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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年10月号

列島縦断ネットワーキング【鹿児島】

吉野温泉(公衆浴場)を通じて、地域社会とつながる実践づくりをめざして
~社会福祉法人麦の芽福祉会虹のセンター~

浜崎倫洋

2014年5月、吉野温泉において障害をもつなかまたちが働き始めました。

鹿児島市吉野町にある公衆浴場・吉野温泉内に多機能型事業所(生活介護+就労継続支援B型)虹のセンターが、有限会社協同スペース未来より委託を受け、これまでよりも地域に開かれた温泉施設とするべく、受付・清掃業務、ディスプレイ作成、イベント企画等広報業務を行うべくテナントとして入り、作業を行なっています。

障害をもつ地域の方も利用しやすいように、スロープを設置し、温泉内の設備等もリニューアルして新たな出発を行いました。リニューアルオープン当初は、「温泉の設備がきれいになって良かった!」「明るい雰囲気になった」などの嬉(うれ)しい意見とともに、「障害者が一番風呂に入っている」「障害者と一緒に風呂に入るのか」など嫌悪感を示すお客様もいらっしゃいました。

とにかく、私たちの活動と障害をもつ人たちのことを知ってもらうことが必要なことだと考え、作業所の日課表を見やすい場所に設置し、受付・清掃を行うなかまの明るく、一生懸命な姿を見ていただくうちに誤解も解けていきました。作業をしているなかまに「ありがとう」と声をかけてくださり、なかまも含めて談笑する風景が温かい空気を作り出し、「作業が休みの土・日は、寂しい」と言ってくださる方もおられます。障害をもつなかまたちが温泉にいるのは、当たり前の風景になっています。

障害をもつなかまたちの作業は、3つの作業班に分けています。受付・清掃を行う温泉業務班。イベント企画・販売を行う企画販売班。広報・創作を行う広報デザイン班です。温泉業務とは関係のない作業も一部行なっていますが、温泉をもっと良くする、人が集まり楽しんでもらうことを虹のセンターの使命として仕事を行なっています。

温泉業務班は、精神や知的障害をもつなかまを中心にしています。窓や靴棚を清掃してロビー内の自動販売機や椅子、マッサージチェアなどをアルコール除菌で拭きあげていく作業を行います。その後、脱衣所の棚やかごの掃除、浴室内の鏡・カランの磨き作業などを行います。毎日、同じことの繰り返しで大変な面もありますが、お客様とのふれあいは一番多く、顔なじみとなり談笑する機会の多い作業です。受付は、身体障害のなかまも加わり、温泉スタッフと共に受付業務を行なっています。チケットを手で受け取れなくても「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」のあいさつと笑顔で温泉の顔となっています。

企画販売班は、イベントを行い、温泉利用客以外の方を呼び込む活動を行なっています。障害をもつなかまと共に年間計画を立てながら、レストスペースでの展示やワークショップを行なっています。活躍しているアーティストの方にも参加してもらいながら、その方の作品の展示販売もしつつ、なかまたちとのコラボ作品を作りだしています。これまで、書家・粘土作家、ガラス作家、石絵作家とのコラボ作品は好評で、多くの方に興味関心を持っていただくとともに、なかまたちの素敵な感覚をアーティストの方が評価してくださることで、さらになかまたちも世界を拡げています。

広報デザイン班は、玄関内とロビー・各脱衣所に置かれている“わっぜぇポスター”の制作、受付上のパネル、フェイスブック更新などを行なっています。“わっぜぇポスター”は、WHAT DAYと鹿児島弁のわっぜぇ=すごい、をかけて、今日は何の日をお知らせすために作成しています。1年目は、記念日。2年目は、出来事。3年目となる現在は、食べ物と毎日の情報提供を行なっています。毎日を楽しみに見ていく方も多くなっています。

関連してフェイスブックの更新は、ポスターの内容などをお知らせしています。パソコンの作業をしたいという要望はありながらも、なかなか展開できずにいましたが、フェイスブックを更新することで、ネット上で多くの方々とのコミュニケーションもとれるようになっています。

受付上のパネルは、季節に合わせた内容で2~3か月交代で入れ替えています。これは、いろんななかまが関われるもので、折り紙を使ったり、なかまの絵を拡大して貼ったりしながら、常時考えて制作しています。入れ替え時のパネルが無いさみしい雰囲気と、入れ替え時の感動は毎回あります。他にも回数券の作成もデザインから変更して作成しています。月に300冊ほどは出るものなので、在庫を切らさないように手作りで、印刷して、カットして束ねてと丁寧に作業を行うようにしています。1,000冊ほどを作成して納品しています。

障害の種別・程度や年齢も異なる集団ですが、温泉に関わる作業ということで、毎日の仕事を行うことができています。障害があっても働くことができる。吉野温泉をより良い、楽しい温泉にしていくということができるように、障害をもつなかまと共に働き続けていきます。

地域の公共施設に福祉施設が入ってきたことで、お客様はもちろんですが、初めはもともと働いていた温泉の職員も身構えていました。どんな人たちで、何をする施設なのか?よくわからない存在であったと思います。しかし、一緒に働くようになってからは、障害者とどう接すればいいのか?ということを、純粋に一生懸命に働いているなかまたちの姿から、その人たちなりの関わり方を作り上げてきているようです。

障害者だからといって、何か特別な存在ではなく、まずは人として関わってもらうことができるようになったことで受け入れてもらえたような気がします。もちろん、障害が元でのトラブルもありましたが、そんな時は障害の説明を行うことで、トラブルの経緯なども理解してもらっています。施設職員ではない人たちとも、日常的に当たり前に関わることができる環境に居ることが、障害をもつなかまたちにとって、地域で暮らしている・働いている実感を持つことができています。

これからも、もっと多くの障害をもつなかまたちが、ロビーで談笑しあったり、喫煙所で世間話をしていることが、当たり前の風景として、続いていけるように実践を続けていきたいと感じています。

(はまさきのりひろ 虹のセンター施設長)