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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年10月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

学校で福祉機器を体験しよう!

西村顕

1 経緯

横浜市総合リハビリテーションセンターでは、医療職や福祉職がチームを組み、障害のある方の自宅を訪問して住宅改造相談をする事業を行なっています。その中で、私は建築士としてチームに加わり、手すりの位置やスロープの角度、福祉機器などを本人や家族が使いやすいように考え、図面やイラストなどを用いながら家族や工務店、設計事務所に内容を伝えることを主な仕事としています。

住宅改造の相談の中で、低酸素脳症や重度の脳性マヒのある子どもがいる家族からの依頼があります。相談の多くは、子どもが大きくなり、保護者の抱っこによる介助が大変になってきたので、自宅に介助用リフトの導入を検討したいという内容です。ただ、子どもといっても20歳を過ぎている成人の対象者もたくさんいます。30歳代の娘さんを60歳代の父親が毎日、抱っこでお風呂を入れていることもありました。このような現場に立ち会うたびに、乳幼児期から同じような介助が何十年も継続されている現状に違和感を覚えることがしばしばありました。

もっと子どもが小さいうちから、福祉機器や住宅改造の情報が適切に保護者に伝わっていれば、もう少し違った介助方法や住まい方があるのではないかと思うようになりました。

2 アンケート調査の実施

そのような重度の障害がある子どもの住まいを少しでも改善したいと考え、まずは福祉機器に対する保護者の意識を探るために、横浜市内の肢体系特別支援学校にアンケート調査を依頼しました。

その結果、とても興味深いことが分かりました。多くの保護者は、リフト自体の存在はチラシや展示会等でよく知っていることが判明しました。ただ、子どもにリフトを体験させたことがある人はわずか1割だったのです1)

リフトがあればすべて解決できるとは思っていませんが、私はこれまでの経験から、リフトの設置環境や子どもの身体機能と吊り具との適合、保護者の操作能力等の条件が揃えば非常に有効に使え、家族のライフスタイルまでも改善できる有効な福祉機器のひとつであると確信していました。

そこで、この結果を特別支援学校の校長先生に伝えたところ、学校の中でリフトの体験会を開催することができるようになりました。

3 リフト体験会

2011年度から「リフト体験会」と称して、横浜市内の特別支援学校を巡回することを始めました。一番初めの学校では、10組の家族が体験しました(写真1)。参加者が初めてリフトを体験する場合は、リフトを体験する前と体験した後でアンケート調査を行い、体験による心理的な変化を分析しました。その結果、体験前後で保護者の意識が大きく改善されることが分かりました。リフトの印象や操作感などが体験前と比べると有意に向上しているのです1)。このような調査を行いながら、横浜市内のすべての特別支援学校でリフト体験会を実施してきました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

その後、少しずつではありますが、学校に通う子どもからのリフトの相談件数は増え、自宅に導入する家族が増え始めました。リフト体験会が保護者の意識を変えるひとつのきっかけとなったのではないかと思います。

4 リフト体験会から福祉機器体験会へ

当初、リフトは特徴の異なる3社のリフト(据置式、固定式、掛け替え方式)を用意していたので、同時に体験できるのは必然的に3組になります。リフトの体験は、1組あたり30分程度時間を要します。ですから、リフト体験会に参加してもリフトを体験していない間は、待ち時間がとても長くかかります。1校目の体験会の時にそのことに気づき、2校目からは、待ち時間対策として、タブレット端末や座位保持クッションの展示を行うようにしました。そして、その待ち時間対策として展示した福祉機器の種類がどんどん増えていき、段差解消機や階段昇降機、スヌーズレン、訪問入浴体験、福祉車両の展示まで拡大していったため、途中から「福祉機器体験会」と名前を変えて実施するようになりました。

展示スペースも初めは、校内の教室やプレイルームだったのですが、学校によっては体育館で行うこともあります。また、横浜市内の特別支援学校だけではなく、近隣の川崎市や相模原市、鎌倉市の特別支援学校でも希望を募り体験会を実施してきました。2011年度は5校でスタートした体験会は、2016年度には11校(予定含む)まで拡大しました。

また、最近ある調査で知り合った盲学校に通う子どものお母さんから、盲学校は肢体不自由を重複している子どもが多くなってきているが、リフトなどの福祉機器の情報がなかなか入ってこないという話を耳に挟みました。これまで盲学校は特に対象にしていなかったのですが、そのような話を聞いたため、2016年8月に神奈川県内の盲学校の児童生徒を主な対象として、神奈川県ライトセンターで体験会(生活用具を体験しよう!)を実施しました(写真2、3)。参加された方からはとても好評で、まだまだ福祉機器に関する情報が隅々まで行き届いていないと感じることができました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2、3はウェブには掲載しておりません。

5 大都市の大規模な展示会より身近な学校の展示会

「毎日忙しいので東京の福祉機器展まで行くのが大変。通い慣れている学校で体験できるのはありがたい」「東京で開催する大規模な福祉機器展は、入場者が何万人もいるので、子どもと一緒に行った時はお互い疲れて体調を崩したことがある」等々。当初は、リフト体験の効果検証を目的で実施していたのですが、参加の保護者からこのような感想や意見があったのです。

私はこの体験会を通して、保護者は福祉機器の情報が知りたくても、なかなかその情報にアクセスすること自体が困難だとい う現状を知ることができました。また、学校で福祉機器の展示会をすることは、教員への情報提供にもつながります。教員が福祉機器に対する知識を得て理解してもらうことは、子どもの自立支援や保護者との情報共有という視点からもとても重要だと思います。

6 今後の展開

特別支援学校で福祉機器体験会をするということは、参加者全員が障害のある子どもの保護者になります。この体験会を利用して、福祉機器のモニターをする取り組みを併せて実施したことがあります。バスチェアやカーシートなど国内で入手できる用具を集めて展示し、保護者からの生の意見を集約しました2)。情報を分かりやすくまとめ、再度、保護者や支援者に還元するという取り組みはとても好評でしたので、今後も体験会の機会を利用しながら有用な情報を集め、積極的に発信をしていきたいと思います。

福祉機器体験会をこれからも継続していくには、費用対効果の検証や実施体制等の問題がいろいろあります。しかし、身近に福祉機器や住宅改造の情報にアクセスできるシステムを構築し、将来を見据えた支援や、保護者や支援者(教員等)の意識を変える取り組みはますます必要なことだと痛感しています。このような取り組みが日本全国に広がっていくことを期待しています。

(にしむらあきら 横浜市総合リハビリテーションセンター研究開発課)


【参考文献】

1)西村顕他、介助用リフトに対する肢体不自由児の保護者の意識、日本建築学会計画系論文集77(676)、pp.1275―1282、2012.6

2)「福祉用具チェーーーック!!子ども用バスチェア」リハビリテーション・エンジニアリングvol.28 No3、pp.145―146、2013.8