全国展開するための新規事業として「障害者芸術文化活動普及支援事業」を要求している(図2参照)。

本事業では、都道府県レベル、ブロックレベル及び全国レベルの三層構造による重層的な支援体制を構築することとしており、今後、全都道府県での実施を視野に、障害者の芸術文化活動の更なる振興を図るための基幹事業として進めて行くこととしている。

障害者の芸術文化活動支援に携わる関係者の皆さまにおかれては、本事業の今後の動向にご注目いただきたい。

(しながわふみお 厚生労働省障害保健福祉部企画課自立支援振興室室長補佐)